映画『義足のボクサー』主演の尚玄さんに聞く~義足を強調せず、一人のボクサーとしての生き方を描く

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© 2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

フィリピンのボクシング事情


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──日本では義足だとプロボクサーになれないという場面がありましたが、フィリピンでもそうなのでしょうか

「怪我をさせたくない思いは理解していますが、日本では前例のないことに対して消極的な所があると思います。フィリピンなら認められているという訳ではありませんが、主人公のモデルになった津山さんが作ってくれました。彼とてプロのライセンスを取れる確信はなく、取れる可能性を頼りにフィリピンへ渡った訳です」

──見ていてドキュメンタリー映画のようなところもありました。協会などは本物でしょうか

「協会のシーンは別の場所で撮ったものですが、俳優さんが演じていないので本物に思えたのでしょうね。監督はボクサー役の俳優とプロボクサーを混ぜて撮影しました。ドキュメンタリーのようなリアルさは狙ったものです」
「津山さんはライセンスこそ取れましたが、一度でも負けたら剥奪という厳しい条件付きでした。それでも彼は、アマチュア3勝などの試練を乗り越えました。彼の物語を聞いて感銘を受けた僕は、これが誰かの夢を後押しできるのではないかと思ったのです。話を聞いていて『一人の人間としてリングに立ちたい』という思いが伝わってきました」

義足を強調しない


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──あまり義足を強調せず、一人のボクサーとして描かれていますね

「メンドーサ監督の描き方で好きな所は、たまたま義足なだけで一人の男の挑戦として描いている所です。東京国際映画祭で先にご覧になられた方から、義足が活かされていないというコメントも頂きましたが、寧ろそういう反応を求めていました」

──今回義足のボクサーを演じるにあたって意識したことなどはありますか

「監督は台本を見せないので、何を求められてもいいように引き出しを多くする必要があります。旧友のツテで義足の元陸上選手を紹介してもらったのですが、津山さんと同じ右義足なのに付け外しのタイミングや坂の上り下りの際に細かい所に違いがあり、その中で理解が深まるよう研究させてもらいました。その方は撮影中でも参考になる動画を送ってくださり、今でも感謝しています」

──メイキング映像に関してどう思われましたか

「僕自身はとても感慨深いものがありました。この映画自体が日本とフィリピンの架け橋になるプロジェクトであることを表しているように感じました。監督はまた日本で撮りたいとも仰っており、本当に日本が好きなんです」

もう一つのテーマ


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──貧困というテーマもあったと思うのですが、実際にフィリピンに行ってどのように感じられましたか

「撮影前にローカルのジムで合宿トレーニングをしていたのですが、その中で『家族を養うためにボクシングをしている』という方が結構いました。」
「フィリピンから見て、海外からボクシングをしに来ること自体が恵まれており、スタートライン自体が違います。こうした部分もメンドーサ監督は描いていたのではないでしょうか」

──一番印象に残っているシーン、演じて良かったシーン、感慨深いシーンはありますか

「ネタバレにならない範囲で言えば、コーチと対面するシーンでしょうか。(コーチがキーパーソンである以上)そこが核となる部分だと思います。今回の映画をやるにあたって、自分自身の父親との過去や感情に対して深い所で向き合う必要がありました」
「長い間向き合えなかった父親との過去を、クランクインの前に清算しました。それがコーチとの関係性を描く上で活きてきたと思います」

障害者を当たり前の存在に


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──今後のパラスポーツへの望みなどはありますか

「人間は誰もがどこか欠けた部分があり、それを埋めようとするものだと思います。そういう意味では、父親のないボクサーと、息子と疎遠なコーチがそれを補い合うドラマだと思いますし、義足を強調しないことも含めて、社会がそうあるべきではないでしょうか。パラリンピックは、オリンピックの熱が冷めてから続いている印象が否めません。せっかく東京でパラリンピックが開催されたのを、一過性のブームで済ませて欲しくはないですね」

──どうすれば障害者を当たり前・自然の存在に出来るのでしょうか

「すぐに人々の意識を変えるのは難しいと思いますが、少なくとも僕ら映画人ができることは、マイノリティのキャラクターをマジョリティの目線から特異な存在として描かないということではないでしょうか。人種や国籍、性的マイノリティの人々が当たり前に存在する、そんな描き方をしていくべきだと思っています」

『義足のボクサー GENSAN PUNCH』
6月10日(金)大阪ステーションシティシネマほか、全国公開
(近日)京都みなみ会館にて
© 2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

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