高級チョコレート専門のB型事業所「Nine Chocolate」にインタビューしました
暮らし 仕事高級チョコレート専門でカフェも併設しているB型事業所「Nine Chocolate」にインタビューさせていただく機会を得ましたので、その内容をご紹介します。住み慣れた北海道から遠く離れた大阪で、高級チョコレート専門店として福祉施設を開いた皆様の来歴や気持ちなどを伺いました。
高級チョコを地域に開く
──事業所を始めるにあたっての意気込みは何かありましたか
「普段目にしないオシャレなチョコレートを、もっと身近にしていきたくて、そんなチョコレートを利用者たちと作って、地域の皆に愛される存在を目指していきたいと思います」
──利用者にはどのような業務がありますか
「仕事内容は色々ありますが、利用者の要望に合った業務についてもらいます。人前に出られない方もいれば表に出るのが向いている方もいるでしょう。接客したい人は接客、そうでない人は厨房や包装といった具合です」
──森ノ宮駅やキューズモールが近くて素晴らしい立地ですね
「大阪城公園も近くにあり、散歩される方も多いです。散歩道の途中にあるチョコレート屋さんとして見かけてもらえればと思います。涼しくなれば呼び込み業務も入れたり、ウッドデッキで催し物を開いたりすることも考えています。テラス席も導入したいですね」
「チョコレートづくりへの想いと障害者支援が上手く合わさればいいなと考えています」
店を始めるまで
──過去の職歴はどうでしたか
「ずっとチョコレートの製造関連に勤めていました。その時の先輩が今の社長と知り合いで、紹介されて夫婦ともに入社し今に至ります」
──前職はA型事業所をなさっていたそうですが
「A型事業所は2か所経験してまして、最初は飲食店でホールや厨房を教えてきました。そこでは一般就労がしたい方のために移行支援も並行し、パソコン操作・履歴書の書き方・電話応対なども教えていました。次は内職系の事業所でしたが、自分が入ったからには年に何人かは就職者を出そうと思い、工賃や給料の話をしたり施設外業務を受けたりしていました。このマインドを続けていきたいです」
「お菓子屋をやっている以上、福祉とは必ずどこかで交わるものだと思っておりました。その時が想像よりも早く来たなという感じです」
──福祉を始めるうえでの不安や戸惑いなどはありましたか
「あまり深くは悩んでおりません。利用者らへの理解はまだまだですが、困っても頼れる人がいますし、そもそも『無理だな』とは思いません」
「福祉の業界を知らない分、先入観がないのです。利用者の体調や距離感で失敗することはあるかもしれませんが、そういう失敗から見極められるようになれればと」
「福祉に詳しいと却って出来ない部分も、二人のバランスで上手にやっていくのではと期待しています」
──福祉の前例に囚われない斬新なチャレンジだと思います
「この業態は、福祉だけやっていた人が急に始められるようなものではありません。今まで福祉をやっていないからこそ出来ることだと思います。ある意味自分たちなりの福祉を確立させていきたいです」
「北海道と大阪では福祉の雰囲気がどう異なるのか、経験や知識が通じるのか心配でした。大阪は利用者同士の距離感が近く、友達同士でするような会話さえしています。北海道はまさに『作業所』だったので、ギャップを感じました」
「どの距離感がいいのかは人それぞれなので、堅ければいいというものではないですね」
──本来、健常者も障害者も仕事に望むものは同じはずですよね
「『施設に毎日行かなくては』という気持ちでいるよりも、『今日もお菓子教わりに行こう』という心構えでいた方が行きやすいと思います」
──マネージャーの視点ではどのようなお店にしたいですか
「障害者や健常者、区別や差別といった言葉は嫌いなので、自然に人が集まる場所になって欲しいです。福祉の事業所というよりも、『森ノ宮でチョコレートを売っているあそこ』と呼ばれるような店でありたい」
福祉だからと妥協しない
──チョコレート中心のカフェは珍しいですね
「チョコレートという食べ物を専門的に扱える人はそこまで多くありません。生菓子屋さんやパン屋さんは見かけても、チョコ屋など見かけないですよね。チョコレートの知識はあまり普及しておらず、故に難しいと認識されている節があります。今までチョコレートの勉強をしてきて、福祉との相性がいいと思っていますし、普及するだろうという希望も持っています。軌道に乗ったらもう一店舗作るなどして広め、色々なものが集まる面白い場所にしていきたいですね。福祉だからという偏見を抜きにした、良い場所にしていきたい」
──見た目は“福祉施設らしさ”から離れるとのことですが
「福祉施設と知ったところで、味が良ければまた来たくなるものです」
「『こんなチョコレートが福祉の事業所で食べられるのか』という、後からのサプライズですね」
「あとはチョコレートへのこだわりです。中途半端な商品で『この程度か』と思われるのではなく、徹底的にやり切って『B型事業所の障害者でもこれほどのものが作れる』と誇示したい」
「お菓子を扱う事業所は大抵、障害者でも作れるという前提でやっているので、出来上がりは『福祉っぽい』わけです。ここでは作業こそ各人に合わせますが、お出しするものは一流を目指します」
「いい材料を用いながら格安で売るような事業所にはなりたくなかったです。そうでなくては利用者の為になりません。一流らしい値段で、本職にも負けない味を提供したいですし、高く売れた分の利益を利用者に還元したくもあります」
──福祉ゆえの妥協には甘えないということですか
「(福祉だからこのぐらいでいいかという姿勢は)絶対に嫌ですね」
「A型B型どちらも内職ばかりの事業所は多いですが、遊び半分で適当な利用者はどうしても出てきます。そんな時、『適当な作業では先方からの信用を失い、仕事が貰えず事業所自体が潰れる』と説きます。でないと作業のレベルは上がりませんし、仕事の受注さえ出来なくなりますそれをどこまで伝えるかは難しいですが、分かっているべきだと思います。特にA型は雇用契約を結んで時給が出ているので尚更です」
「その働きで何万円分のチョコが生まれたか伝えた方がモチベーションも上がりますし、イベントなどで販売した成果があれば非常に嬉しいでしょう。なんとなく事業所に通ってなんとなく作業していたのが、お金の動きが分かると違って見えますし、他にやりたいことが出てくるかもしれません。その辺りは伝えていきたいです」
──人の集まる場所で開いたからには賑わいたいですよね
「やりたいことや考えを言語化して伝えられるのが二人の強みなので、賑わうでしょう。毎日これをこなせばいいという最低ラインはあるかもしれませんが、その最低ラインの向上について従業員含め考えたことはあるでしょうか。日々向上できるところはどこかに必ずあって、小さいことでも一つ一つ向上していくという向上心が大切です。二人にはそれも備わっているなと今の話を聞いていて思いました」
──しっかりとした考えを持っておられますね
「慣れた北海道を出て大阪へ来ているので、我々も本気の挑戦をしています。我々が凛としなくては、困るのは利用者ですし、社長にも怒られてしまうので」
──具体的にやりたいイベントなどは考えておられますか
「色々出店してみたいですね。地域のイベント・百貨店・駅ナカなどでスペースを頂いたり、福祉施設のアンテナショップで出させてもらったり、オンライン販売をしたり、店舗に留まらず販路を広げていくつもりです。実際店舗に来て頂き、利用者とも話すなどして、興味を持ってもらう。様々なきっかけから来店して、常連客が増えていけばいいなと考えています」
「イベントであれば規模を問わず、福祉に留まらず様々な業種と関わり合って参加したいです。他にも障害者アートとコラボするなど、様々な挑戦もしてみたいですね。勿論、福祉関連のイベントにも参加します。何でもやっていく意気込みはあります」