ダウン症の研究が進むと、シャドーボクシングが流行る?

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Photo by Ivan Pergasi on Unsplash

「ワシは今の人生で満足です。もし、もっと良くなるとしても、それはもうワシじゃない」

三重大学大学院などの共同研究チームが、ダウン症の原因となる1本の染色体を除去できるという実験結果を発表しました。言うまでもなくこれは、ダウン症の研究における非常に大きな一歩です。

ダウン症は、正常の46本より1本多い47本の染色体を持つことなどが原因の染色体異常疾患で、今のところ細胞から染色体を除去する治療法は確立されていません。(TBSの記事より抜粋)

ダウン症者の皮膚から作ったiPS細胞を用いて実験を重ね、染色体1本を切断すれば除去できるという答えに辿り着いたのが、今回の研究です。ただ、現在の成功率は最大37.5%とされ、より成功率の高い方法の模索と実用化が課題となっています。将来的には胎児の段階で原因の染色体を除去し、出生後の知的障害などを抑えることが目標とされ、担当の研究者は「出生前診断にまつわる『産む・産まない』の議論に、『治療する』という新しい選択肢を提示できれば」と話しています。

この報せに応じて、ネット上では俄かに“シャドーボクシング”が流行り始めました。存在しない架空の敵を見出し、粗悪なフォームで虚空に拳を打ち込む動きが“書き込み”の形で次々と可視化されていきます。

「ダウン症の身内は必ず『生命の選別』『選民主義』などと水を差すことだろう。わざわざダウン症で生まれて欲しいと願う奴などいるものか。結局、苦労してきた自分らを差し置いて楽をするのが許せないだけだ」と、概ねこのような内容でした。

もしかしたら実際にそう反発する「ダウン症の身内」は居るかもしれませんが、それは果たして「身内」と呼べるでしょうか。身内がダウン症であることに対し、いつまでもウジウジしているような人間が、本当に家族として慈しんでいるのでしょうか。寧ろ、「苦労」や「足枷」としての認識から抜け出せていない方が身内への存在否定となりはしませんか。

ダウン症の名を借りて諸々の研究に抗議するのは、“シャドーボクシング”に興じる輩へ餌を与えて喜ばせるだけで、ダウン症への幸福に寄与するどころか存在否定にしかなりません。今が幸せであることと、もっと幸せな世界線があったかもしれないことは、両立します。ダウン症に関する研究が進むことは、大いに喜ぶのが当事者や関係者として望ましい反応だと思います。

それに、研究が進んだとはいえ現状は実用化や社会への実装まで程遠い状態に変わりはありません。成功率を上げつつコストを抑えていく段階は必ず来ますし、「知的障害などの障害の程度を抑える」といっても効果のほどは分かりません。境界知能に留まるか、或いは知能に何の寄与もしないかもしれません。研究や社会実装を進めた結果が芳しくないこともあり得ます。いずれにせよ感情を露わにするには時期尚早と言ったところですね。

参考サイト

ダウン症の原因の染色体を除去できることが判明と発表 三重大学の研究
https://newsdig.tbs.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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