診断された病名は絶対的なものなの?

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精神障害の種類は結構な数が存在し、その説明も一見すると難解なものが多いです。「どれが私に当てはまっているの?」と不安になる方がいらっしゃるかも分かりません。今回のコラムはその点にフォーカスした内容となっています。

先生だって、なんでも分かる訳ではありません

精神障害の診断は難しいということをよく聞きます。このコラムの筆者自身、自閉症スペクトラム(ASD)のみで注意欠陥多動性障害(ADHD)は認められないと診断を受けたものの、後々になって実はADHDの疑いがあるかもしれないと分かった、という経験があります。実際に体験している身としては、割とよくある話なのかもしれないというのが率直な感想なのです。

そもそも精神障害の診断は、診断テストや精密機器検査(CTスキャンやレントゲンなど)を行なって判断するものもありますが、基本的には、担当医と共有するこれまでの生い立ちや困りごとのエピソードなどの内容によって判断する部分が大きいです。つまり、担当医の捉え方や考え方次第で診断が変わってくるのです。それもそのはず、精神障害はその定義自体が曖昧なものが非常に多いのです。そんなアバウトな障害の全容を正確に詳細に理解することを全ての精神科医師に求めるのは酷というものではないでしょうか?

障害名にとらわれず、自己理解を行ないましょう

ここまでコラムを読んで「もしかしたら、私の精神障害は正しい診断をされないかもしれない」と不安になった方がいるかもしれません。これは筆者である私個人の考えですが、精神障害の診断が難しいことが大きな問題になるかというと、そうではないと思います。

確かに投薬治療を必要とする障害に関して誤診があれば、間違った薬を処方してしまう可能性があります。その場合は薬の効果によって精神や肉体に悪影響を及ぼしてしまうことがあるので、そういった面では問題と言えるでしょう。しかし投薬治療ではなく、カウンセリングやメンタルヘルスケア、コミュニケーションのトレーニングなどといった心理療法に関しては、薬害が起こるケースはありえません。そして精神障害と向き合う際には、投薬よりも心理療法を主軸とするのが一般的です。

「投薬がなければ誤診があっても大きな影響はないです」という説明だけでは不安に感じる方もいらっしゃると思います。それはおそらく、誤診の影響が心理療法の内容を大きく変えてしまうのではと懸念しているからではないでしょうか?

精神障害の症状は人によって千差万別で、同じ診断名であったとしても、人によって抱えている障害の特徴は十人十色です。ですが心理療法は複数人で行なうプログラムも数多く存在します。そしてそれらは種類の異なる精神障害を持つ方達が集まって行なっているケースの方が圧倒的に多いです。なので、精神障害の種類によって提供される情報やツールに大きな変更は起きにくいのです。つまりどんな診断であっても、取り組むことが大きく変わることはありません。そしてその取り組みは総じて、障害者自身が自己理解を進めることに繋がっていくのです。

障害説明欄には障害についてのみ書かなければいけないのか?

就労を本格的に目指そうとする段階で、自分の診断について「本当に正しいのか?」という気持ちを強くする方もいます。障害者求人やオープン就労を目指されている方は、障害説明欄を記入する必要があります。障害説明欄とは自分の困りごとや対処法、どの程度までなら自力で改善できるのかなどを記入する欄のことです。精神障害はその人の個性と強く複雑に結びついていることが多いのですが、ここを記入する際に「この欄に書くのは『障害』についてのみだ。『個性』については書いてはいけない。」と思い込んでしまう方がたまにいます。事実、コラム筆者である私もその一人でした。思い込んでしまうがゆえに、自分が何の障害を持っているのかについて明らかにしなければという不安に駆られてしまいました。

障害説明欄に『障害』の部分だけを書かなければいけないということはありません。この欄には『障害』と『個性』の両方を記載して大丈夫です。(『障害』と『個性』の両方を合わせたものを『特性』と呼ぶことが多いです。)

また、私の場合は障害説明欄に書ききれないほどの伝えたい内容が浮かんでいたため、推敲する時に優先的に障害特徴の部分を書かなければというこだわりを持ってしまったのですが、書ききれない部分はナビゲーションブックという別の書類に記載して持参すれば大丈夫です。ナビゲーションブックとは簡単に説明すれば「自分自身の説明書」です。障害説明欄に記入する内容の項目とだいたい同じではありますが、伝えることができる内容の分量が違います。障害説明欄と比べると記載できる分量はケタ違いなので、『障害』についても『個性』についても、自己理解で得られた内容を余す事なく書いていきましょう。

診断された障害名はあくまできっかけです

障害はあくまで自己理解を始めるきっかけに過ぎません。診断名が違っていたとしても、病名が足りなかったとしても、自分の『特性』を具体的に説明できるものにするというひとつの通過点が変わることはなく、通過点に向けて取り組む自己理解の手法が大きく違ってくることもありません。大事なのは診断される病名ではなく、自己理解なのです。

参考文献

【障害者職業センター 発達障害関連の実践報告書及び支援マニュアル】
https://www.nivr.jeed.or.jp/index.html

物部幸氏(もののふゆきうじ)

物部幸氏(もののふゆきうじ)

自閉症スペクトラム障害のアラサーライター。元営業マン。
趣味は俳句と外食。最近はテーブルゲーム収集がマイブーム。

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