映画の中の障害者(第15回)『リリアンのゆりかご』

エンタメ

Photo by Geoffrey Moffett on Unsplash

障害児の父親によるドキュメンタリー

2016年7月26日、相模原の津久井やまゆり園で起こった重度障害者連続殺傷事件をきっかけに、新潟では7年以上にわたり毎月1回の勉強会が行われています。私も随時参加しているのですが、先日、福岡のRKB毎日放送のディレクターであり、自閉症児の父親でもある神戸金史さんがいらっしゃり、手がけられたドキュメンタリー作品「リリアンのゆりかご」(2023年)についてお話を聞くことができました。本作は私がこの15年間、脅威と恐怖を感じていたものが詰まっています。

不寛容でつながる時代

「私の子も殺すのですか?」

津久井やまゆり園障害者殺傷事件(2016年)の犯人に、障害児の父である記者は聞く。

ヘイトデモや歴史改ざんの現場でも、共通するのは一方的な不寛容だ。

1916年公開の映画『イントレランス』は、様々な時代の不寛容(イントレランス)を同時並行で描き、「無声映画の最高傑作」と評される。物語が別の時代の不寛容へと飛ぶ時、リリアン・ギッシュが揺らす揺りかごのシーンがはさみ込まれる。

100年前の映画からテーマと構成を借用し、現代日本の様々な不寛容を同時並行で描く長編報道ドキュメンタリー。本編80分。
(RKB毎日放送HPより)

在特会の差別煽動と川崎・池上町の朝鮮人居住区。沖縄の基地問題とヘイトデモへ無関心な人々(故・翁長沖縄知事がショックを受けて立場を変えたきっかけ)。1923年の関東大震災での朝鮮人虐殺への追悼文を取りやめる都知事と歴史修正主義。障害を持つ息子・かねやんのほのぼのとした映像の後に猟奇的なヘイトスピーチがつながるなど、情報が目まぐるしく交錯するのですが、まさに当時の自身の心境風景を映しているようにも感じました。特に、関東大震災朝鮮人虐殺と相模原殺傷事件を結びつけるアプローチは見たことがなく、どちらも大きな関心を持っていた出来事だったので膝を打ちました。これらは一見、直接的には関連がないように見えますが、本作では「不寛容」というキーワードで結びつきます。

植松死刑囚の焦りの正体

相模原殺傷事件の植松聖死刑囚とも面会します。そこで、植松は神戸氏に対し、なぜ知的障害者の息子を安楽死させなかったのかと責めますが、その後のやり取りで、植松は自死すべきは障害者ではなく、「社会の役に立たない人間」と明言します。当然、そこには心身の衰えた高齢者も含まれて、狂気以外の何ものでもないのですが、次の会話では、その狂気に至る彼の焦りが垣間見えます。

神戸氏「もしかして、自分は役に立たない人間だと思っていませんでしたか?」
植松「大して存在価値のない人間だと思っています。」
神戸氏「もしかしたら、あなたは事件を起こすことで、自分が役に立つ側に立ったと思ったのではないですか?」
植松「少しは役に立つ人間になったと思います。」

この植松の告白とそれまで映されていたヘイトデモなどの「不寛容」に共通しているのは、「自分が役に立つ側の人間だ」と思いたい焦りではないかと考えさせられます。誰かを劣っていると貶めることで、自分の価値が底上げされると錯覚する。単に他者を傷つけること自体に喜びを感じる人もいますが、多くの不寛容が上記のような焦りから来てるとすると、社会構造そのものに問題があるようにも思えます。確かにヘイトデモの参加者の表情を見ると、誰でもいいから攻撃できる何かを渇望していて、それができないと自己崩壊してしまうように見える。そして、その不満を権力維持に利用する勢力がいることも本作で示されていて、暗たんたる気持ちになります。

社会に分かりやすく役に立つとされること——例えば働いてお金を稼ぐ——もいつかは誰しもできなくなる時が来ます。そうなったら死ななければならない社会。そんな殺伐とした社会は嫌だというのが、大多数だと思いますが、そうした価値観は生活に根深く入り込んでいて——幼少期から必死で集団に個を埋没させ続ける——変えるのは容易ではありません。

不寛容の行き着く先

植松は絵が得意で今でも描き続けているのですが、その内容に変化があることが終盤示されます。刑務所内で看守たちが雑談をしている中で、独房内の男が「助けてぇ…助けてぇ…」と連呼するだけの漫画です。現在の植松の心象風景なのでしょうが、かつてやまゆり園の支援員だった植松が、今度は閉じ込められる側に逆転していることは非常に示唆的です。

神戸さんは学生時代に歴史学を専攻していた経験から、さまざまなピースを当てはめるとこれからの時代は「悲劇的な未来」が予測できると話されました。その言葉は、今の世界の状況を見ても非常に重くて、絶望的な風景が広がりますが、まずは直視することから始めるしかないのでしょう。アマプラなどのストリーミングサービスでも視聴可能(有料)ですので、ご覧になることを強くお勧めします。

「ゆりかごはたえまなく揺れ、過去と未来を結ぶ。」
(映画「イントレランス」より

関連情報

リリアンのゆりかご(RKBオンライン)
https://rkb.jp/tv/lillian/

映画「イントレランス」(Wikipedia)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki


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MXU

MXU

新潟県在住の映像作家。内部機能障害。代表作「BADDREAM」(2018年)。
多様性をモチーフにした映像制作プロジェクト「NICEDREAMnet」で毎月作品を発表しています。
https://www.youtube.com/channel/UCBtMFlHg3tJidPZTrjRLoew

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