ASDと方言〜カギは言語習得のソースと対人距離

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unsplash-logo Helena Lopes

自閉スペクトラム症(ASD)と方言を巡る研究が、弘前大学の松本敏治氏によって長い間行われていました。松本氏がこの研究を始めたきっかけは、青森に住んでいた頃に氏の妻が発した「自閉症の子って津軽弁話さないよね」という一言だったようです。そこから10年間、ASDと方言の研究や調査を続けていました。

松本氏の著書「自閉症は津軽弁を話さない」が福村出版より発売されています。amazonレビューでは、方言から始まりASDの学習構造そのものまで入り込んだ奥の深い単行本と評価されていました。他にも、PDFファイルを読める環境ならば「自閉症 方言」と検索すれば松本氏の論文を見ることが出来ます。

要するに、ASDと方言の関係は、大学の先生が長年続けてきた由緒正しい学術研究だと言いたいのです。

バリバリの方言にはならない?

ASD当事者として自身がどれほど方言を使い暮らしているか振り返ってみると、年を取るごとに使わなくなってきている気がします。生まれてからずっと近畿住みなので方言の矯正は必要ないのですが、方言で話す場面が極端に減っているのは確かです。子供の時でも、無意識で共通語が出たことは何度もあります。

実際にASD当事者は方言を話さないのでしょうか。ASD当事者は完全に独自の発音体系が構築されており、非ASDと比べると抑揚やリズムの変化が小さく、空気の読めない発声になりがちです。松本氏が研究を始めるまでは、独特の言葉遣いに霞んで方言の話が出てこなかったようです。

松本氏はまず、地方独特の語彙が出ているかどうかに焦点を当てて調査を始めました。ホームの青森だけでなく、京都や鹿児島などでも同様の調査を行います。すると結果は、全国的にASDは方言バリバリではない傾向が示唆されました。

方言を習得しないワケ

ASD持ちが方言バリバリになりにくい理由の一つとして、周辺のコミュニケーションから言葉を習得しにくい特性が挙げられています。言葉の習得に際して松本氏は、身近なコミュニケーションから吸収する「自然言語」と、メディアや教科書など誰かの書いたものから吸収する「学習言語」に分けました。

大抵のASD当事者における言語習得は、現実の自然言語よりも仮想の学習言語のほうに大きく偏っています。その為、芝居がかった言い回しや文語調の語り口など、現実離れした言葉遣いで話すことになり、独特な言語体系として表れます。こと方言に関しては学習言語で取り扱っているケースが少なく、自然言語からの吸収が大半となります。

つまり、現実生活での方言コミュニケーションよりも、アニメや雑誌などの共通語セリフのほうをよく覚えるため、ASD当事者は方言バリバリになりにくいのです。理論的には逆も有り得、仮に自然言語が共通語の東京都民が「じゃりン子チエ」や「ミナミの帝王」など関西弁中心の作品に浸って育った場合は、「生まれも育ちも東京だが関西弁を話す」という状態になると予想されます。

では、関西圏で関西弁の作品ばかりに触れた場合はどうなのでしょうか。確かに関西弁バリバリで話すでしょうが、現実のコミュニケーションではなくアニメや映画から吸収しているので、非ASDと並ぶと「なんか萬田さんっぽい」などの違和感が露呈するようです。

方言で話せる距離が分からない

ASDも一枚岩ではないので、皆が共通語という訳ではありません。言語能力に遅れのない旧アスペルガーや高機能自閉症の場合は、少々遅れながらも育った場所の方言で話せるようになっていきます。実際に家族や旧友など近しい間柄であれば大体方言で会話しています。

しかし、方言とは大抵がタメ口や砕けた敬語です。ゆえに、他人との心的距離を調整しづらいASD当事者は、敬語交じりの方言すら話さない場合が多いのです。自分も大学に進んでから、方言で話すほど親しい相手がいないと常々感じていました。

心的距離の測りづらさが方言の封印に結びついているというのも、ASD当事者が方言バリバリでない原因のひとつです。距離を詰めるタイプのASDならば例外的に方言で接するのかもしれませんが。

まとめ

ASDと方言についてお話ししました。方言バリバリになりにくい原因は、周囲の会話から吸収する自然学習が不得手なことと、心的距離の測りづらさの2点にあるといえます。常に共通語で話しているからといって困ることはなさそうですが、一抹の孤独感というのはどうにも否定しがたいですね。

きっかけとなった妻の一言から10年以上も、ASDと方言の関係について研究・調査していた松本敏治氏は、自身の研究を単行本という形で分かりやすくまとめ上げています。PDFファイルが読める環境であれば論文も読めますので、本格的に興味がわいたら一度彼の研究を巡ってみてください。

参考文献

自閉症はなぜ方言ではなく共通語を話すのか—HSPとの脳機能の違いを考察する
https://yumemana.com

自閉症は津軽弁を話さない 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く|松本敏治|本|通販|amazon
https://www.amazon.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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