自主制作動画「MIDNIGHT RUNNER」の作者、MXUさんに取材しました。
エンタメ※動画リンク(ショートバージョン:3分)
https://youtu.be/WJpd0VZPhTU
※動画リンク(ロングバージョン:12分)
https://youtu.be/4gF4yXYFzhQ
多様性をテーマにした自主制作動画を配信するYoutubeチャンネル「NICEDREAMnet」で公開中の「MIDNIGHT RUNNER」。通勤で顔を合わせる程度の知り合いに脳性まひの人がいる主人公は、ある日の飲み会で障害者の物真似に興じる人々を目の当たりにしてしまい…という内容です。この作品の監督であるMXUさんへ取材を行いました。
醍醐さん(元・脳性まひブラザーズDAIGO)らが在籍する「にいがた映画塾」の協力を受けながらNICEDREAMnetを主宰するMXUさんの想いを聞いてきました。(監督と障害者ドットコムは2019年に大阪市内で醍醐さん主演の長編作品「BADDREAM」の上映会を開催しました。)
障害のある人たちと接する機会を増やすことが大切
──この動画(MIDNIGHT RUNNER)を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
今年公開された「すばらしき世界」(西川美和監督、2021年公開)はご覧になりましたか?あの作品のワンシーンをそのままなぞっている部分があります。「すばらしき世界」のあらすじは、刑務所帰りの主人公が正義感ゆえの生きづらさを抱えながらも周りの支えを受けながら社会復帰を目指す映画です。 終盤は福祉施設に就職するんですけども、施設内で障害者を侮辱するようなやり取りがある訳ですね。以前の主人公なら正義感に駆られて突っかかっていくのですが、この時ばかりは周囲とのしがらみから忖度して怒りを押し殺してしまいます。主人公の結末も含めて考えさせられました。本当に素晴らしい作品で配信もされているのでぜひご覧いただきたいです。映画はバッドエンドとも言えるのですが、その別の結末を作りたいなと思ったのが短編制作のきっかけです。
また、10年近く前に毎週のように合同コンパに参加していた時期があったのですが、赤の他人と交流していく中で、場を保つために自身も含めて露悪的になっていった経験も含まれています。
──思っていても我慢してしまうことはありますよね。
今回は障害者差別をテーマにしていますけども、生きていれば似たような経験はすると思います。同調圧力の強い日本でダイバーシティを進めるには、個を保ちつつ、いざという時には抗っていくことが重要だと思います。
──自虐ネタに走る例も多いです。けれど、発達障害はまだしもパニック障害がネタにされたことがあって、流石に疑問視せざるを得ませんでした。
その疑問は分かります。馬鹿にするタイプの笑いは、なんというか暖かみが無いですよね。目的が馬鹿にするだけなのは許されないと思います。動画内の主人公と脳性まひの男性は日々の通勤で見かける程度の「仲間」で、障害者への侮辱は自分への侮辱だと思ったわけです。そういう受け取り方を描きました。
アートは人間の意識を変えることができる
──見るだけでなく、実際に関わらないと駄目ですよね。
直接関わらないと動画の主人公のような行動に至らないかもしれません。でも日常的にマイノリティの方々と接する機会があると違うのではと最近は肯定的に捉えています。昔はもうちょっと冷めていたのですが。
──関わるどころか障害者施設で働く人すら虐待することがあります。はじめは注意だったのがエスカレートするなど。
話は戻りますが「すばらしき世界」が敢えて福祉施設を選んだのは、それを描きたかったからだと考えています。凄いのは、障害者を侮辱する職員も仕事自体は真摯に取り組んでいて、悪い部分ばかりでない多面性が描かれていることです。
(過去の障害者差別発言で問題となった)小山田圭吾さんの母校である和光学園も共同教育を掲げていて、「それがなぜあんな事になった」と言われていますが、ああいう所にインクルーシブの難しさは出ているのでしょうね。差異が極まって分断が生じると言うのは(闇の)深い話です。 だから、インクルーシブは基本的に正しいけど、人間は多面的な生き物で邪悪な部分もある。
夢を見つつシビアな現状認識も必要だと。根が歪んでいる限りますます溝が深まる。差別心は潜在意識にある「穢れ」観だから、そこにメスを入れることはアートだからできることだと思います。
──障害者の物真似シーンは強烈でした。
映画にもあったシーンをなぜそのまま入れたのかというと、差別というものが本質的に持つグロテスクさが描かれていたからです。だからこそ、強力な差別主義者にも届くだろうと。
昔の経験ですが、真面目でリスペクトしていた人が突然精神障害者の物真似をしてきたことがあります。ほんの数秒でしたが、脳裏から離れない強烈な体験でした。その人は福祉に携わる方だったので尚更。どうしたら彼らが変われるのか。
見た人全てが不快になるようなシーンですが、そういう経験も踏まえてどうしても必要だったので、相当悩みながらも露悪的に演じていただいた大田雄磨さんには本当に感謝しています。
巷に溢れる「差別」を再定義したい
──テレビ番組など、差別まで行かなくても特定の都道府県などを馬鹿にすることはあります。
やはりリスペクトがあるかないかだと思います。90年代に10代を過ごした人間としてももっと露悪的・差別的な文化・表現も知っているので、そういうのに慣れ親しんだ人からすれば「ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス=政治的な正しさ)うるせえ」という気持ちは分かります。また言葉がファッション的に消費されて、「差別」も定義が軽くなっていると感じます。だから、そんな「差別はいけないというけれど」な声に対して「差別」を再定義したいなと。「いや、でもグロいよね」という。
──Z世代にはまた印象が違うかも知れません
時代は確実に進化しているし、ポリコレだから楽しいという表現も増えていってきている。
Z世代と言われる今の若い人たちはそういう感性が豊かで、ポリコレや多様性を踏まえたコンテンツに幼少期からよく触れているように感じます。この動画の弱点としては、このような愚かな振る舞いは若い世代は少ないだろうとも。もっと上の世代で起こりうる。ただ同時に周りの目を過剰に気にしているし、生きていれば変な歯車が合致して動画のような状況になる時はある。
私はあらゆる表現は作者のメッセージがどんな形であれ含まれているし、それを肯定的に享受したのなら、そのメッセージを日常で生かしていく責任があると思っています。鬼滅好きならここまでやって欲しい、ここまでやるのがダイバーシティという願いを込めました。
人や社会にメッセージが届く作品を作っていきたい
──今後どのような作品を撮っていきたいですか。
障害だけでなく国籍やジェンダー、職業、地域など別の多様性にも切り込んだ作品をライフワークとして撮りたいですね。考えれば考えるほど多様性は深いものです。ここまで大きな潮流になったことは今まで無かったと思うので、今は新・フランス革命のような凄まじい時代とさえ感じています。その中で微力なれども発信していきたいです。
──最後にこれだけ伝えたいことはありますか。
ハードな内容ですが、主演の阿部さんはじめ役者・スタッフの皆さんは趣旨に賛同してご協力いただき感謝しています。本当はパラリンピック開幕式に合わせて公開したかったのですが、コロナ感染拡大で一旦中止して、緩和期に撮影した作品です。でもお祭りが終わった今だからこそ伝えたい作品です。拡散いただけると一層嬉しいです。
また、チャンネルページにも書いていますが、企画や作品など募集しています。毎月撮って動画を出しているのですが、その為のお力添えを戴けたら助かります。まだまだ手探りでやっている所もありますが、新潟から世界へ向けて地道に発信していきたいと思います。
NICEDREAMnetチャンネルリンク
NICEDREAM net - YouTube