就労継続支援B型事業所3つの悩み①~すごく低い工賃
仕事 その他の障害・病気就労継続支援B型事業所(以下、作業所と呼びます)は、週20時間の労働すら難しいとされた障害者が受ける支援サービスで、生活リズムの矯正や社会性の増強といった目的で利用します。作業所で安定した通勤に向けた地力をつけ、A型や移行支援などへステップアップするのが、作業所を介した社会復帰モデルになってくると思います。
作業所は他の就労支援に比べて重めの障害者が主な対象となっています。主な業務は軽作業や単純作業、パンやクッキーなどの製作や販売をしているところが多いです。他にもカフェの接客や農作業、変わったところでは芸術活動を業務とする作業所さえ存在します。
しかし、今回はカフェやファームやアートといった“高度な”例は一切考慮しません。単純な軽作業と時々食べ物作りに終始するごく一般的な作業所を例として考えます。そして、利用者は一般就労の可能性が残されていると仮定します。
以上を踏まえた作業所の悩みを全3回に分けて解説するのが今回の本旨です。作業所の悩みとは、「工賃」「人間関係」「作業所の性格」となります。第1回なので、「工賃」の話ですね。
最低賃金の足元にも及ばない
作業所は雇用契約を結ばないので、給料ではなく「工賃」と呼びます。内々では「給料」で通すこともありますが、外では「工賃」として話をせねばなりません。
作業所の工賃は恐ろしく安いです。17年度の平均月額にして1万5000円、時給(1日4時間×20日間と仮定)にすると200円にも満たない作業所が過半数となります。平均より高い工賃の作業所もあるのですが、低い所はとことん低く時給60~80円の作業所もあります。
なぜそこまで安いのかというと、工賃の元となる仕事の報酬が少ないからです。ほとんどの作業所で受注している内職などの単純軽作業は軒並み低報酬で、そこから工賃を捻出するとなると最低賃金にはとても届かない金額となるわけです。報酬の低い仕事しか受注できない事情もあるので、工賃を上げるのも容易ではありません。
作業所に勤めだした当初は働いて報酬を貰う感覚のシミュレートになるでしょうが、「働いて収入を得ている」と喧伝するには極めて少額と言わざるを得ません。
私の経験ですと週5日4時間の20コマ全て出ていれば月2万円(時給250円)にはなりました。除草作業やポスティングの業務を請け負っていたため、少し多く報酬を得られたようです。ただ、作業所の(ほぼ唯一といっていい)長所である柔軟な通所計画が犠牲となります。
どういった人向けの生活プランなのか
最低賃金以下の工賃で暮らしていくのは不可能です。しかし、障害の重さなどの都合により作業所のスタイルでないと働けない利用者も大勢います。作業所の生活プランは寧ろそういった利用者こそ立てやすいものとなっているかもしれません。
2級以上の障害者年金と組み合わせれば1万5000円程度の工賃でも多少マシになります。2級であれば約6万5000円の年金が入りますので、都道府県によっては最低賃金に追いつけるでしょう。1級の年金は月に約8万1000円となりますが、今は2級を前提に考えておきます。
障害者年金2級と少しの工賃があれば、実家住みやグループホーム通いであれば生活を成り立たせる余地があります。さすがに一人暮らしとなるとA型事業所の給料+障害者年金は必要になってくるでしょうが、完全な自立に拘らなければある程度の生活水準は保たれるはずです。
ただし、この生活プランで暮らせるのは飽くまでも障害者年金2級で実家かグループホーム住みである場合です。3級は厚生年金のみなので、職歴次第では受給されません。そうなると安い工賃のみが収入となるので、一刻も早くA型事業所や移行支援に移る必要性に迫られてくるのです。
即売会で買うのは同業者くらい
作業所の商品はどうしても「知る人ぞ知る」レベルで目立たず、普段はあまり売れません。売れたとしても見学に来た人や作業所経営など同業者相手が多く、通りすがりの一般人が立ち寄って買っていくのは極稀です。つまり障害者や福祉に興味のない人は買いません。作業所の商品ならではのベネフィットもないですし。
しかし作業所同士の即売会となると話は別です。福祉に関わりのある人(=主な購買層)ばかりが多数集まっていますので、普段の倍以上商品が売れていくのです。作業所によっては即売会によって工賃が上がる所もあるようです。
それでも一般の目線からすると、敢えて即売会で何かを買う特別なメリットはどうしても薄く感じられるでしょう。私も作業所の時に一度だけ即売会へ参加したことがあるのですが、作業所の即売会にあってイオンやコンビニにはない強みなど全く感じられませんでした。
作業所同士で商品を買い合う関係は割とありふれた話です。私も別の作業所が作る弁当を毎日頼んではどうかと勧められたことがあります。500円でそれなりの弁当が食べられるコストパフォーマンスの良さは確かに魅力でしたが、結局断りました。「(体に悪い)コンビニ弁当を食べ続けるの?」と嫌味を言われて話は終わりましたが、コスパの良さを前にしてもなお断りたい理由があったのです。それは次回お話しする「人間関係」です。
ごくごく一部の努力家事例
作業所によっては工賃を少しでも多く上げようと施設長が尽力している所もあります。その一つに「hana」という作業所があります。
「hana」の商品は古新聞や廃材などを用いたリサイクル雑貨で、これ自体は作業所としてありふれたものです。他の作業所と違うのは「販売・営業」で、NPO法人の「NEWSED PROJECT」が販売に関する業務を請け負っているのです。NEWSEDにはセールスのプロがおり、売ることに関して奥手な作業所をサポートしている訳です。
「作業所の商品だからといって安売りしない」というポリシーのもとマーケティング分野を一手に引き受けたNEWSED。彼らのおかげでhanaの工賃は3万円にまで跳ね上がりました。作業所だけで売る場合は、来てくれる人の厚意を待つかイベントに参加するかでしたが、マーケティングのプロが売りに行ってくれれば商品の売り上げ向上から工賃アップへ繋がることでしょう。
▶次の記事:就労継続支援B型事業所3つの悩み②~他利用者との人間関係
参考文献
発達障害者に作業所の仕事を与えても問題は解決しない ? マイノリティ雑貨店
http://zakka10wasabi.hatenablog.com
時給83円はまだ高給!?障害者作業所の給料が安いワケ
https://nelog.jp
経営がうまくいっている障害者作業所の月給はいくらなのか?ちなみに全国平均は1万3000円
https://nelog.jp
就労継続支援B型について - 対象・利用料金・平均工賃・作業内容・メリット・デメリットについて
https://otpress.info
価格.com - 障害年金とは?受け取れる金額と申請方法|生活保険の選び方・比較方法
https://hoken.kakaku.com
地域作業所 hana
http://hana-work.net/
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