内閣府シュレッダーと障害者雇用~「桜を見る会」追及の余波で垣間見えた現状

仕事
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障害者雇用における現実の断片が意外な所から少し垣間見えた気がします。「桜を見る会」の追及から内閣府における障害者雇用枠の仕事模様が浮かび上がってきました。

先週、招待者名簿の処理がどうとかで野党が内閣府地下のシュレッダー視察に赴きました。説明を聞かされた段階では処理に2時間かかったとのことですが、実際に同じ量の紙をシュレッダーにかけてみると34秒で終わったため、この時間差について野党は詰め寄ります。(シュレッダーをかけるだけなら大した作業ではないのですが、その周辺作業も含めばそれなりに時間はかかります。その点は内閣府担当者も言及しています。)

そこで返された答えが、「クリップやホッチキス針を外す作業を含め、障害者雇用枠の非正規職員が処理を行っていた。」というのです。桜を見る会云々はともかく、内閣府とて障害者雇用なれば軽作業のみ受くる身なりという現実のほうは開示されてしまいました。

桜を見る会とシュレッダー

シュレッダーを見に行ったそもそもの理由である「桜を見る会」が何なのか、出来るだけ事実だけをピックアップしていきます。

「桜を見る会」というのは1952年から行われている内閣総理大臣主催の行事で、毎年4月中旬(八重桜の見頃)に新宿御苑にて行われるデカイ花見のようなものです。目的は「各界の功労者を招いて日頃の労苦を労うため」となっており、皇族・各国大使・国会議員・都道府県知事・その他各界の代表や功労者が約1万人招待されます。「その他枠」で芸能人やスポーツ選手などが招待されることがあり、その様子がメディアで流される程度の扱いでした。

なぜ今「桜を見る会」が大騒ぎなのかというと、年々膨らんでいく費用と来場者数が問題視されたからです。特に増加分の来場者として誰を招いたかが政争の主な焦点となっており、それが一目でわかる招待者名簿を野党は求めました。

ところが今年の招待者名簿は既にシュレッダーで処理された後でした。処分した日は5月9日で、共産党の宮本議員が見せるよう要求していたのも同日だったことから「都合が悪くなって証拠隠滅した!」「シュレッダーの空きを待っていたらたまたまその日になった!」と争いになった訳です。

ゴタゴタしているうちに「処分には2時間かかった」「実際に計ったら34秒だった」と処分の様子についてまで話がもつれ込み、処分に2時間かかった理由が「シュレッダー作業は障害者雇用枠の非正規職員が行っていたから」と言われて今に至ります。

要するに「桜を見る会」の名簿に関する押し問答があった訳です。名簿の原本についてはアテがいくらでもありそうなものですし、シュレッダーに拘泥しなくても色々と攻め口はあるのですが、それはまた別の話です。

内閣府シュレッダー係について

ここからが本題なのですが、「シュレッダー作業を障害者枠が担っていた」という答えの意味について考えてみたことはありますでしょうか。厳密には、シュレッダーにかける前の作業として障害者枠の職員がホッチキス針やクリップを取り外していたのです。

金具ごと処理できるシュレッダーも個人用ですら存在しているため、「内閣府の業務用シュレッダーがホッチキス如きで壊れる筈がない。よってホッチキス外しは詭弁だ!」という声もあります。しかし、ニュース動画をよく見てみるとシュレッダーに「ホッチキスの針やクリップは外してください」「故障の原因になります」という注意書きが貼ってあるのです。ホッチキス外しは実際に行われているとみていいでしょう。

作業内容は恐らく、処分する書類をファイルから取り出してクリップやホッチキスを外すという軽作業ではないかと思われます。書類は10箱以上ありましたので、単調かつ長時間の作業であったことは確実でしょう。障害者雇用枠に単純作業をあてがうのは一般企業だとよくある話なのですが、内閣府ですら例外ではありませんでした。

給与体系は分かりませんが、単純作業なので最低賃金を大きく上回るほどの給料は出ないでしょう。障害者に単純作業があてがわれている実態についての追及も求められますが、それは無さそうですね。

数合わせにされる障害者雇用枠

名簿を処理したとされる5月9日は、障害者雇用枠の水増し分を取り戻すため必死になっていた時期でもあります。正規職員の採用活動は公務員試験の倍率が10倍以上にまで膨れ上がるほど人気だったのですが、これは「初めから正規雇用」という条件が障害者にとって貴重かつ優良なものであったためです。

対して非正規職員の採用活動は、一般の非正規雇用に比べても低い条件の求人で集めねばならず不利です。しかも全国で約3150人雇わないと法定雇用率に届きません。内閣府の障害者雇用枠職員がいつ採用されたかは分かりませんが、急ぎで採用された非正規職員が居ないとも限りません。

雇った後で働きが良ければ正規雇用にするとか管理職まで出世できるとか、そういった展望があれば非正規雇用でも歓迎されるでしょう。しかし、簡単な雑用に追いやられたまま変化に乏しい単純作業を続けているのが現実です。昇給すら怪しいかもしれません。

心と知能が安定している身体障害者ですら、6つも資格を持ちながら軽作業しか振られていない人もいます。2.2%という法定雇用率が厳しい事情はあるにせよ、数合わせの雇い方で凌ごうとするのはいかがなものでしょう。障害者に割り振る作業を並べても人を雇うほどの量にならないという事情もあるようですが。

打開策として、障害者だけの部署を新たに設ける所もあるようです。例えば外部の会社が運営する共同農園を借り、障害者雇用枠の業務として農業を始めるといった具合です。障害者用の仕事を外部から受注している企業は意外と多く、件の共同農園だけで200社以上も契約しています。給料も特別高くはないので、根本的な対策とは程遠いです。

「障害者に何が出来るのか分からないからとりあえず軽作業で」という怠慢な割り振りは、未だ人事における「安牌」「定石」となったままです。手本となりうる内閣府ですら「とりあえず軽作業」がまかり通っているのであれば、障害者の多様な就労ニーズなど応えようがありません。その辺りについての追及も行ってもらいたかったのですが、期待は出来ないでしょう。

政争の弾みで空いた穴から障害者雇用の未だ厳しい現実が垣間見えてしまった一件でした。

参考サイト

加熱する障害者雇用 現場で何が|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本
https://www.nhk.or.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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