特殊詐欺には疑似体験プログラムで対抗するのがアツい

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Photo by Pavan Trikutam on Unsplash

近年の特殊詐欺には大きな変容が2つあります。ひとつは被害額で、2025年は1414億円という最多の被害額を叩き出し、7月時点で既に前年の被害額を追い越す勢いでした。もうひとつは被害者の年代で、若者や現役世代も容赦なく狙われるようになりました。もはや自然災害クラスです。

現在のところ、警察官騙りの中でも逮捕の可能性を示唆するタイプが主流となっています。万が一逮捕されてしまえば今の職を手放し食い扶持を失うことになりますので、現役世代にとっては結構刺さるんですよ。

緊急性や事の重大さを演出して焦らせ判断力を鈍らせるのが詐欺側の行動原理です。この辺りの心理戦は実際に自分の身へ降りかからない限り真の理解へ至りません。知識だけ蓄えていても不十分なのが対特殊詐欺の新常識である以上、これから重要となるのは「避難訓練」のような疑似体験ツールとなるでしょう。

時間を奪われるだけでも屈辱

私も特殊詐欺の電話に引っかかったことがあります。外に連れ出された段階でやっと怪しさに気付き、その足で最寄りの警察署へ向かったので金銭面の被害はありませんでしたが、4時間ぐらい付き合わされ、時間と労力を大いに奪われただけでもかなり屈辱的な体験となりました。

手口について簡単に言えば3人で分担する劇場型詐欺です。具体的な流れは以下で、
①通信業者を名乗って「2時間後にお客様の回線が繋がらなくなります。1を押すと……」という自動音声が来る。
②通信業者役に繋がると「貴方の電話番号で契約した別人が犯罪に関与~」で警察に回される。
③警察役が「大規模なマネーロンダリング事件に貴方の口座が使われており、容疑がかかっている」と逮捕を示唆。
「最寄りの警察署では解決できない」「他人に口外すると守秘義務に反する」と釘を刺してくる。
⑤「容疑を晴らすため優先捜査がある。検察に繋ぐので今から申し開きを」と検察に回される。
⑥検察役が「お金を送ってくればそれを調査して無実を証明できる」と言い、外へおびき出す。
「電話を切らないように」と言われていたが、いつの間にか向こうから切れていた。
という感じです。警察署へ相談したのはよかったものの、記録を一切残さなかったため詐欺だと確定したこと以外に収穫はありませんでした。

なにが屈辱かといいますと、思い返せば怪しかった点が山ほどあったことです。
①業者役はNTTと名乗っていたが、自分はドコモでもなければ固定電話も置いてない。
②電話を替わっているというのに待機メロディがない。
③住所や口座などの個人情報をしつこく聞いてくる。
④LINEでの通話を求めてくる。入れてすらいない時の対応もマニュアル化されている模様。
⑤警察役の態度が悪い。関係ない世間話までしてきた。
⑥検察役へ聞こえよがしに説得する。
⑦「優先捜査」そのものが詐欺師の造語に過ぎず、そもそも警察から電話でアプローチすることはない。
⑧いつの間にか2時間以上経っており、この時点で嘘だと分かりそうなもの。
即座にガチャ切りする理由なら幾らでもあったというのに、長々と付き合ってしまったのは屈辱以外の何物でもありません。金銭的被害はなくとも、時間と労力と尊厳を奪われたことに変わりはないのです。

詐欺師は設定の矛盾や整合性について気にしません。緊急性や逼迫感を押し出して判断力を鈍らせ、テンパらせてしまえばいいからです。実際に逮捕の可能性を示唆されたときも、なんとか無実を証明したい方に意識が向いてしまい、怪しい要素の数々も「ここでガチャ切りすると本当に逮捕されるかも」と思うとスルーせざるを得ませんでした。冷静な思考や正確な判断が出来なくなるあの感じは、実際に体験しない限り分からないでしょう。身に覚えのないことでも、彼奴等は虚偽記憶(どこかしらで情報が流出したとか)を刷り込んでまで押し通そうとしてきます。

類似の手口について調べてみると、去年の段階で既に知られており、少なくない数の現役世代が被害に遭われていました。通話の内容も私が受けたものと似通っており、これを知っていればと悔やんでも悔やみきれません。何度も言いますが、あれをガチャ切り出来なかったこと自体が恥辱なんです。

真に必要なのは「避難訓練」

「警察がLINEで捜査協力を求めることはない」「本当に大事な連絡は電話でしてこない」「そもそも容疑があるだの逮捕状だの先に言ってこない。逃げられるから」などと知識を固めていても、埒外から突かれれば主導権は奪われますし、そうなってしまえば元も子もないです。所詮、実戦経験のない付け焼刃の知識では限界があります。

そこで必要となってくるのが「避難訓練」にあたる存在ではないでしょうか。特殊詐欺のシミュレーションを体験すれば、実際の被害に遭わずとも自分の身体に直接叩き込むことが出来ます。既に幾らかの体験ツールが社会実装されており、銀行などを探せば広告が見つかることでしょう。しかし、それぞれ問題を抱えているのも確かです。

警察が作った仮想体験ツール
大阪府警ではニセ警察詐欺のほか、投資詐欺やロマンス詐欺や闇バイトといったシチュエーションを体験するツールが制作・発表されています。LINEさえやっていれば誰でも気軽に挑戦できるので、かなり間口が広いといえるのではないでしょうか。問題はLINEを入れておらず使うつもりもない人だとどうしようもないことで、LINE持ちが多数派である以上これが直ることはほぼ無いと思われます。

元被害者が立ち上げた詐欺師の心理体験
過去に詐欺被害を受けたという男性が企画したのは「詐欺師体験」という加害者側のシミュレーションでした。イベントでは高齢者に扮したAIを騙す体験や詐欺検知デバイス「詐欺止め太郎」と対決する体験ブースが開かれ、導線に至っては「PayPayポイント500円分」で釣った実際の手口まで再現されていました。ネタバラシ画面にすら辿り着けないほどの騙しっぷりに、参加者の多くが驚いたそうです。

詐欺被害の経験から立ち上げた企画とのことで、「詐欺の怖さを知るには、騙される体験を。詐欺の仕組みを知るには、騙す体験を」「詐欺に遭った経験の有無が、詐欺への認識を大きく変える」「構造を理解しなければ本当の対策にはならない」といった理念があります。加害者の視点を体験させる独特のプログラムも、詐欺の構造や心理についてより深く理解してもらうためだそうです。問題は、一発限りのイベントゆえ再現性がないことでしょうか。

学校の講義として使う「レイの失踪」
株式会社Classroom Adventureでは体験型教育ゲーム「レイの失踪」がリリースされ、学校での講演などで利用されています。テーマは闇バイトですが、特殊詐欺と通底した問題なので無関係とはいえません。「レイの失踪」とは、ある日消息を絶った少女レイを探すためにSNS上の痕跡を辿っていくというシミュレーションゲームで、忠実に再現された疑似SNS環境を通じて闇バイトへ引きずり込まれる過程を体験、より深い理解へと繋げます。東京都のコンテストでも優勝するほどの取り組みで、中高生向けでありながら自治体が住民に向ける形なら大人相手にも活かせるそうです。

ただし、講義や説明会で使う前提のため個人で気軽に体験することは叶いません。これが非常に大きな問題なのですが、改善の予定はないのでしょうか。

体験型のツールは有意義ですが、ほとんどがBtoB中心となっており、導線や反復性といった面で大いに問題を抱えています。ここに挙げた三者も、私自身は体験したことがありません。もう少し「避難訓練」の大切さについて考え直し導線を整えてもらいたいものです。

「騙される方も」はかけ子側の思考

テンパらせて思考力を削ぐことに特化した特殊詐欺の手口は、実際に体験しないと分かりません。しかし、こと特殊詐欺に関しては実際に受けた経験が無くても好き勝手に語ってしまえる土壌があり、「こんなのに引っかかるなんてありえない」「隙をさらす方にも問題がある」といったセカンドハラスメントが市民権を得ています。なんなら「どう撃退しようか楽しみにしながら待ってる」などと、学校のテロリスト撃退妄想じみた痛々しい発言すら転がっています。

こういう「騙される方にも問題がある」みたいな言い回しは、ハッキリ言って「かけ子」側に寄り添った発言であり、かけ子の思考に染まっているといっても過言ではありません。「騙される方も悪い」と言って喜ぶのが誰なのか、少し考えれば分かることではないでしょうか。こんなことを言う人間が、明日東南アジアのどこかでかけ子をしていてもおかしくないでしょう。

「怪しい電話だから即切った」のような撃退エピソードも危ないです。そればかり触れていると免疫どころか過小評価で隙だらけになりますし、撃退した本人も変に自信がついて「自分は騙されない」という危険な思い込みに陥るからです。特殊詐欺の手口は常に変化を続けており、誰もが最新手口の被害者第一号となる可能性を持ちます。既に、AIで証拠を捏造したり相談した警察署に擬態したりといった手段が生まれています。その急激かつ恒久的な変容を追いかけるのは、特殊詐欺対策オタクでもなければ不可能です。

被害者に落ち度を求めて逃げるのも、わずかな成功体験で誤った自信をつけるのも、正しい態度ではありません。「警察は電話で逮捕予告をしない」「警察はメッセージアプリを使わない」「業者は大事な連絡を電話でしない」といった知識を持つだけでなく、実際の手口を体験するシミュレーションによって免疫をつけるほうが対策としては有意義です。そのため、誰でも簡単に反復できるシミュレーション型の訓練が確立されねばなりません。

参考サイト

仮想体験ツールで学ぼう!
https://www.police.pref.osaka.lg.jp

「騙されない自信」は本物か?AIと対決するリアル詐欺体験──ナナナナ祭2025を終えて
https://100banch.com

レイの失踪 闇バイトを疑似体験する教育ゲーム
https://www.classroom-adventure.


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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