居住支援で命を救い続ける1人の男を追う~『家さえあれば~貧困と居住支援~』海老桂介監督インタビュー

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テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場として開催されてきた「TBSドキュメンタリー映画祭」。4回目の開催となるTBSドキュメンタリー映画祭2024で上映された作品の一つ『家さえあれば~貧困と居住支援~』の海老桂介監督にインタビュー取材しました。この作品は、生活困窮者への居住支援に携わる一人の男性を追ったドキュメンタリーで、形となった支援を継続して結果も出している中で、夜逃げで裏切られたり突発的に自死されてしまったりする、ままならない現実もまた映しています。

思い付きから貴重な出会いへ


海老桂介監督

──困窮者支援を継続し結果も出している坂本さんはとても貴重です。どうやって見つけたのですか
「コロナ禍の2020年冬、職や家を失った人が多いのではと思い立って色々ネットで検索していたら坂本さんの存在を知りました。スピード感のある困窮者支援をやっているなと直感したので、その日のうちに電話で取材の依頼をしました。今までテレビ取材は断っていたそうなので、実際にお会いして趣旨を伝えて承諾を頂きました。それから1,2週間取材して地上波の特集で放送したのが最初の交流です」

──生活保護申請に付き添う場面もありましたが、生活保護に関してどのような話を聞きましたか
「坂本さんもよく言われていましたが、とりわけ地方だと今自分が住んでいる場所で生活保護を受けたくないという方が意外と多いんですよ。地方では職員が知人ということも珍しくないですし、周りの目もあって躊躇いが生じます。そうして生活保護が貰えないぶん生活も悪化していき、首が回らなくなります。偏見や差別を気にするあまり、本当に必要な人へ届いていないなと感じていました」

──「ホームレス中学生」の麒麟・田村裕さんをナレーションとして起用した経緯を教えてください
「番組よりも尺の長い映画なのでナレーションを再録しようと思い、ふと浮かんだのが『ホームレス中学生』です。田村さんはナレーション経験どころか、滑舌をいじられることさえある芸人ですが、実体験を喋れる方の中でも最も有名な方でもあります。ナレーションスキルよりも実際の経験を重視し、ダメもとでオファーを出しました。快諾して頂いて嬉しかったです」

独り悪態をつくのは、本気の裏返し


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──坂本さんに密着取材をして、どのような感想を持ちましたか
「裏表のない人だと感じましたね。大体キレイゴトを言う人って裏があるじゃないですか。坂本さんはキレイゴトも汚いリアルもまとめて言えるのが良い所です。無理なことは無理とハッキリ言えますし、自分たちの限界もちゃんと伝えられます。そういう裏表のない人だからこそ、芯に迫りたい気持ちもありました」

──夜逃げされて独り悪態をつく場面も映した意図をお聞かせください
「居住支援は傍で見ているだけでも非常に大変と分かる仕事で、上手くいかないことばかりです。それを坂本さんや事務所の情熱・気力・優しさで保っている側面があります。だからこそ、感情の発露も見せたかったのです。裏切られれば悪態の一つもつきたくなるのが当然です。僕たちの関係性ゆえに見せてくれたのだと思い、絶対に映そうと思っていました」

──「ホームレス支援をやめろ」のような言説に対して思うことはありますか
「困ったときに困ったと言える社会であるかどうかは大事なことではないかと思います。様々な事件を取材する中で、相談する相手がいなかったりSOSが出せなかったりするのが根底にあるのではと感じていました。その発言に対して思うことがあるとすれば、ある程度立場や知名度のある方がそういう発言をするせいで今困っている人が一層声を上げにくくなるじゃないですか。結局撤回されたのも、それで思い直したのかもしれません」
「坂本さんに対してもアンチは結構います。貧困ビジネスなどと揶揄する者もいますが、それは支援を受けた人が決めることであって、周りが決めつけることではありません。困っている人が困っていると言える社会のため、まさに坂本さんが頼れる先として発信していると思います。アンチなんかにブレることなくいて欲しいですね。いつ困窮するか分からないのに、人を見ず外野から不用意に発言するのもどうかと思いますね」

──困った人がSOSを出せる社会のため、一般人に出来ることは何でしょうか
「根本的な解決策はないでしょうね。呼びかけたところでどうにかなるものでもないし、よりよいものにしていく努力をしていくしかないですね。坂本さんのような人や団体の存在を思い出してもらえたら何とかなるかもしれません。僕らメディアに出来るのは、その存在を伝えることくらいですが、発信して知ってもらうことを今後も大事にしていきたいです」

誰でも簡単に孤独となる


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──メディアとしてアンチに気を付けていることはありますか
「いくら気をつけても思わぬ角度からアンチは攻めてきます。配慮と伝えることの境目は難しいのですけれども、コメントによって気付かされることもあります。その都度対処していくしかないですね。アンチには正直思う所もありますが、ヤフコメで好き勝手書かれるリスクを取材対象者に背負わせている側面もあるでしょう」

──YouTubeとYahoo!ではコメントの質が全然違いますよね
「(ヤフコメは)学び以前に、取材対象者を苦しめる要素もあると思うので、テレビ以外の媒体に発信する時は本当に大丈夫なのかチェックしています。それでも予想を超える内容のコメントが来るわけですが」

──映画が社会に対してどのようなプラス作用をもたらすとイメージされていますか
「大前提として、映画とは映画館に行く余裕のある人しか観られないので、坂本さんを頼るべき人には届かないでしょう。ただ、出てくるのは皆生活に困窮する人々です。共通しているのは孤独で、家族や友人との繋がりも簡単なことで崩れる可能性は誰にでもあります。作品を観た人には、一旦自分の周りの繋がりを再確認してもらい、孤独にならないよう自分自身を見直してほしいですね」

──立て直す人もいれば裏切る人もいて、難しいですね
「実際に上手くいかない人も一定数居るので、とんとん拍子には見せたくなかったですね。坂本さんの活動の大変さと、崩れた生活を立て直す難しさも伝えたかったので、裏切って夜逃げしたり突発的に自死したりするケースも映しました」
「坂本さんだけでは限界があるというか、彼のような人や取り組みが全国にあればいいのですが、国や行政が救える訳でもありません。善意あるNPOが増えるのがいいのでしょうけれども」

支援の存在を知ってもらいたい

──この映画での経験を今後どのように活かしたいですか
「坂本さんの活動は引き続き追っていきたいですし、取材の中で色々なものが見えてきたので、それを別の取材にも活かしていきたいです」

──障害者が生活に困りやすいことも感じていますか
「手帳はおろか、障害に気付きすらしていない人は結構多いです。坂本さんもそれとなく指摘することがありましたね。自覚していないゆえに放置され、周りとも疎遠になって孤独になりお金も尽きていくのでしょう。障害と貧困は結びついているでしょうし、自分の障害に気付いていないことも多いです。まずはそこをクリアしないと貧困は解決しないでしょうね」
「発達障害は目に見えないじゃないですか。大人になってから気付けるならまだ良いですが、ほとんどの人はそうなっていませんよね。例えば会社にそういう人がいたとしても、ハラスメントを恐れて言えずにいます。それでも誰かが言わないと、その人は蓋をしたまま生きていくことになります。一番いいのは親など近しい肉親が気付くことなのですが、それが叶わない人も多いですね。障害を認めて支援を求めた方が人生にとってプラスだと思います。障害や支援の存在を当たり前に知れる世の中になって欲しいですね」

──最後に伝えたいメッセージなどはありますか
「いま生活に困っている方がこの作品を観る余裕もなければ直接届くこともないでしょう。ただ、これを観た方が、実際にこういう支援がある事を知ってもらいたいです。そして、明日にも家を失いそうな人が居たら、居住支援や生活保護もあると教えてあげてください。誰もがちょっとした拍子で家を失う可能性があります。今ある繋がりが当たり前ではないと自覚するだけでも世の中は変わって見えてきます」

『家さえあれば~貧困と居住支援~』(3月22日(金)より上映)

3月22日(金)14:20の回上映後舞台挨拶
【登壇者】監督:海老桂介
     ゲスト:麒麟 田村裕(芸人)、坂本慎治(NPO法人生活支援機構 ALL 代表理事/出演者)

3月24日(日)14:30の回上映後舞台挨拶
【登壇者】監督:海老桂介
     ゲスト:坂本慎治(NPO法人生活支援機構 ALL 代表理事/出演者)

監督:海老桂介
ナレーター:田村裕(麒麟)
撮影:薮下卓義
助手:栗本誠二
選曲:佐藤公彦
整音:西川友基
タイトル:木下実咲
編集:金井隆輝
プロデューサー:橋本佐与子
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=cxqlWcAI6MQ
コピーライト:©MBS

「TBSドキュメンタリー映画祭2024」は、3月15日(金)より全国6都市[東京・名古屋・大阪・京都・福岡・札幌]にて順次開催。
詳しくは映画公式サイトをご確認ください。
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

「福祉をもっとわかりやすく!使いやすく!楽しく!」をモットーに、障害・病気をもつ方の仕事や暮らしに関する最新ニュースやコラムなどを発信していきます。
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