クローンと命の倫理を描く映画『徒花-ADABANA-』が10月18日から公開〜甲斐さやか監督インタビュー
エンタメⒸ2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ
10月18日(金)に公開される映画『徒花-ADABANA-』は、臓器移植のためにクローン人間が使用されることが日常となった近未来を描いたSF作品です。この作品は、命の価値や倫理について深く問いかける内容となっています。甲斐さやか監督に、映画が提示する「命」のテーマについてお話を伺いました。
作品について
作中の世界では、富裕層向けに育成された「それ」と呼ばれるクローンが存在します。クローンたちは本人に臓器を提供するためだけに生かされており、オリジナルに命を捧げることが最大の幸福だと教えられています。
Ⓒ2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ
主人公の新次も、臓器移植が必要な病を抱える富裕層の一人です。外から見れば順調な人生を送っているように見える新次ですが、手術前の不安を和らげるため、臨床心理士のまほろとカウンセリングを受けます。母親からの「強くなりなさい、そうすれば守られる」という教えや、自由に海辺で遊ぶ謎の女性の記憶を掘り起こすことで、新次の不安はさらに大きくなります。
「『それ』に会わせてくれ。そうすれば不安が紛れる気がするんだ」やがて新次は、自身の「それ」と面会する禁忌を犯します。見た目は全く同じながらも、全く異なる内面を持ち、知的で純粋な「それ」に対面した新次は、どのような選択をするのでしょうか。
「それ」と呼ぶ理由
Ⓒ2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ
──「それ」のネーミングや、上流階級しか使えない設定にどのような意図がありますか。
「世界中には分断や格差、移民問題が常に存在しています。『それ』という呼び方によって、他者をシャットアウトし、自分たちと違う存在として区別する一つの手段です。現実でも、異なる言語や粗暴な言葉遣いに対して、私たちは無意識に心を閉ざし、人間として扱わなくなることがあります。これもまた、人間の残酷な性質であり、争いの種となりうるのです。この舞台では、『それ』という侮蔑的な呼び名を通して、同じ人間として扱わない設定にしていますが、実際に対面するとその認識が大きく揺らいでしまう。現代社会の矛盾を描き出し、問いかけたい意図で敢えて冷たい『それ』という呼び方にしました。」
──自身のクローンである「それ」と対面するシーンはどのように撮影されましたか。
「本人とクローンが対峙すると手術に迷いが生じるので会うのは禁止となっていますが、新次はコネの力で面会を強行する訳ですね。ガラス越しの対面と窓から見える自然は重要なモチーフとして拘ったのですが、そのせいで“映り込み”が多くなって撮影に苦慮させられました。『それ』の役は本人と同じですが、映り込みのほうは背格好の似た人を連れて合成しています」
多様な患者たちと共に新次とまほろの成長を描く
Ⓒ2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ
──途中から時系列や場面が目まぐるしく入れ替わり、追いかけるのが大変でした。
「色々な感想を持たれるかもしれませんが、新次のような心情であるとか、現実が急激に崩れて変わってしまう体験はコロナ禍で誰もが味わった筈です。台詞の意味なども色々な解釈ができると思うので、頭で考えると難しいですが、ご自分で感じられた通りに解釈すれば大丈夫だと思います。編集自体は、前半は新次の、後半はまほろの成長物語でもあります。この作品はキャッチボールでもあると思うので、色々と感じて頂ければいいですね」
──別の患者や「それ」のカットシーンは、やはり世界観の説明でしょうか。
「自分の『それ』と出会う新次だけの物語ではなく、『それ』からの搾取を当然とする人々も描写しました。ピアニストの婦人も、その道を極めていながらどこか幸せでない人です。そちらのクローン側は、新次の『それ』と同じくメニューをこなしており、進んで生命を提供するよう教育されていますが、外を知らないクローンはそれで満たされている訳ですね。実際にクローンから臓器移植を受けるかは別としても、情報を自分の好きなように取捨選択しているのも、人口が減っているのも現実のことなので、何かしらでクローンを利用するようになっても不思議ではありません。倫理的な問いかけとしても、多様な人を描く必要があるのではと思いました」
──医師は自身の「それ」を見たことがあると思いますか。監督としての解釈をお願いします。
「あるんじゃないですかね。居るかいないかすら分からない怖さを、永瀬さんは演じ切ってくださったと思います」
映画『徒花-ADABANA-』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=xqgR2pf5Fhw
映画『徒花-ADABANA-』公式サイト
https://adabana-movie.jp/