感動ポルノの功罪を問う①〜ステラ・ヤングとバリバラの問題提起

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2016年夏、Eテレの障害者バラエティ「バリバラ」が「24時間テレビ」の裏で挑戦的な企画を行いました。「障害者チャリティー番組」をテーマにした赤裸々なトークは、24時間テレビへの不信感を抱いていた視聴者にクリティカルヒットし、絶賛されることになります。(出演者の中には24時間テレビからバリバラのスタジオへ直行していた人もいました。)

バリバラの当該回から急速に普及していった「感動ポルノ」の概念について、世間では様々な意見が飛び出しています。「障害者を感動ストーリーの媒体にするな!」という声もあれば、「24時間テレビを悪し様に言うだけが正解ではない」という声もあり、探していくとなかなか奥が深いです。

「感動ポルノ」という造語とその是非や功罪について、3回に分けて解説する予定です。お付き合いください。第1回は問題提起を行ったステラ・ヤング氏とバリバラに焦点を当て、造語の興りを見ていきましょう。

「感動ポルノ」の造語が生まれる

原語となる「Inspiration Porn」は、オーストラリアのジャーナリスト兼コメディアンであるステラ・ヤング氏によって提唱されました。2012年のことで、最初はウェブマガジン「Ramp Up」の一記事からの出発でした。やがてステラ氏は、この件でスピーチを行うことになり、その様子が4年後の「バリバラ」でも引用されています。

「ポルノ」呼ばわりはキリスト教圏において極めて攻撃的な表現です。ステラ氏があえて「ポルノ」という単語を持ち出したのは、形はどうあれ健常者にいい気分をもたらす “道具”として障害者を利用する動きへの批判があります。

介助や器具などの支えを要するものの、当事者はただ普通に毎日を過ごしているだけです。しかし、それを見た非身体障害者が「勇気をもらった」「感動した」と反応することに、ステラ氏は長年違和感を覚えていました。スピーチでも「感動する話をしに来たのではない」と念押ししています。

バリバラが取り上げる

「感動ポルノ」の話が載った4年後の2016年夏、Eテレの障害者バラエティ「バリバラ」がこれを取り上げました。ちょうど24時間テレビの裏で、障害者チャリティー番組をテーマとした挑発的な取り組みの数々に、日頃24時間テレビへ不信感を抱いていた視聴者からは激賞されます。具体的にどういった事をしていたのでしょうか。

①独自調査「障害者チャリティー番組をどう思う?」
「バリバラ」の独自調査では単刀直入に「障害者の感動的な番組について、好きか嫌いか」を二者択一でアンケートしました。結果は健常者だと否定寄りの半々だったのに対し、障害者の回答は90%が「嫌い」と答える有様でした。

②仮のドキュメンタリー
仮のドキュメンタリー企画として「障害者の感動的なドキュメンタリーがどう撮影されているか」が放映されました。出演者の一人を主役にした「下半身不随となりスポーツを諦めることになったが、それでも彼女は力強く生きていく」というドキュメンタリーです。しかし、カットされた場面という設定で「病院の先生がイケメンでパワーをもらった」「外が暑い、アイス食べたい」などと平凡で気の抜けた発言をしています。

③24時間テレビのパロディ要素
副題に「笑いは地球を救う」と掲げ、24時間テレビを意識したTシャツまで作って着込むという念の入れようでした。番組の締めには「サライ」の合唱を思わせるパフォーマンスもしたほどです。その一方、挑発するばかりでなく「本音ではあっち(24時間テレビ)のほうに出たい!」と全員が吐露する一幕もありました。

誰もが「気持ちよくなる側」になりうる

自分もその週だけですがバリバラを見ていました。「よくぞ言ってくれた!」と思わないでもなかったのですが、冷静になると「対岸の火事」「他山の石」「正直どうでもいい」という感想になっていきました。標的である24時間テレビが取り上げるのはほとんど身体障害者で、たまにダウン症が取り上げられる程度です。つまり目に見えて分かる障害者しかスポットが当たらず、その点への不満が個人的には主でした。テレビ映えを考えれば仕方のないことかもしれませんが、目に見えない精神障害や発達障害が取り上げられることは滅多にありません。

ただ、「感動ポルノ」で気持ちよくなる側に回る可能性は誰もが持っています。差別するよりは何倍もマシな反応ではあるのですが、感動ポルノへ物申すにあたってダブルスタンダードに陥りやすくなります。

「五体不満足」の著者で知られる乙武洋匡氏も、「AbemaPrime」にて東日本大震災の被災地訪問で「あれ、これいつもの俺の逆側じゃん」と感じた体験を述べました。曰く、「前向きに生きようとする被災地の方々を見て、パワーをもらった感じがした。しかし、それは自分の勝手な思い込みで、被災地の方々は自分たちに感動や勇気を与えようとして生きている訳ではないとも気付いた。」

同番組で乙武氏は、こうした感情が「人間の本能」だとして否定しきれるものではないとし、24時間テレビを補うという意味で「バリバラ」は必要と締めくくっています。確かに価値観の多様化が進む現代、24時間テレビとバリバラのプロレス的な関係は必要かもしれません。

「感動ポルノ」が必要だった時代?

ステラ氏やバリバラが「モノ扱い」と断罪した感動ポルノですが、乙武氏は「否定しきれない本能」として一定の理解を示しています。ここでいう本能とは「優越感を得たい」などというものだけでなく、「弱きを守る」という母性のような本能も含んでいるのではないでしょうか。

要するに憐憫や庇護欲です。これが無かった頃は優生保護法がまかり通るほどの障害者冷遇時代でした。今でこそ「感動ポルノの主犯」として扱われる24時間テレビですが、初期は障害者冷遇の時代を変えた革命児だったのです。

次回は「感動ポルノ」によって障害者福祉が芽吹いた、24時間テレビ初期の功績を主に語っていくつもりです。

▶次の記事:感動ポルノの功罪を問う②~24時間テレビは障害者福祉の革命児だった

参考文献

感動ポルノとは ? ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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