不満にコミットする才能と、その危険性
暮らしPhoto by Paul Pastourmatzis on Unsplash
色々な意味で上手い所を突いてきたなと思わされる広告が一つあります。JR西日本が2018年から展開するマナー啓発広告「ちょっとちょっと!なマナーいきものペディア」のシリーズです。これは駅や電車において望ましくない迷惑行動の数々を、様々な生き物(というか畜生)になぞらえる広告群で、「さわやかマナー」という割には当たりが強く感じられます。(実は同じ生き物が望ましい行動をとる様子も描かれています。隅の方に小さくですが)
何が上手いのかと言うと、駅や電車を利用する中で遭遇する大小さまざまなフラストレーションが「畜生」という形で表現されていることです。列に横入りする「よこカラスー」や、駆け込み乗車する「かけこミジンコ」の他にも、席を譲ろうと言い出せない「勇気がデンデンムシ」、介助を申し出ない「恥ずカピバラ」といった行動に移さないタイプの「畜生」まで存在します。
担当者はメディアの取材に対し「『こうしちゃダメ』『こうせねばならない』という画一的なお願いではなく、お互いにご配慮いただきながら、興味をもって『マナーの大切さ』に気付いていただけるような取り組みをめざしています」と答えていますが、「畜生扱い」がメッセージとして強烈すぎることは否めません。
正直、下品な広告群だとは思いますが、「多くの共感を得る」という現代に求められる要素は多分に備えており、広告として成功するのも頷けます。「いきもの」と銘打ちながら一部は調理済みの死骸という抜けた要素も、愛される部分ではあるでしょう。
多くの共感を得て味方を集める手っ取り早い方法は、あまねく人々が抱いている不満やモヤモヤにコミットすることです。「ああいうの、ウザいな」という漠然とした不満をキャッチし、それに寄り添う発言や行動をとれば、同じ不満を抱く多くの人間から支持を得られます。たとえその支持が一時的なものであったとしても、目標までの推進力として必要な分が集まれば万々歳でしょう。
ただ、これは狙って出来る芸当ではありません。愚痴半分の呼びかけが予想以上に多くの共感を呼んだラッキーヒットに過ぎない事が大半でしょう。逆にニッチな不満を拾ったせいで自滅のうえ梯子を外される方が多そうです。寧ろ、広汎な不満をリサーチした上でそれに寄り添うほうが「扇動者」としての素質に恵まれていそうで恐ろしくはないでしょうか。
何はともあれ、人々の広汎な不満をキャッチし、上手に咀嚼してコミットすることは、賛同者を爆増させるうえでとても有利に働く“能力”です。歴史上、その能力を世のため人のために活かせた試しは皆無に近いので、やはりラッキーヒットしか期待できない程度に留まった方が健全ですね。
参考サイト
寝たふリス、よこカラスー、駆け込ミミズク…ダジャレでマナー啓発
https://withnews.jp