うつとがんとわたしと
うつ病出典:Photo by Joshua Sortino on Unsplash
私はうつ病を患っています。きっかけは仕事のがんばりすぎでした。小さいころから植物や動物、虫といった、とにかく生き物が好きでした。そうしたこともあり、自然を調べる職業につきたいという夢をもって、生きてきました。念願叶って夢だった研究職につき、大好きな仕事を無我夢中でやっていました。
しかし、社会的な地位が上がったり、子どもが生まれ、家族が増えていくなかで、嬉しかった反面、夢を追うこととは別のものも追わなければいけなくってしまいました。それは経済的安定と、それをえるための成果主義的な競争です。
うつ病を抱えて
夢を追いかけることと、こちらを追いかけることの両立が私には難しく、忙しさと余裕の無さから気が付いたら心と身体のバランスを崩してしまい、うつ病を発症してしまいました。
結局病状が回復せず、大好きだった研究職は退職せざるをえなくなってしまいました。仕事内容自体は大好きだったので、夢を手放さなければならなかったこのときのことは、今でも思いだします。
そんな私ですが、療養と服薬と通院をへて回復し、体調が戻ってきたのでリワークプログラムに参加しました。ここでは認知行動療法を学び、着実に回復しました。そして回復を機に、また自然に関わる仕事がしたいと思い、農業に携わる仕事につきました。
不慣れなことも多かったのですが、毎日植物の成長をみるのはとても楽しかったです。しかし、ここでも無理がたたり、うつ病が悪化し、結局仕事を続けられなくなってしまいました。その後は転職活動をして、幸いにも受け入れてくださる企業がありました。
まさかの展開
がしかし、ここでまた予想外のことに見舞われます。1年前ごろから気が付いてはいたのですが、舌にあったできものが「がん」だったことがわかったのです。このときは新しい仕事に就いたばかりで、うつ病も治療しながら(会社にはうつ病を開示していませんでした)だったので、わけがわからなくなってしまいました。
正直、うつ病を発病したときと同じか、それよりも辛かったかもしれません。結局は入ったばかりの企業も退職し、なんとか家族やさまざまな支援機関のおかげで心のケアをすることができました。
落ち着いてから舌のがんも切除してもらうことができました。当時は混乱していてわけがわからなかったのですが、今思い返すと、本当に多くの人の支えられていたのだなと思います。
ここで、少しみなさんに質問です。体調が少しだけ安定してきたときに私がまっさきに思ったこと、それはなんだったと思いますか。
答えは「うつ病とがんを患っている自分は、もう社会での活動は難しい」ということでした。どうして私だけ、なんで一生懸命生きているだけなのに、という気持ちももちろんありましたが、これは仕方のないことです。しかし、うつ病とがんを患っている事実、これはこれから先もずっとかわらず付き合っていかなければなりません。
がんの方はいつ再発するかわからないので、定期的に検査が必要で、毎月検診に行っています。実は1度再発して、切除をしました。うつ病に関しても、いまも通院と服薬を続けています。生涯付き合っていくのだろうなと思っています。
うつ病とがんを抱えて
この2つの病気を患って、わたしが気付いたことがあります。それは、うつ病は「こころの風邪」と表現されることがありますが、そうではなくて、うつ病は「こころのがん」だということです。
うつ病もがんも、完治という言葉より「寛解(かんかい)」という言葉がよく使われます。治ったのではなく、一時的に症状が安定して治まっている状態のことです。このように、2つの病気は長く付き合っていく必要があることが多いという点で似ていると思います。
そして私が最も感じたのは、どちらの病気も当事者になってみないと気持ちを理解するのが難しい病気だということです。よくがんの人に「治るよ」と気軽に言ってはいけないや、うつ病の人に「がんばって」と気軽に言ってはいけないと耳にします。
この言葉は、正にその辛さは当事者になってみないとわからないものがあるという、私の体験をそのまま物語っているような気がします。わたしはどちらの言葉も、今かけてもらえるととても嬉しいですが、最もしんどいときにかけられたら辛いと感じるかもしれません。
うつ病とがんが教えてくれたこと
ただ、最近になって私がようやく気が付いたというか、うつ病を発症してしまった時から見落としていた大事なことがあります。うつ病というのは「ストレス」が最大の原因になるといわれています。そして勘のいいみなさんはお察しのとおり、がんの原因も「ストレス」が大きな割合を占めているといわれています。
病気は違えど、わたしが見過ごしてきたことは、この「ストレス」に気が付くことと、それとどう適切に向き合うかということだったのです。そこに気が付かず、がむしゃらに活動してきた結果が今までだったということです。
このことに気が付いた今は、就労移行支援事業所というところに毎日通っています。ここでは日々自分の体調の変化に気が付くことや、ストレスを自覚し、それに対処することを学んでいます。そしてなにより支援所では、日々わたしと似た経験をした方と交流できるので、気持ちや辛さを分かち合うことができます。今では私のかけがえのない居場所になっています。
もちろん就労移行支援事業所というのは、就労までのステップ(限られた時間)だということはわかっているので、これからまた自分の居場所を探していかなければいけません。ただ、「やっとここまでたどり着いた」というのが、今の率直な感想です。
おわりに
長くなってしまいましたが、これからもわたしはうつ病とがんと付き合っていきます。そんな今はこんなふうに思っています。この経験をした「わたし」は、たくさんの考え方をもてるようになったし、それを受け入れられるようになった。この経験がわたしに多様な考え方を授けてくれたんだなぁと。
実は「多様性」というキーワードで、別のコラムで私の考えを書いてみたので、興味あるかたはぜひそちらも読んでみてくださいね。それでは、自分語りな内容でしてが、お付き合いありがとうございました。
うつ病