就労継続支援B型事業所3つの悩み③~作業所の業務と俺ルール
仕事 その他の障害・病気◀過去の記事:就労継続支援B型事業所3つの悩み②~他利用者との人間関係
就労継続支援B型事業所(以下、作業所)には、安い工賃や人間関係での疲弊といった容易ならざる問題があることを前回と前々回にお話ししました。最終回となる本項では、作業所ごとの業務や理念や「俺ルール」について取り上げます。
作業所の業務が軽作業中心であることは第1回で述べました。変わったところでは農業・芸術・カフェなどに従事する所もありますが、ほとんどの作業所が内職の軽作業を中心として成り立っています。あとはたまにパンやクッキーを作るくらいでしょうか。これは工賃だけでないもう一つの問題に直結しており、本項が一貫して作業所と呼んでいる理由でもあるのです。
そして、作業所選びの上で疎かに出来ないのが「作業所の性格」です。全国に11,000以上も存在する作業所にはそれぞれのスタイルがあります。利用者の社会復帰を応援する作業所もごく一部にはありますが、「俺ルール」で就労支援としての本分すら忘れているような作業所のほうがどちらかと言えば多いです。
単純軽作業の繰り返しは苦痛
ほとんどの作業所では、内容に差異はあれど単純な軽作業が中心となっています。障害特性について考えなくても割り振れるとあって、作業所=軽作業というイメージも持たれているのではないでしょうか。軽作業の前では、腕や手の障害以外はすべて健常者にさえ思えます。
ただ、繰り返しの単純作業となるので、どう頑張っても飽きてきます。刺激の少なさは脳にとって宜しくないですし、技術も才能もいらない軽作業は一般就労へ結びつきづらいです。従事する期間が長引くほど却って就職が不利になる気さえします。報酬の安さも工賃の安さに直結していますね。
「テキトー母さん」の著者である立石美津子氏もオフィシャルブログでこの点について述べておられます。ASD+知的障害の息子さんが支援学校を卒業するにあたって様々な作業所や移行支援の体験を渡り歩いた中で、作業所の業務内容に親心からの疑問を抱きました。「障害者には箱を折る程度の単純作業しかないのか」という疑問を「仕事の内容を見下すのは良くない」としつつも「自動的に」感じたのです。そして、療育の行き着く先が単純作業と思い「心が自動的に」悲しみました。
立石氏はその旨をFacebookなどで吐露しました。すると、「本人がやりがいを感じていればいいじゃないか!あなたは間違っている!」などの批判を受けたようです。本人が実際に満足しているのであればそれで構わないのですが、立石氏の息子さんご自身は「長時間座って興味のない作業を続けるのは苦痛だ」と否定的な答えでした。
障害者だから単純作業・軽作業をさせておけばいいというのは思考放棄もいいところです。精神疾患で一般職を退いた人や、興味のないことには冷淡なADHD・ASDにも、箱折りや封筒貼りといった内職があてがわれます。人によってはそれだけで自尊心を削られることでしょう。
かといって作業が一般就労並みに高度だと、最低賃金の半分にも満たない時給で一般職の仕事をしている状態となるので、難しいバランスではあるのですが。
ちゃんと利用者を考慮した作業所か
一万も作業所があれば、施設長の考えも一万通りあります。工賃を上げようと営業に走り回る施設長もいれば、利用者の独創性を重んじて芸術一本に絞る施設長もいます。ただ、そこまで真剣なのはごく少数で、多くの施設長は安穏とした運営を望んでいるのではないでしょうか。
不適切な施設長として、「俺ルール」を振りかざす者が挙げられます。「俺ルール」は施設外の常識や就労継続支援の役割をしばしば無視しており、合理性や合理的配慮といったものはありません。具体例を挙げますと、「通所スケジュールを勝手に追加する」「利用者の印鑑を勝手に作る」「暴言や体罰の許可」などです。
中には国からの助成金を目当てに運営し、利用者は囲い込んで退所させないようにする悪質な所もあります。もはや作業所としての体を成しておらず、給付費の不正受給をする為だけに作業所を建てた事例も過去に幾つかありました。もちろん発覚すれば登録取り消しなどの処分を受けます。
助成金目当ての作業所は利用者の囲い込みに注力するため、昼食や交通費を支給するなど好待遇で繋ぎ止めようとします。その為居心地は良さそうに見えますが、作業らしい作業はほとんどなく悪い意味で暇な生活を強いられるでしょう。生活リズムの改善だけは出来そうですが、A型や移行支援のために退所を考える段階になると妨害してくる恐れがあります。
悪質な職員や利用者によって居心地が悪くなるのは早急に転所を考えるべき案件ですが、囲い込みのために不自然なまでの好待遇を施すのも利用者のためになりません。
見学と体験は念入りに
就労に繋がる作業所を利用するには、見学や体験で見極めるほかありません。見学では作業所内の様子を見るだけでなく、どういった作業を行っているかなど見学時には分からないことを聞いておきましょう。自身の希望をすべて伝えておくのも大事です。
見学で分からないことは体験で感じ取ることになります。できれば体験は週5日全コマ、月曜から金曜まで続けて出たほうがいいでしょう。ほぼ全ての作業と作業室の環境、利用者の人となりなどが掴めてくるので、続行可能性の判断がしやすくなります。また、週5日全コマの体験を提案するときに作業所側がどう反応したかも大事です。助成金目当ての作業所は5日間も品定めされることを歓迎しないことでしょう。
仮にミスマッチがあったとしても、国内には11,000もの作業所があります。特に都市部ならば代わりはいくらでもありますので、転所という手段も現実的です。探し回っているうちに生活リズムが整ったならば、医師に就労移行支援の相談を持ち掛けるのもいいかもしれません。これは自立を目標とした場合の話です。
障害者は軽作業しかできないという思い込み
これは作業所だけでなく、A型事業所や一般就労でも共通の“病理”であり“バイアス”なのですが、「障害者にどんな仕事を与えたらいいかわからない!だから単純作業・軽作業しか振れない!」と思っている人があまりにも多すぎます。障害者が仕事にやりがいや自信を持てないのは、その辺りが大きいのではないでしょうか。
立石氏のブログ記事には、知り合いとして挙げている佐藤典雅氏(株式会社アイム代表)のこんな発言があります。「何年間も療育を続けてきて就職した先が、ボールペン5本作って1円の世界でいいのか?」
「障害者=単純作業」の固定観念は、障害者全体への否定であり、長い療育への否定であり、ダイバーシティへの否定です。限界を低く見積もる姿勢を改めることが、障害者の就労と自立には欠かせません。その使命は行政や企業だけでなく、作業所にも障害者自身にも課せられています。
低い工賃・人間関係・作業内容といった作業所特有の問題は、結局のところ「現状に甘えて変えようとしない姿勢」が原因なのではないかと思います。
参考文献
発達障害者に作業所の仕事を与えても問題は解決しない ? マイノリティ雑貨店
http://zakka10wasabi.hatenablog.com
就労継続支援B型について - 対象・利用料金・平均工賃・作業内容・メリット・デメリットについて
https://otpress.info
障害者は箱を折る?ごめんなさい…と思ってしまうこと
立石美津子オフィシャルサイト|tateishi-mitsuko.com
http://www.tateishi-mitsuko.com
就労支援(就労継続支援B型)の実態を調査!
http://www.employment-spt.com
その他の障害・病気