障害者は「きょうだい児問題」を無視してよいのか

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出典:Photo by National Cancer Institute on Unsplash

近年、存在が注目されるようになってきた「きょうだい児」。SNSでも自分はきょうだい児と名乗るアカウントの投稿に注目が集まります。

そして、たいていのきょうだい児の投稿には多くの同情の声や、同調する意見が大量にぶら下がります。

障害を持つ方の中には、SNSのトレンドに「きょうだい児」が上がってくると「また障害者叩きがはじまるのか」と憂鬱になる方もいるでしょう。

しかし、時として障害者が「きょうだい児」の立場に立たされることもあることも、知っておいて欲しいのです。

「きょうだい児」とは誰を指すのか

そもそも「きょうだい児」とは何か、というところからまず話を始めましょう。「きょうだい児」とは、兄弟姉妹に難病患者や障害者がいる人を指します。成人しているきょうだい児については「きょうだい者」と呼ぶこともあります。

きょうだい児の生きづらさは近年表面化されつつあり、時々ニュース番組などでもトピックとして取り上げられているのを見た人もいるでしょう。

彼ら彼女らの生きづらさとして、主に次のようなことがあげられます。

1、両親の目線が障害や難病のあるきょうだいに向きがちになるため、しばしば「自分は愛されていない」とう気持ちを抱くことがある。

2、幼少期からヤングケアラーとしての役割を求められ、放課後に友達と遊んだり、習い事をあきらめなければならないことがある。ときには周囲から、両親亡き後のきょうだいの世話をすることを期待されてしまう。

3、結婚したいと思った相手や相手の家族から、きょうだいの障害を理由に、結婚を破談にされたり反対されることがある。

4、きょうだいから加害されても「きょうだいには障害があるんだから仕方がない」と、我慢することを求められれやすく「自分ばかり我慢させられる」と、不満やストレスをため込みやすくなる。

SNSに上がってきやすい、きょうだい児の投稿で、個人的に目につきやすいのは「きょうだいから受けたつらい仕打ち」です。

「癇癪を起こしたきょうだいに自分の宝物を壊されたが、親に『きょうだいは障害があるんだから、仕方ないでしょ』と、真剣に取り合ってもらえなかった」
「きょうだいがパニックを起こしたときにあげ続ける大声を、ずっと聞いているのがつらい」
「外出先できょうだいが突然自慰行為を始め、周囲から冷たい視線を浴びせられて恥ずかしかった」

これはきょうだいから受けた仕打ちというよりは、親がきょうだい児のつらい気持ちや羞恥心に寄り添っていないのが一番問題なのですが、そこを切り分けられない状態のきょうだい児がいることもまた事実。

こうした投稿を見て「肩身が狭い」「障害者ヘイトだ」と感じる方もいるかも知れません。しかし、わたしはある番組を見て「我々障害者は果たして、きょうだい児の問題を他人事のように捉えていてよいのか?」と疑問を持ったのです。

障害者の兄が障害者の弟を養うために就職活動をおこなう

その番組は、ASDの兄が、同じくASDで重度の知的障害、そして強度行動障害を併発した弟を守るために就職活動に奮闘する姿を追うというものでした。

きょうだいの両親は兄にASDがあることを知り、親亡き後は兄の面倒を見てもらえると弟に期待していたようですが、結果として弟の方がより重度の障害者であったのです。

このため、兄は親亡き後弟を養っていくためにも、就職活動に本腰を入れてのぞむことになったのでした。

家族4人はとても仲がよく、番組冒頭では談笑する姿も映し出されています。その一方で、パニックを起こした弟が兄に暴力を振るい、家族が止めにはいる場面もありました。

「弟を守りたい」という願いのために、仕事を探す。それ自体は何となく転職活動をするよりは、ずっと前向きで居られるでしょう。

しかし、精神障害者や発達障害者の給料はとても低く、平成30年(2018年)におこなわれた障害者雇用実態調査結果では、発達障害者の月給平均はわずか12万7000円にとどまっているのです。これでは、自分ひとりですら食べていくこともままなりません。

もちろん、だからといって「発達障害者は親が生きている間は実家で生活し、ひとり立ちすることを諦めてください」としてしまうと、いつまでたっても賃金は上昇しません。

賃金改善のために、日々周囲に働きかけていくことは大切です。しかし、どれほど懸命に政府をはじめ各機関に働きかけたとしても、発達障害者の給料が3年後に倍額になっているとは。わたしには思えません。

つまり改善を訴えながらも、現実に則した計画をたてる必要があるのです。

記事の内容に話を戻すと、兄は最終的にA型事業所に就職することを選択しました。A型事業所であれば最低賃金は保証されますが、誰かを養うことは困難です。

もし今後、兄が親亡き後を視野に入れて転職活動をしたとき、いい条件の求人と縁がないと「弟を養えないと、親に申し訳が立たない」と思いつめてしまうのではないか?と、他人事ながらとても心配になりました。

さらに、彼は父親からも「今の働き方では、将来弟を支えることにはならない」とプレッシャーをかけられています。A型への就職が決まった時も「首の皮一枚つながった」といういい方をしており、そこも非常にひっかかりました。

子供には薄給に甘んじて欲しくない、将来に希望を持てるような仕事についてほしい。父親のその気持ちは痛いほどわかるのですが、そう考えるのは純粋に兄の将来を考えてのことなのか?と不信感が募りました。

何よりも兄が、将来「弟を守りたい」という気持ちよりも「弟を養えるだけの稼ぎを、長年期待され続けるのはしんどい」という気持ちが上回ったとき、精神的に追いつめられてしまうのではと不安になります。

兄が立たされているこの状況、まさに世の中にたくさん存在する「きょうだい児」と同じですよね?

もちろん、これはあくまでも私の悲観的な推測に過ぎず、こうならない可能性もあります。しかし、障害を持ちながら自分より重度の障害者の面倒をみることを宿命づけられた人は、他にはいないのでしょうか。

実は、きょうだい児の中には「自分も軽度の知的障害や発達障害があるが、将来重度の障害があるきょうだいの面倒を見なければいけないのだろうか」と不安を抱えている人もいます。

つまり、障害者であっても、障害の程度によっては「きょうだい児」と同じ立場に立たされる人は、確実に存在するのです。

きょうだい児の生きづらさを解消することが、障害者のためになる

きょうだい児と同じ立場に立たされる障害者がいる以上、私個人としては、障害者は「きょうだい児の生きづらさ」から目を背けてはならないと考えます。

もちろん「障害者だって好きで障害を持って生まれてきたわけではない。好きでパニックを起こして暴力を振るったり、いやがらせをするために奇声をあげているわけでもない。本人に責がないことをとやかくいうのはおかしい」と疑問に思う人もいるでしょう。

しかし、奇声をあげている人に障害があろうがなかろうが、毎日毎日奇声を聞き続けるのは、現実的にしんどいと思いませんか。

そして、障害があろうがなかろうが暴力を振るわれれば、振るわれた方は痛みを感じますよね。障害があるからといって、暴力を振るっても相手が痛くないなんてことにはなりません。

確かに障害があることは、本人にはどうしようもできないことです。それはそれとして殴る蹴るなど暴力を振るわれれば、痛みを感じるし怪我もしますし、ところかまわずきょうだいの自慰行為を見せつけられるのは精神的に辛いもの。

障害者の障害特性を理解することと、障害者がおこなうことを受け入れて許すことは、まったく別の問題なのです。

受け入れて許せる人はそうすればいい。しかしどうしても受け入れられなかったり、自分が生きるだけで精一杯だと感じるきょうだいについては、逃げ場所が必要ですし、距離を取ることを責めないで欲しいとも思うのです。

個人的な話ですが、わたしの妹は社会人になってからも、自分の気に食わないことが起こると、癇癪を起して叫び続けていました。

社会人になると、物理的に距離を取ることができるようになったものの、子どものころは癇癪が終わるのをただ耳をふさぎ、待つことしかできませんでした。

妹のことは大事です。家族として何かあれば心配ですし、精神状態が悪化したり、体調を崩して入院したともなれば、見舞いにもいきます。

しかしだからといって、妹と今後仲良くしていきたいとは思いません。なぜなら彼女と親密に関わるのは、あまりにも精神的に負担が大きすぎるからです。

「家族として愛している」という気持ちと「でも、家族の存在がしんどい」という感情は、同時に存在しえると、わたしは考えてます。

そしてほとんどのきょうだい児は、きょうだいに対して全く愛情がないとは思いません。愛情はあるけれど、愛情よりも「しんどさ」が上回った状態にあるのではないでしょうか。

きょうだい児も障害者も、おたがいに自立することが必要です。おたがいしんどくなれば物理的に逃げられる場所や、距離を取れる方法があって欲しいとも思います。

そうすれば、仮に障害者が「きょうだい児」の立場に立たされたときに、障害者がプレッシャーと負担に押しつぶされることは無くなると思いますし、きょうだい児の方もきょうだいに、ひいては障害者の存在に、過分に憎しみを持たなくなるのではないでしょうか。

今回「きょうだい児の立場に立たされた障害者」として紹介したASDの兄弟の事例については、今後は兄に過度な負担がかからないように、福祉が何らかの形で介入してくれることを、心から願って止みません。

【【老障介護】自閉症の兄が弟を守るために就職活動…立ちはだかる社会の現実 障がい者の就活に密着】
https://www.youtube.com

【障がい者のリアル就活 “自閉症の弟”のために働く“自閉症の兄” 「両親が亡くなった後の弟が心配」【広島発】】
https://www.fnn.jp

【障がいのある人のきょうだいに関するアンケート調査報告書】
https://kyoudaikai.com

【平成 30 年度障害者雇用実態調査結果】
https://www.mhlw.go.jp/index.html


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オランプ

オランプ

長年にわたってうつ病で苦しみながらも病気を隠して働き続け、40歳になる前にやっと病気をオープンにして就労したものの生きることのしんどさや職場でのトラブルは軽減されず。実はうつ病の裏に隠れていたものはADHDであり、更に気が付けばうつ病も病名が双極性障害に変化。これだけ色々発覚したので、そろそろ一周回って面白い才能の1つでも発見されないかなーと思っているお気楽なアラフォー。
実は自分自身をモデルにして小説を書いてみたいけど勇気がない。

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