アパレルブランド「KUDEN by TAKAHIRO SATO」の佐藤貴浩代表にインタビューを行いました。

暮らし
© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.

アパレルブランド「KUDEN by TAKAHIRO SATO」(以下KUDEN)の佐藤貴浩代表にインタビューを行いました。発達障害を持つ息子の将来を見据えて悩みながら自分なりにブランドを育てていく佐藤さんの道のりは苦難の連続です。

離婚で親権を失い、前職の会社経営は失敗し、ブランドを立ち上げても最初は上手くいきませんでした。それでも軌道に乗ってKUDENのブランドは、幾つかのこだわりを貫けるほどに成長します。 そのこだわりの一つは、障害者などマイノリティを殊更前面に出さず、いちアパレルブランドとして売り込んでいく姿勢です。

長く着られる服を作る

「アパレルをするにあたって二つ問題がありました。一つは障害者雇用の場を作るということ。もう一つは、後継者不足・短納期・低賃金といったアパレル業界そのものの厳しさです。これをどう乗り越えて障害者に高い工賃と働く技術を与えていけるかがずっとありました。これらを踏まえてアパレル業界に参入するにあたり、考えたのが海外市場です。日本で始めるより海外で地力をつけてから日本に戻る戦略を立てたわけです。服のコンセプトは、母の遺品を整理している最中に見つけた形見の着物からでした」


──大手は無茶していますよね

「(人件費を抑える経営への)アンチテーゼとして、修繕して長く使えるサービスとか原価をきちんと出すことなどに努めています。大手のやり方は厳しく、知っている限りで数件は縫製工場が潰れており、残る工場も高齢化しています。どうにか技術を障害者や若い世代に繋げて海外での仕事を安定させられる仕組みに出来たらな、というのが今の課題ですね」

© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.

アメリカでのスタート

──事業の始まりが英語圏とのことですが

「最初はアメリカのキックスターターでジャケットだけから始めました。デザインしか出来ていないにも関わらず100万円以上集まったのですが、成功目前でキックスターター側から一方的にキャンセル通告を受けました。理由は言われていませんが、たぶん会社を潰した経歴が響いたのだと思います」

「既に生産は始まっており、このままでは報酬が払えません。そこで支援してくださる方々一人ひとりに『申し訳ありませんがもう1度うちのサイトからPayPalで買い直して頂けませんか』とご連絡しました。そうしたらほとんどの方が買ってくださいました。息子のためにブランドを立ち上げた背景にも共感して頂き、これらが海外市場の原点となっています」

「今はコロナ禍で、アメリカやカナダとの国際郵便は止まったままです。海外のメディアから取材を受けたり社会的問題を解決する為のデザインとして賞を頂いたりしましたが、海外への発送への手段が絶たれてしまった為想定よりも前倒しで日本への上陸を決めました。日本でクラウドファンディングを実施し、170万円ほどのプロジェクト達成ができています。客層は今のところアメリカ・カナダ・ドイツ・フランス・イギリス・シンガポール・マレーシア・香港が多いですね」

© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.
© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.

──英語は得意なのですか

「昔、外資に勤めていたことがあり、片言で喋りながら英語圏の考え方や仕事の進め方などを学習していました。喋れないにせよ書くことは出来ると思います」

──日本と海外の販売比率はどのくらいですか

「半々ですが、今はコロナ禍でアメリカ・カナダの市場が閉じているので従来の半分になっています。自分含め3人だけでデザインやHP運営や商品発送を行い、現場のスタッフにも応援されながら、小さい所からコツコツと地道にやっています」

© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.

障害者を前面に出さない

「障害を持つ子の親でもあるから、障害者が作るセレクトショップや障害者用ファッションはあっていいと思います。障害者のために作ればこれでいい、ではなく『みんなが着てるアレを自分も着てみたい』が実現してこそだと思います。例えば憧れのブランドを着てみたいというような。販売する服は車椅子の方でも着やすくなっていますが、障害者用とは書いていません」 「障害者を前面に出せば分かりやすいでしょうが、長く続けていくにはお涙頂戴ではなく、いいものを作るブランドに自然とマイノリティの人たちも働いているという風にブランドを持っていきたいです。障害者を前面に出せば新聞やファッション雑誌など取り扱う方も『社会貢献するブランド』と切り取りやすくて楽でしょう。しかし、長く続けるにはそれに頼るようではいけませんし、障害を持つ子の親としては避けたい気持ちがあります」

──国内で展開する上で広めていくビジョンはありますか

「国内で始めてからは間もないですが、客単価で言えば日本は高いほうです。企業体力や在庫リスクの観点から受注生産を中心にしておりますが、それでもリピーターがいらっしゃいます。受注である以上、競合と被るデザインにならないよう努めていますね。大量に作れる大手であれば、初心者にボタンの穴だけ延々空けさせる部分工程が出来、分業で品質を高めることが出来る海外の人件費の安い大規模な縫製工場を利用出来ます。それが出来ない自分たちは、大手がやらないデザインや国ごとの需要に注目してチャレンジしていますね」

© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.

──分かります。大手が扱わないニッチな隙間を狙っていくしかないですよね

「他のブランドがやりにくい所で差別化を図り、大手がやってきたことでも自己否定が出来ない部分に学んでいくというのは一生懸命やっている感じですね」

──いずれお子さんも一緒にとのことですが、絵が好きだからデザイン部門という感じですか

「まだ10歳なので最終的にどうなるかは分かりません。デザインもいいですし、染色もいいですし、縫製職人としてミシンを動かすのもいいでしょう。あとは社員寮も導入したいと思っています」
「実現はかなり先ですが、デザインチームに発送倉庫に縫製工場、あとはグループホームのような社員寮もあって、地域コミュニティとも連携しながら運営できればいいなと思っています」

──それに向けて今一つ一つの販売をしている感じですね

「自分がいなくなってからも維持継続して貰えればいいですね。70歳で亡くなったとしても息子はまだ35歳です。継続とは組織全体の文化として障害者など分け隔てなく会社全体でお客様に喜ばれつつ存続していくチャレンジだと思います。助成金だけでは足りなくなりますので、長く着られたり愛されたりする流行り廃りのない商品を目指し長い目線でブランドを育むことは考えています」

© 2021 KUDEN by TAKAHIRO SATO Since 2017 All Rights reserved.

まとめ

──今後も受注生産が中心になりますか

「困りごとに応じて受注の方針を幾つか用意しています。早く欲しい方は定価で、割引で欲しい方は製作に2ヶ月待っていただいて、自分好みのオプションがあればその分定価にプラスして、などとプランを立てています。そうしてアパレル業界の宿命である大量廃棄ともバランスを取っていくつもりですね」

「服には、着ることによって気持ちを上げたり自分を表現したりする手段でもあると思います。『誰かのために頑張るぞ』『ちょっと気持ちを上げたいときに』着て欲しいというメッセージも込めていますね。『あなたは自分の信念を貫く“サムライ”だよ』と応援する気持ちで服を作っています」

──最後にメッセージを

「かっこいいブランドではなく、悩める一人の父親が試行錯誤しているブランドとして伝えてもらえれば嬉しいです。デザインを着物に寄せたのも海外でスタートしたのも全ては自分の死後も息子の人生が続くからです。日本は高度成長期もバブルもとうに終わり、二度とああいった好景気は来ないだろうと思っています。悲観的かもしれませんが、そういう気持ちで息子や同様の障害を持つ子らが働いて生きていられる社会にしたいですよね」

「親亡き後を生きるにはお金も必要です。それを一度失敗した駄目な父親が、一生懸命事業を続け施設を作っていきたいという思いを伝えて頂けると嬉しいです」

KUDEN公式ページ
https://ku-den.jp

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

「福祉をもっとわかりやすく!使いやすく!楽しく!」をモットーに、障害・病気をもつ方の仕事や暮らしに関する最新ニュースやコラムなどを発信していきます。
よろしくお願いします。

発達障害

関連記事

人気記事

施設検索履歴を開く

最近見た施設

閲覧履歴がありません。

TOP

しばらくお待ちください