Ian Espinosa

「いってきます！」2001年、桜が舞い散る中、涙目で見送る母を背に、私は意気揚々と実家を出て新卒の研修に向かいました。その先に何が待ち受けているかも分からずに。

2年目の秋、山梨県甲府市にて一人暮らししていたある日、寝坊気味で目が覚めましたが、出勤時間になっても起きる気がしません。電話連絡もする気になれません。案の定先輩社員がうちの前まで来てドンドン！とドアを何度も叩かれましたが布団の中でうずくまったまま何も出来ずにいました。

きっかけや原因

会社の雰囲気が自分に合わなかったのか。MRという仕事が合わなかったのか。英語が使えないからか。埼玉県から山梨県まで車で通う生活が半年以上も続いた時期がありその疲労への反動か。慣れない土地での一人暮らしが長かったからか。先輩社員と上手くできていなかったのか。入社前に付き合っていた彼女と新人研修中に別れを告げられ、そのことをずっと引きずってしまっていたからか。

大学時代は体育会系で、友人も多く活動的だった私は、うつ病の持つイメージのそれとは全く真逆でした。私自身「要は心の持ち様で心が弱い人がうつになるものだし、体力には自信があるから大丈夫」だとすら思っていましたし、まさか自分がその当事者になるとは想像もしていませんでした。確かに仕事で嫌だったり辛かったりしたことはあったものの、「そんなことで駄目になる訳ない」と自分を責め続けたことが病状を悪化させたこと意外は、未だに明確な原因やきっかけが何だったかはわかりません。いろんな人にきっかけや原因が何だったのか聞かれますが、あの時もう少し自分が踏ん張っていればとは思いこそはしても、上手く応えることができません。

療養

当時はうつ病のことはなんとなくは知られていましたが、現在ほど世間的にも注目されておらず、製薬会社に勤務していたにも拘らずその詳しい知識はほとんどありませんでした。当初は会社を休みながら心療内科に通い、薬を薬局でもらって一人暮らしの自宅で横になりながらなんとなく過ごす程度の日々でした。次第に経済的に苦しくなり、一人で生活をしながら療養すること自体厳しくなりつつありましたので、実家に戻り休養することになりました。実家に帰ってからしばらくはひたすら眠り続ける日々が続きました。それが過ぎると暇をもてあまして焦りだす時期がきます。

約半年の療養の後、自分の回復具合を確認するため、1ヶ月ほどロサンゼルスにある漫画の翻訳会社へインターンに行きました。今でこそリワークプログラム(復職プログラム)のある医療機関や就労移行支援事業所など、利用できる復職支援サービスが認知されつつありますが、当時の私は存在すら知らず、インターンの結果かなり具合が良くなったこともあり、復職することになりました。

使った制度

うつ病になってまず困ることは経済的な面です。会社を長期間欠勤したり、休職したりした際はまず給料が出ないことがほとんどです。自宅で療養するには家賃や食費をはじめとする生活費、病院に支払う治療費と処方された薬代も馬鹿になりません。これをカバーする制度としてまず挙げられるのが健康保険の「傷病手当金」と「自立支援医療（精神通院医療）」などがあります。制度の詳細については詳しく書いてあるサイトがいくらでもありますので、そちらに譲るとしまして、私は当時この二つの制度だけ知り得ることが出来たので、利用しました。自立支援医療の申請をする際に精神障害者手帳の作成はどうしますかと聞かれたような気もしますが、「そんな大げさな」と単なる一過性のものだと軽く認識してしまっていたのは当時の私の若さ故か、見通しの甘さ故か。社会的にうつ病をはじめとする精神疾患・精神障害への認知度や理解が足りなかったためかは分かりません。

▶︎続きのページ：5回目のデプレッション②〜2回目のうつはマリッジブルー？

参考文献

みんなのメンタルヘルス・自立支援医療（精神通院医療）について
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html