パラリンピックが一般の障害者を苦しめるという懸念~努力信仰・能力信仰に繋がるだけ?
身体障害 知的障害 その他の障害・病気 スポーツ開催まで1年を切った東京2020パラリンピック。障害者スポーツの祭典であり頂上決戦でもあるパラリンピックは、開催のたびに注目度を増しています。どのような心境で競技を観戦するのかは人それぞれですが、長野大会で認知され始めた頃に比べると明らかに熱量は違っている気がします。
世界規模の競技となっている以上、選手たちの技量は凄まじいものです。しかし、世界最強を競うパラアスリートの存在が一般の障害者にとっては苦しみの種になるのではないかという懸念の声が一部で上がっています。解釈は人それぞれといえども、何故そういった考えがあるのかは多少気になりますね。
一般の障害者には毒?
なんでも「パラアスリートの活躍によって、一般の障害者が『何もない自分』を絶望視してしまう」という懸念があるのだそうです。一般人とアスリートは全然違うので、そこまで絶望することもないように思えます。
しかし、「e-sports(※)の普及によって、そのレベルでない一般ゲーマーが自分の無能さに絶望してしまう」と、言い換えるとどうでしょう。下手の横好きでやっているプレイヤーやe-sportsの対象にならないゲームを究めるプレイヤーにとっては、e-sportsプレイヤーと比較して「無駄な道楽」と馬鹿にされかねない懸案事項になります。
要するに、パラアスリートの勇姿で学んだことが「やっぱ能力(≒生産性)だよね♪」というオチになるのが懸念する側のロジックです。過去最高のパラリンピックと言われたロンドン大会も、大会後の民間調査では「健常者の態度が悪化した」と答えた障害者が多いという結果が出ました。これについて英コベントリー大学准教授のイアン・ブリテン氏は、「障害を乗り越えたパラアスリートのイメージが浸透することで一般障害者は却って肩身が狭くなった。『共生社会』はむしろ遠のいた。」と断罪しています。
事実、ロンドン大会前後のイギリスは緊縮財政により障害者福祉が弱まった反面、パラアスリートの強化費を潤沢に使いリオ大会に備えた前歴があります。パラアスリートと一般障害者の格差はこの時から浮き彫りになっていたと言えるでしょう。
(※)e-sportsとは、対戦型ビデオゲーム(主に格闘ゲームやパズルゲームなど)の腕前を競う新たなスポーツ概念です。大会に出場するレベルにもなると高水準の操作制度や反射神経・判断力を持ったプレイヤーのぶつかり合いとなります。
「努力は障害に勝る」という誤った認識が怖い
日本もイギリスと同じ沼へ沈んでいる真っ最中です。かつてJR東京駅に貼られていたパラリンピックの広告ポスターがネットで炎上し、掲載1週間で撤去となった騒動がありました。ポスターには「障がいは言い訳に過ぎない。負けたら、自分が弱いだけ」とあり、それを撮ったうえで皮肉ったツイートが拡散されて炎上に至ったのです。ツイートをした人は、「当事者にはやろうと頑張っても出来ずに困っていることがある。そこでパラアスリートという別世界の住人からストイックな美学を押し付けられるのが不愉快だった」と振り返っていました。
勿論東京都も一般障害者に根性論を押し付ける意図など無かったのですが、「障害は努力で克服できる」という誤った認識を広めかねないポスターは些か浅慮が過ぎたように思えます。健常者と違った方向性で魅せるパラアスリートには確かに目を見張るものがありますが、彼らを基準にしてものを語るのは少し待った方がよろしいのではないでしょうか。
パラアスリートは希望たり得ない
一般社団法人コ・イノベーション研究所の橋本大祐代表理事は、「パラアスリートはもはや障害者の象徴ではない」とした他、彼らを取り上げる「心のバリアフリー教育」が障害者への歪んだ評価をもたらす危険性についても言及しています。
「心のバリアフリー教育」は障害者を知るきっかけにはいいのかもしれませんが、橋本代表理事によれば「『障害者には特別な能力がある』とする過大評価か『障害者は何もできない可哀想な存在』とする過小評価を招く。どちらも誤った評価で、これらが浸透すると共生社会は遠のく」とのことです。これは24時間テレビにも通じるところがありますね。
まとめ
パラリンピックは今やオリンピックに並ぶ規模の巨大スポーツイベントとなり、出場するパラアスリートはいずれも非凡な人間ばかりです。しかし、それは一般の障害者にとって希望となるどころか、根性論や自己責任主義といった生きにくさの素をばら撒く病巣ですらあります。
確かにパラアスリートの技量は凄まじいですが、だからこそ障害者に対する歪んだ幻想や過剰な憐憫の元凶としてはなりません。だいたい偉大な功績者や有名人と比べてばかりいてはキリがないではありませんか。誰もが皆その道で知らぬ者はいない偉大なるナントカになれるわけではないことをまず念頭に置いてください。それからパラリンピックを楽しみましょう。
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