昔のマンガにおける「自閉症」とは
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昨日のマイナー知識が今日の一般教養になると言いますか、昔の常識や解釈が時代の流れで大きく変わっていくと言いますか、そういった事はよくある話です。「自閉症」が「自閉スペクトラム」を経て、「アスペルガー症候群」と合併して「ASD」と呼ばれるようになった歴史を見ても分かりますね。
今ほどカッチリとまとまった説明がされていなかった80~90年代はASDに関する知識が全く広まっていなかった為、大半の人間が「ASDとは何か?」について正しく説明できない時代でした。その影響が大きく出ている漫画作品を2つご紹介します。漫画の当時に比べればASDの周知度は格段に上がっていることを実感できるでしょう。漫画内での表現そのものについては完全に時代が悪いといえます。
BOY+愛^2(80年代後半)
「ボーイプラスあいのじじょう」と読むこちらのタイトルは、ゲイ漫画の金字塔である「ヤマジュン作品」の一つです。漫画の詳しい内容については言及しませんが、主人公の男が手紙に過去を綴る体裁で進みます。
途中、気に入らない同級生が心に傷を負って塞ぎ込むという場面があります。作中ではそれが「自閉症的な状態におちいり無口な少年に変わっていった」と述べられているのです。「的」とはありますが、当時は「自閉症≒口をきいてくれなくなった」程度の知識でしかなかったであろうことが窺えます。PTSDの概念も全くない時代ですから。
連ちゃんパパ(90年代半ば)
5月中旬にひょんなことから話題が沸騰した「連ちゃんパパ」は、元々90年代半ばで「パチプロ7」という雑誌に連載されていた漫画です。主に借金とパチンコによって良心や倫理のタガが外れていく夫婦の別居生活を扱っており、時にえげつない悪事を働く様子までもソフトなタッチで描かれるギャップが注目を集めました。
問題の場面は、主人公夫妻が正式に離婚を決めた影響で息子が塞ぎ込むようになった箇所です。拗ねて口を利かなくなることは何度かあったものの、この回では完全に無口となり不登校の引きこもり状態にまで発展しています。
この事態を横で聞いていた借金取り(メインキャラの一人)が、「そりゃ自閉症だな…」とこぼしています。更に、実際に息子を見に行った主人公が「確かに自閉症だ…」と述べており、現代の読者からは若干疑問の声が出ていました。
勿論、自閉症は「かかる」「なる」「陥る」といったものではありません。作中のケースは現代基準で言えば小児うつやPTSD等が考えられるでしょうが、寧ろ精神疾患という程でもない可能性さえあります。というのも、寛解があまりにも急激で、後の話で更なる受難を受けても再発していないのです。
この抑うつ状態(仮)を克服するきっかけは、息子が万引きを疑われたときに両親が無実を信じ引き下がらなかったことでした。そこからは一気に寛解し明るさを取り戻していくという非現実ぶりですが、漫画の展開上仕方のないことなので、あまり騒ぎ立てる要素ではないでしょう。
上から目線ではなく優しい周知を
2012年でも「Qさま!!」という番組で「自閉症」について誤った解釈をした問題を出し炎上した事例があります。先天的な障害でなく「病気」として捉えたことや耳を塞いで座り込むイラストが炎上の理由でした。先に挙げたゲイ漫画が1988年発表なので、24年経っても正しい周知が為されていないと言えます。情報網が発達して久しい現在ですら誤解や無知がはびこっているかもしれません。
「なぜ分かってくれないんだ!」とイラついたり「こんなことも分からないのか」と上から目線になったりしたくはなるでしょうが、その態度を剥き出しにするのはナンセンスではないかと思います。「発達障害に詳しい人間は偉そうで怒りっぽい」と思われてしまっては正しい知識を受け取ってくれません。
何事もそうなのですが、相手が知らないからといって馬鹿にしたり怒ったり詰(なじ)ったりすると却って遠ざけてしまいます。例えば「料理も出来ないのか」「数学も出来ないのか」と面罵されて料理や数学を学ぶ気になるでしょうか。
より知ってもらうためには単に知識量を上げるだけでなく、心の広さと謙虚さも鍛えておく必要がありそうです。「短気は損気」というか「怒りは敵」というか、そういった感じです。
おまけ:連ちゃんパパと精神科医
パチンコによる生活や倫理観の崩壊を描いた「連ちゃんパパ」には、途中で精神科医の診察を受けパチンコ依存症を治そうとする場面があります。ところが、ギャンブル依存症がまだ認知されていない時代背景もあってか裏取りが不足しており、現実に則さない描写となっています。
検査の内容はDSM-5のような由緒正しい検査ではなく、世間話のような質問(好きな数字、尊敬する人、好きな樹)で診断していました。この辺りは実際の依存症診断まで裏を取れない(連載当時はネットの普及などしていない)事情もありますし、検査によっては秘匿性の強いものも存在します。
治療方法の描写も、時代的な不備があったにせよ変な描写です。まず医者はパチンコを断つよう告げるだけ告げて帰しています。主人公は徹底的にパチンコを避け続け禁断症状から寝不足になりましたが、その後に医者が言ったのは、「このまま我慢し続けると生命に関わる。2時間だけ打ってこい。」という指示でした。依存症治療ではどう見ても逆効果で、おまけに5000円を握らせている有様です。
一方、別居中の妻が依存症を再発する場面は迫真モノでした。偶然パチンコ店に寄ったのをきっかけに段々とパチンコ依存症が再発していき、借金を膨らませた末に再婚相手を捨てて逃げてしまったのです。とはいえ、後の話でよりによってパチンコ店に再就職(しかも勤務態度に問題なし)しているため、依存症の設定もブレているのですが。
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