発達障害は感覚過敏だけではない?〜低登録・感覚の鈍さとは

発達障害

unsplash-logo Jarkko Johan Söderström

発達障害といえば、聴覚や触覚等が敏感になり過ぎる感覚過敏が注目されています。しかし、実は発達障害によく見られる特殊な感覚には、いくつか種類があります。その内、感覚過敏は本人の生きづらさに繋がりやすいです。しかし今回は、それと正反対の低登録・感覚の鈍さの特徴と困ることについて解説します。。

低登録・感覚の鈍さとは

低登録・感覚の鈍さは、味や痛み、触覚などの五感が鈍く、反応が遅くなるタイプです。刺激を感じにくい気質・体質を持ち、刺激に対する反応も弱いか無かであることが多いです。このタイプには通常より強めの刺激を与えないと、中々反応を示しません。日常生活の具体例をあげると、以下の通りです。

・相手の声が聞き取りづらく、聞き返すことが多い
・相手やモノにぶつけても痛みや衝撃に気付かない
・冗談や皮肉が通じない。言葉のニュアンスや暗黙のルールを察するのが苦手
・顔や服に汚れがついていても気づかない、無頓着なところがある
・目の前にあるはずの探し物や案内標識を見落としやすい

上に挙げた特徴のほとんどは、特に自閉スペクトラム症等の発達障害に当てはまります。精神科医の岡田尊司先生は、著書『過敏で傷つきやすい人たち』にて、今回のメインテーマである低登録・感覚の鈍さを含む感覚の特異性を四つに分けて説明しています。(カタナ・ブラウン他によって考案された、『感覚プロファイル』です)。

その他の感覚のタイプ
・感覚過敏:強い刺激、新しい変化を好まない敏感なタイプです。過敏のタイプは、不快な刺激を避ける術を持たないことが多いため、生きづらさが最も強くなりやすいです。自閉スペクトラム症とHSP(Highly Sensitive Person)に多いです。

・感覚回避:変化や不快な刺激を回避し、安定した刺激を好むタイプです。このタイプは刺激を積極的に回避・シャットアウトします。そのため、いつも同じ場所、食事、活動のみを繰り返す、人付き合いを避け、一人になれる時間を設けるなど、固定した行動パターンや生活習慣を取ります。

・感覚探求:新しい刺激を常に求めるタイプです。刺激の強い香辛料や、カラフルな色彩、ボディタッチ、注目を浴びることを好みます。あらゆる刺激に興味を示し、気分の波が大きくなりやすい方が多いです。

分かりやすさのために、感覚を四つのタイプに分けて説明していますが、実際は複数のタイプが同居していることが多いです。感覚過敏は、低登録・感覚の鈍さと感覚回避との同居率が高いです。聴覚は非常に敏感(感覚過敏)であるため、騒音や人混みの多い場面に抵抗を示す(感覚回避)にも関わらず、名前呼びや話の内容が頭に入ってこない(低登録)などが、その例です。また、同じ触覚や痛覚においても、刺激の種類や体の部位によって、感覚への反応が異なります。例えば、腕や肌をそっと触れられると痛みを感じるのに、刃物で手を切ってしまっても泣かない、痛みに気付かないという話もあります。自閉スペクトラム症は、むしろ低登録・感覚の鈍さがよく見られ、そこに感覚過敏が混ざっているケースが圧倒的に多いです。

感覚の鈍さで困ること

生きづらさに繋がりやすい感覚過敏とは異なり、感覚が鈍いことは痛みや騒音、皮肉などの不快な刺激に強いという意味で、一見問題がなさそうです。しかし、実際は感覚の鈍さだけでなく、感覚過敏が他の面で現れることも多いです。さらに五感は本来、私達生き物の生存と危険回避能力のために発達しています。外での危険や、体の不調、痛みなどを察知する感覚が弱いと、どうなるのでしょうか。

幼少期の私は、歯を磨くことも頭を洗われることも苦手だったので、常に髪はぐちゃぐちゃに絡っていたり、よく虫歯になっていたりしました。しかし、不潔感や臭いに対する不快感などがまったく湧いてきませんでした。さらに周囲の声や視線にも関心を払っていなかったので、いつも汚いままでした。また昔から今もそうですが、外出中や何かをしている時の私は、わりと元気で疲れ知らずの調子でいることが多いです。パソコンの前にずっと座って文章を書いていても、街中をけっこう歩いても、あまり疲労感や眠気を感じないのです。本当の疲労感や眠気は、家に帰って気が緩んだ瞬間に、まるでスイッチが切れたように湧いてきます。しかし、一旦ベッドに横になっても、やらないといけないことがあると、どれほど疲れて眠たくても、数分足らずですぐ起き上がれます。風邪薬や鎮痛剤を飲んでも、眠気が仕事の能率に影響するどころか、むしろ良い感じでリラックスしてはかどるのです。

ここだけ聞いてみると、疲れや痛み、不快を感じにくい、強くて便利な体のように思えます。しかし、図太さとも呼べる感覚の鈍さも、長い目で見ると当然デメリットもあります。私のように鈍さが優位の人は、のんびり屋ですが気力も体力も無尽蔵にあるように思えます。しかし、実際は気力に体力・身体が付いていけていないことが多いです。いくら精神的に元気とはいえ、ずっと走り続けるような生活リズムを続けていくと、やがて身体のほうがもたなくなります。私はアイススケートが大好きで、一度滑り始めると平気で三時間、その気になればそれ以上続けることができます。しかし、滑り終えて帰る瞬間になって、初めて私は体の痛みと疲労感に気付くのです。両足首から爪先がわりとズキズキ痛み、よく見れば薄い青あざが浮かび、微かに腰痛まで出ました。私が七歳くらいの頃、包丁を取り出してきゅうりを切ってみた時、指を怪我しました。しかし当時の私は、傷口の痛みと血に気付かずに、泣くこともなかったため、親に発見されるまで気付かれなかったこともありました。

他の事例においても、アスペルガー症候群のグニラ・ガーランドさんは同級生にいじめられ、顔から血が出るほどの怪我を負っても痛みはまったく感じず、驚いた両親に言われるまで気付かなかったようす。骨にヒビが入っていることや突き指に気付かず、人に言われるか、だいぶひどくなってから病院に行った発達障害友達もかなりいます。

冷静に考えてみると、身体は疲労や痛みでぼろぼろなのに、心はそれに気付かずに全力疾走を促す、というのは怖いことです。低登録・感覚の鈍さを持つ方は、心身をよほど酷使しない限り、疲労感や痛みなどに中々気付けません。本人も知らず知らずの内に、突然ぽきっと折れるように倒れて、潰れてしまう方が多いです。それこそブレーキやアラームもなく、ガソリンが尽きるか、車体そのものがボロボロになるまで走り続ける車のように。すると、本人は知らぬ間に健康を害して離職、休学をせざるを得ない他、最悪病気や過労死など、健康や生命に支障する恐れもあります。また身の不潔の話もそうですが、「反応が鈍い」、と周囲に認識されることによって、「あの子は何を言っても、何をしても傷つかない」、と誤解されやすくなります。そうなると、いじめや仲間外れ、過重な課題を期待されるなど、日常生活や人間関係においても困難が生じます。

感覚の鈍さへの対応

低登録・感覚の鈍さから、前述した問題が生じている、もしくは将来的に不安な場合、どう対応できるのか、その方法やアイデアを挙げます。

①刺激を強めに与えて、活性化を促す
四歳だった私に自閉スペクトラム症の傾向が認められた後、しばらくの間は感覚統合療法という療育の一種を受けていました。感覚統合とは、見る、聞く、触る、嗅ぐ、味わうなどのあらゆる感覚刺激をまとめてキャッチし、身体・精神・行動面において適切に反応できるよう整える機能です。感覚統合が上手くいかないと、通常平気なレベルの刺激にも苦痛を感じるのです。普通なら、「ちょっとうるさいな」で済む騒音を、「まるでハンマーで殴られたようなやかましさ」として感じてしまう等)、逆に苦痛や驚きを伴う刺激への反応が乏しくなります。例えば、ぶるぶる震えるほどの寒さにも平気でいられる等。感覚統合療法は、発達障害児に多い感覚の不具合を調整するために、五感をほどよく刺激するものに触れさせたり、身体を動かしてみたりする療育です。低登録に限らず、感覚過敏を含むその他の感覚統合障害にも効果的です。また、低登録の人は周囲の呼びかけや変化にも気付き辛いです。そのため周囲は、メモや手かざしなどで本人の気付きを促してから、本人に伝えるようにしましょう。そうすることで、こちらがちゃんと話したつもりでも、本人に伝わっていないなど、コミュニケーションの齟齬やトラブルは防げます。

②趣味や仕事の合間に、あえて休憩タイムをつくる
本人が夢中になれる趣味や仕事に取り組んでいても、ずっとそればかり続けていると、当然疲れや限界がきます。私も、趣味や仕事をきりの良い所で区切ったりしないと、下手すれば倒れるまで没頭しかねません。自分の発達特性を把握したうえで、まだまだいけそうでもあえて休憩を取る、別のことをやってみるとことで、疲れが溜り過ぎないようにします。発達障害の人で過集中してしまい切り替えの難しい場合は、タイマーを活用する、部屋の外を出ることで作業から距離を取ることも一つのやり方です。

③休憩タイムで、何をすればいいのか
休憩タイムでは、昼寝をする、横になって目を閉じる、温かいお茶を飲んで一息つく、おやつを食べる等、身体と心を休めるようにしましょう。しかし、休憩タイムで何もせずにじっとしていると落ち着かない、休憩の取り方が分からないと悩む人もいるでしょう。その場合は、軽い散歩や読書、手を軽く動かす家事、身体を伸ばす体操など、自分にとって比較的負担の少ない活動をするのもいいです。私も休憩タイムで横になっても落ち着かない時は、スマホではなくマンガを流し読みする、置きっぱなしの洗濯物や食器を片づけて見る、頭を使わない軽作業、散歩などをします。特に低登録や感覚回避の人は、慣れた刺激や習慣となっている活動がおすすめです。ちなみ私は疲れていると、最近はまっているマンガの同じ巻の同じ場面のセリフを何回も繰り返すクセがあります。最近読んでいる巻は、今の所同じ場面を30回以上読み上げている気がします。きっと落ち着くのでしょう。

④自分が疲れている時のサイン
疲労感や痛みに鈍感な人であっても、特に体に限界が来ていれば、何らかのサインや普段見られない行動パターンを示すことがあります。私の場合、疲れている時は無表情や声の乏しさ、ぼんやり、普段より無口になることが多いです。他には、同じマンガの場面や動画ばかり見続けるか、それすら面倒くさくなる、ひどい時は神経が興奮して大好きなお菓子すら小食になることが多いです。そういう時は、「ああ、今自分疲れているんだな」、と無理して食べたり、作業をしたりすることを一旦止めます。一定時間が経ち、「そろそろ作業やりたいな」、と思い始めた所で再開するようにします。また私もそうですが、発達障害で特に低登録が強い人は、ストレスや疲労が表情に現れにくいです。そのため、私は普段の私をよく知ってくれている人に、「私の顔、疲れて見える?」、と確認してもらいます。そうすることで、自分では気付き辛い疲労を周りに気付いてもらいやすい他、「自分で気付けないから訊いてきているんだな。なら、時々こっちも気にかけてあげよう」、と周囲の見守りも促せます。また、疲れた時の自分の行動パターンを把握している方は、その情報を親しい人に予め伝えておくことも有効です。

まとめ

発達障害の感覚の特異性、とその一つである低登録・感覚の鈍さについて、以下にまとめます。

・感覚の特異性には①感覚過敏の他、②低登録・感覚の鈍さ、③感覚回避、④感覚探求などがあります。

・低登録・感覚の鈍さは、感覚刺激への反応が鈍く、疲れや痛みを感じづらい、気付き辛いタイプです。名前を呼ばれても気づかない、冗談が通じない、見落としが多い等、特に自閉スペクトラム症に当てはまりやすい特徴が多いです。

・実際は、複数の感覚タイプが同居していることが多いです。触られるだけで痛みを感じるのに、怪我をしても泣かない等、感覚刺激の種類や体の部位等によって、敏感さと鈍感さの表れ方が異なるため、非常に複雑です。

・感覚過敏と比べると、低登録は生きづらさや苦痛を感じ辛いです。ただし疲労感やストレスがだいぶ溜まらない限り、自分も周囲も気付き辛いです。すると、知らぬ間に健康や日常生活に支障をきたし、潰れてしまう方も多いです。

・そうならないように、低登録・感覚の鈍さを持つ方は、自分の特徴や行動パターン、休憩の取り方などを把握することが大切です。多くは慣れ親しんだ仕事や作業、趣味に取り組むのが良いと思います。

最期までご拝読ありがとうございました。

参考文献

・岡田尊司(2013)『過敏で傷つきやすい人たち、HSPの真実と克服への道』幻冬舎新書

・グニラ・ガーランド (2007)『自閉症者が語る人間関係と性』(熊谷高幸監訳・石井バークマン麻子訳) 東京書房 

・グニラ・ガーランド (2002)『ずっと「普通」になりたかった。』(ニキ・リンコ訳) 花風社

・「感覚統合」とは? 発達障害との関係、家庭や学校でできる手助けまとめ」
https://h-navi.jp

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

自閉症スペクトラム障害

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