みらいファームに集う仲間たちの日常こそが相模原障害者施設殺傷事件へのアンサー〜映画『フジヤマコットントン』青柳拓監督インタビュー

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©︎nondelaico/mizuguchiya film


障害福祉サービス事業所「みらいファーム」の1年間の日常風景を追ったドキュメンタリー映画『フジヤマコットントン』が上映されています。舞台挨拶では主な出演者である利用者たちもそれぞれのメッセージを表明しました。青柳拓監督へインタビューする機会も頂きました。

母の職場の顔馴染み

──障害者福祉のことはどのように理解してきましたか
「福祉の事というより、昔からみらいファームや利用者さんたちのことを聞かされてきました。母の職場でもあったので、本当に小さい頃から利用者の皆さんと関わってきたんです。一緒に絵を描いたりアイロンビーズしたり、小学校に上がってからは宿題を持っていったりしていました。子どもながらに居心地の良さを感じていて、そういう居場所であり原風景でもありました。特別に勉強していたのではなく、両親とも福祉職というのもあって障害のある人たちを身近に感じてきました」

──お母さまがみらいファームで働いていて、出演者の方たちともやりとりしていた訳ですね
「仰る通り、作中で「青柳さん」と呼ばれているのは僕の母です。母と利用者さんたちは長くて20年来の顔なじみでもありますからね」

全国へ羽ばたく卒業制作


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──映画撮影について昔から勉強していたのですか
「小さい頃から映画にも興味があり、日本映画大学にまで進学しました。映画といえばハリウッドのように派手なシナリオありきだと思っていましたが、大学でに入ってから、人と会って関係性を構築した上で作る「ドキュメンタリー映画」の存在を知って、とてもやりがいのある面白いジャンルだと思い専攻しました。大学生の卒業制作ながら、『ひいくんのあるく町』は全国の劇場で公開されました」

──『ひいくんのあるく町』とはどういう作品ですか
「僕の地元を舞台に、「ひいくん」という青年が寂れてしまって誰もいない商店街を歩き回って地域の人たちと交流する様子を撮ったものです。ひいくんは知的障害があるのですが、十数年毎日のように街を歩いているため、地域に溶け込んでいてすっかり有名人です。彼を主体に、人々との関わりを撮っていくつもりで制作しました」
「僕は幼い頃から知っている彼への好奇心だけで撮っていたので、全国知的障害者研修大会など福祉施設で多く上映され、ひいくんが地域の人たちと自然体で関わる様子がノーマライゼーションの模範としても評価されていることに驚きました。図らずも障害者福祉において重要なことを描いていたことになり、改めて障害者福祉を意識して『フジヤマコットントン』に繋がりました」
「植松聖がばら撒いた『障害者には価値がない』『生産性なきものに死を』という言説に違和感と危機感を抱きました。やはり障害だけを見て目の前の人間への理解が少ないから、そういう言説が広まったのではないでしょうか。僕は生い立ちもあり元々皆の魅力を知っていました。その魅力を伝えられれば十分だろうと思って撮り始めました」

一年かけねば分からない


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──福祉の現場って大部分の人には独特な場所に映るのが現実ですよね
「僕もそう感じます。利用者さんのご家族や職員の方はなんてことのないいつもの日常風景と捉えてくてていましたが、描いているのはルーティンであり緩やかな変化や喜怒哀楽であったわけです。それらは長い時間一緒にいないと理解しがたく、たった一日接しただけでは分かりません。ご家族や職員の方は分かっていても、それ以外の人々にはなかなか伝わらない日常の小さな変化やその魅力を描くために、一年は時間をかけるのは必要があるだろうと思っていました」

──四季が大事な要素だと伝わってきました
「日々のルーティンだからこそ変化の示すのひとつの指標となる縦軸として、四季で移ろう綿花の成長を加えて日々の小さな発見を重ねられるよう努力しました」

──6名の出演者はどのような基準で選んだのですか
「前提として、まず撮影は3人でやりました。それぞれ意思がバラバラなので、撮影方針として『自分が興味を持ち主体的に撮履帯と思った対象を撮る』ことを提案しました。撮影者がちゃんとみらいファームに馴染んで、そこにいる人と関わりながら撮ることが必須でした。各々が主体性を持ち、撮影者それぞれのタイミングによって、自然に6人が中心となった感じです」

──撮り方で工夫したことを教えてください
「みらいファームは地域との関わりを大切にしている施設です。どんなにオープンな施設でも撮影のカメラが入るというのは大変なことです。母が職員であること、僕も顔馴染みであり、『ひいくんのあるく町』の実績があることこれらの積み重ねがあったからこそ撮影への理解が得られたのではないかと思います。利用者さんの中には映りたくない人も居いらっしゃるので、そうした意思も汲みながら撮影をさせていただきました」

価値のあるなしで争うことは不毛


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──相模原の事件について個人的な想いを聞かせてください
「人間の価値を測って判断することは、そもそもすべきものではありませんし、敢えて自分に価値がある/ないと宣伝するものでもありません。生きていること自体が貴く、価値のあるなしの土俵に上がる必要性すらないのです。誰にでも誇れる部分があり、それをただ伝えることだけが本当に必要なのだと思って撮影しました。価値判断に依らないポジティブな魅力、多少困ったことがあっても、喜びに目を向けることが植松とその言説へのアンサーになるのではないでしょうか。『皆、生きている。そこに喜怒哀楽がある。時には大変なことすらも魅力になりうる』そんな当たり前のことを伝えるための映画でもあります」

「撮影でもう一つ意識したのは、出演者の皆さんの声です。ご家族や職員の方々の声ばかりになると、利用者さんをよく知る人の意見として気持ちが引っ張られてしまいます。観ている人が自分自身で考えられ、発見していける映画というのは、稀少ではないでしょうか」

──今後はどのような映画を撮っていきたいですか
「水道橋博士が参議院選挙に出馬してから当選するまでの1か月を追ったドキュメンタリーを既に撮っており、今は編集の段階です。彼は参院選で当選を果たしたのですが、その後うつ症状によって議員辞職されます。そこから寛解した様子も撮影させていただいています」

映画『フジヤマコットントン』は、現在、東京・ポレポレ東中野で上映中です。3月8日(金)からは静岡シネ・ギャラリーで、3月9日(土)からは横浜シネマリンで、3月23日(土)からは埼玉の川越スカラ座で公開されます。
詳しくは公式ホームページの劇場情報をご確認ください。
https://fujiyama-cottonton.com/theater.html

映画『フジヤマコットントン』公式サイト
https://fujiyama-cottonton.com/

映画『フジヤマコットントン』予告編


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障害者ドットコムニュース編集部

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