親ガチャ、子ガチャ、クナウアー事件
暮らしPhoto by Brian Gordillo on Unsplash
「子は親を選べない」とよく言いますが、毒親や宗教二世の話がありふれたものとなった現在は、スマホゲームの「ガチャ」になぞらえて「親ガチャ」などと言われています。主に「親ガチャに外れたら最初から人生終了」という意味で言われることが多いですね。受験のために子どもを刃物で脅して勉強させ、仕舞に刺殺してしまう事件などは「親ガチャ大外れ」の最たる例です。
下品な言葉といえばそれまでですが、「栃木実父殺し」という強烈な事例を思うと親ガチャの存在そのものは認めざるを得ません。「栃木実父殺し」とは、父親からの性虐待に耐えかねた娘による殺人事件です。父親はただ自分の快楽だけを求め、娘を暴力で押し留めたばかりか不妊手術まで強制していました。こうした父親の悪辣ぶりと、弁護士親子の尽力によって、尊属殺人罪が違憲として法律から消えるほどの影響を残しています。
カウンターなのか平等意識なのかは知りませんが、今度は「子ガチャ」なんてものが言われ始めました。字義的に子どもが一人で勝手に堕落したという意味合いで、植松聖のような例を想定しているのでしょうか。親子間の力の非対称性を無視しているし、子どもに全て押し付けて逃げているようで、親ガチャに輪をかけて下品な言葉だと思います。もし人の親が「子ガチャ」などと口走ろうものなら、虐待を疑ってしまいそうです。
ところで、ナチスドイツの時代に「クナウアー事件」というものがありました。あるナチ党員の男が「奇形の重度障害児が生まれたのでブッ殺して欲しい」とヒトラーに嘆願した事件で、障害者大量殺害計画として悪名高い「T4作戦」のきっかけともいわれています。クナウアーという名字しか分からない男の素性が事件名の由来だそうです。
クナウアー事件は親ガチャと子ガチャのどちらにあたるのでしょうか。「親ガチャでハズレを引いた子どもが生まれてすぐ殺された」か「子ガチャでハズレを引いた父親が処理を依頼した」か、どちらにあたるのでしょうか。ひとつ確かなのは、マイナスな言葉にはマイナスの話題しか付随してこないということくらいです。類友(るいとも)ですね。