今しておきたいベーシックインカムの話(実験編)~心理面の効果はあったものの

暮らし
unsplash-logo Giorgio Tomassetti

◀過去の記事:今しておきたいベーシックインカムの話(懸念編)~無理ではないかともいわれる

ベーシックインカムの効果は不確定要素まみれのブラックボックスです。ほぼ全ての社会保障をベットする賭けに対し及び腰になるのは寧ろ自然な反応といっていいでしょう。

そうした不確定要素は少しずつ減っているかもしれません。いま世界各地でベーシックインカムの導入実験が企画されており、すでに実験を終了した所もあります。特にフィンランドでは2017年から2年間かけて実験が行われ、現在は結果の公表待ちです。

高い税率に定評のあるフィンランドの実験結果はベーシックインカムの存在意義すら左右する重要なデータです。暫定結果として公表されている分はあるので、正式な発表までの考察材料には困りません。さて、フィンランドの実験はどのような結果が出たのでしょうか。

最大の効果は「精神的余裕」

フィンランドが実験をしたのは2017年1月初頭から2018年12月末までのピッタリ2年間でした。内容は、失業者の中から無作為に選んだ2000人に対し毎月560ユーロ(日本円で約7万4000円)を支給するというものです。仮に対象者が就職しても減額や取りやめなどはされない条件も付いており、ベーシックインカムの構想に即した環境にもなっています。

暫定結果によると、政府が期待していた就労状況の改善には目立った影響が見られませんでした。その一方で、実験グループは他グループに比べて「健康状態がいい」「ストレスをあまり感じない」という自覚を持った人が多い結果が出ました。つまり、ベーシックインカムによって健康面と精神面から余裕が生まれたことが示唆されます。

被験者からは喜びの声が上がりました。失職してからフリーランスで糊口(ここう)をしのいでいたAさんは、ベーシックインカムによって時間に余裕ができ再就職まで漕ぎつけました。Aさんは「自由は創造性を育み、生産性に繋がって社会貢献になる」と述懐し、実験中のことを本にまとめています。

実験前はスーパーの安物探しと社会保障の申請に時間をとられていたBさんも、ベーシックインカムの実験対象に選ばれたことで変わりました。時間が空いたことでテレマーケティングの仕事を始められるようになり、カップ麺で凌いでいた頃から生活水準が飛躍的に向上したのです。

ゆくゆくは実験の範囲が一般就労者にも広がると期待されていましたが、政府にとってはあまりに重すぎて応えられませんでした。失業者2000人へ支給する段階で既に25億円もの予算が組まれていたのです。

実は打ち切りで終わった

フィンランドでの実験は2年間を予定しており、ピッタリ24ヶ月で終わりました。しかし決して円満に終わったわけではなく、寧ろ打ち切りに近い形だったそうです。元々は、実験開始から1年で被験者を一般就労者にも広げる構想がなされていましたが、そうはなりませんでした。

フィンランド政府は実験の途中でベーシックインカムを捨てて別のシステムへシフトする方向に舵を切ったのです。そのシステムとは、仕事が見つからなければ失業給付を減らすという就職を急かす鞭のような法案で、実験開始の1年後に可決されました。

高い税率と手厚い社会保障に定評のあるフィンランドでさえ、膨れ上がる予算に恐れをなした格好となります。「2年で分かる筈がない」という声もありますが、政府からすれば2年続けるだけでも消耗が激しいのです。

あちらを立てばこちらが立たず

フィンランドの実験打ち切りから示唆されるのは、理想の支給額と国の財政が全く釣り合っていないことです。生存権が守られるほどの額を支給すれば国の予算が無くなり、国の財政で出来る範囲の支給額では国民は暮らしていけないという途方もない現実を突きつけられました。

カナダのオンタリオ州でも4000人の低所得者を対象に似た実験が行われていたのですが、政権交代によってあっさり中止となっています。継続のしにくさもさることながら、非対象である納税者の不平等意識が選挙で噴出したと捉えることも出来そうです。

各地の実験で暫定的に示唆されたのは、理想の額では制度が続かず、制度が続いたとしても満足いく額を支給できないという悩みでした。最終結果の発表はまだ先なので、そこから新たに考察を重ねていくことがまず必要となりそうです。

実験の動きも途絶えたわけではありません。民間企業である「Yコンビネーター」がアメリカのどこか(2つの州であること以外は全て秘密)で1000人を対象に月1000ドルを3年間支給する実験を行うつもりです。政府が財政的に実験もできないならば民間でやってしまおうという気概はとても頼もしいですね。何度も積み重ねないと答えの輪郭すら見えてこないのが実験というものです。

似たことを長年続けているアラスカ州

ところで、ベーシックインカムを続けられる条件として「人口が多すぎない」「天然資源が豊富」の2つを以前挙げました。実はそれを満たしていると思しき場所があり、ベーシックインカムに似た制度が実際に導入されています。

その場所とは、アメリカのアラスカ州です。アラスカには「アラスカ永久基金」という制度があり、州に認められた住民全てに給付金が行きわたります。金額にバラつきはありますが、年におよそ10万円が支給されるとの事です。

アラスカ永久基金の財源は州の歳入を一定割合で信託基金にしたもので、石油や天然ガスといった天然資源が尽きた時に備えて貯めているものです。43年前から行われており、時にはアメリカの国政に貸し付けできるほど余裕があるように思えます。

これを可能にしているのは、天然資源に胡坐(あぐら)をかかず将来への備えを怠らないアラスカ州政府の姿勢です。基金の用途も限定されるなど厳しい管理もなされており、独自の財政システムを長年にわたって続けてきているのです。

ただ、アラスカの事例は豊富な天然資源や州政府の厳正な管理があってこそなので、あまり参考にはならないかもしれません。

参考文献

「おカネをただで配りましょう」ベーシックインカム実験の結果はどうなった フィンランドからの報告(木村 正人) - 個人 - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp

「ベーシックインカム」の実験 フィンランド政府が無条件で月7万円を配布|ハフポスト
https://www.huffingtonpost.jp

フィンランドの「ベーシックインカム実験」が2018年12月で中断 - GIGAZINE
https://gigazine.net

ベーシックインカムの厳しい現実 - trendswatcher.net
https://www.trendswatcher.net

アラスカ永久基金とは|金融経済用語集
https://www.ifinance.ne.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

その他の障害・病気

関連記事

人気記事

施設検索履歴を開く

最近見た施設

閲覧履歴がありません。

TOP