引きこもりの立て直しには自己受容が必要~コロナ不況の今こそ知っておきたい引きこもりの心理
暮らし出典:Photo by Jp Valery on Unsplash
緊急事態宣言が解けて元通りになったものと言えば、引きこもりの方々が抱くどうしようもない焦燥感や劣等感です。昔「引きこもりは毎日が夏休みと言われるが、実際は毎日が8月31日である。終わらない焦燥感や無力感にいつも苛まれている」という書き込みを見て「なるほどなー」と膝を打ったものです。
誰でも一歩間違えれば引きこもりになります。父が難病による退職から引きこもりになったのを間近で見たので、これは断言できます。ネットに蔓延する引きこもりへの無責任な意見は、「お前らは運がいいだけ」と思いながら一瞥しています。
特にこのコロナ不況では路頭に迷う人も増えるでしょう。引きこもり最大のトリガーである「失職」「退職」「就活難」が活性化する今だからこそ、真剣に考えねばなりません。
立て直しには時間がかかる
引きこもり状態の人間に求められるのは、「引きこもっている自分を受容する」ことだそうです。言い換えれば、「社会に求められる人物像でなくてもいい」と思えるようになることで、実は緊急事態宣言中こそ引きこもりにとってそれが出来る環境でした。社会の常識が「外に出て働くのが大人」から「無駄な外出を控えるのが善」へと変換されていたからです。
とはいえ、宣言の解かれた現在は社会の求める人物像も元通りになっており、引きこもりにとって苦しい状態へ戻りました。自分が引きこもっている状態を受容するのは最終的に自身の心持ちが問われ、引きこもる自身が受容できないまま何年も経過するケースが多いです。
これには家族や周囲や社会が非受容的な対応(引きこもりを隠そうとしたり就活を催促したりする等)をとる外的要因もありますが、社会に合わない自分を受け容れられない内的要因もあります。あの熊澤英昭元事務次官の息子は生前「自分は地主」「絵描き志望」と頑なに言っていましたが、あのように自分が無職と認めたがらないのは自己受容に至っていない可能性が大です。
発達障害持ちの中には度が過ぎた完璧主義思考を持つ人もおり、そうした人が二次障害で引きこもりになると自己受容はほぼ絶望的になります。完璧主義でなくても、厳格な人間だと引きこもり化したときの重篤化は激しいでしょう。社会の求める人物像と著しく乖離した自身を受け容れるには長い年月が必要で、1年以内の解決はほぼ無理と思われます。
支援体制はとにかく脆弱
引きこもりに対する公的な相談機関は自治体ごとに一応存在しますが、対応の質は必ずしも高いと限りません。相手も専門家ではないので、せっかく相談に出向いても逆に責められたり詰られたりタライ回しにされたりと時間の浪費で終わることもままあります。
公的機関が頼りにならなければ民間団体を選ぶことになるでしょうが、そこはピンキリという言葉では足りない程激しい格差があります。専門性の高い人間が集まり実績を持つ団体であれば引きこもり支援を受けられますが、金欲しさに引きこもり支援を謳う劣悪な業者に当たると大金を失うだけで終わってしまうのです。
偽支援の業者は、「引きこもりを自立させたい」という家族の弱みに付け込み高額な謝礼金を継続的に要求します。時には巧く言いくるめ、時には拉致同然に無理矢理引き出して、自らの施設に押し込んでからは監禁したり単純作業をさせたりと飼い殺しにしてしまいます。当然、まともな自立支援プログラムなど組んでいません。脱出できたとしても、家族関係は以前より悪化して引きこもり改善はより遠のくでしょう。
真っ当な団体でも単純に就労だけを目標としている節があり、人間関係の不安など引きこもりにとって根深い問題を解決しないまま企業へ就職させる場合もあります。その場合、放置されたトラウマがぶり返して再退職となりやすいでしょう。これは「就労率」が引きこもり支援の評価軸となっている事情も関係しています。
引きこもり支援、取り返しのつかない失敗談
「3か月」に惹かれて…
仕事の増加と賃金の減少から25歳で退職したAさん(30)はそのまま引きこもりになり「仕事の意義」も分からなくなっていました。Aさんの父親はしきりに再就職を求め、喧嘩になることもありました。
父親は息子のことを誰にも話せぬまま、一度は公的機関に相談したものの「引きこもり当事者の交流会など参加してくれる筈がない」と断念してしまいます。そんな折、ネットで「最短3か月」を謳う業者を見かけます。
業者に預けられたAさんは寮で共同生活をしながら青果市場で働く生活を送り、親は自立を予感していました。ところが1年経って帰ってきたAさんの顔には生気がなく、「共同生活も青果市場もつらい」とこぼしてますます引きこもるようになったのです。
「何も変わっていない」と感じた父親は再入寮を決断しましたが、その直前になってAさんは失踪します。Aさんは海上で遺体となって漁師に発見されました。遺書の類は発見されず自殺かどうかは断定されませんが、両親に「寮に戻さない」という選択肢があったことは疑いようもないでしょう。
取るだけ取ってドロン
Bさん(76)は36歳の息子が引きこもっていることに悩んでいました。そこで知人から紹介された業者を頼るのですが、3か月契約で約450万円という超高額な値段でした。息子は自宅に押し掛けた社員の2時間半にわたる説得により業者の施設へ入所します。
3か月後は半年の契約更改として更に550万円、そして半年後は1年分の契約更改として1050万円を借金までして払いました。ところが1年分の更新を済ませた数か月後、業者は急に息子をBさんへ送り返し、翌月には破産を申し立てて会社を畳んだのです。Bさんは、「あの時業者は1年更新に拘っていました。思えば破産を見込んで逃げるつもりだったのでは…」と話します。
その業者は別の利用者から「暴力的な引き出し」「地下室への監禁」について訴訟を受けていたのですが、破産に伴い停止しました。債権者集会では、業者の社長はうつ病を理由に沈黙を貫き、代理弁護人を通して「訴訟や報道などで評判が下がり破産した」と言い訳する有様だったそうです。
返金の目途は立っておらず、Bさんは息子の引きこもりが続くばかりか計2000万円までも失ったままです。
社会の要求は青天井
引きこもりの自己受容に話を戻しますが、ネットコンテンツが発達して久しい今は家でも社会の求める人物像を知ってしまい、自己受容が難しくなっているように感じます。「いっぱしの社会人」の基準がフット・イン・ザ・ドア(簡単な要求から段々引き上げていく交渉術)かつ青天井(上限がないさま)となっているのです。
「部屋から出ろ」「家から出ろ」「ハローワークに行け」「就活始めろ」「就職しろ」「独立しろ」「会社で友達作れ」「恋人作れ」「結婚しろ」「子どもを作れ」「出世しろ」「年収上げろ」と、ネットの書き込みから社会からの要求を感じ取っていけばそれが際限なくエスカレートしていることが分かる事でしょう。
これに横から「整形しろ」「アウトドア趣味始めろ」などと追加指令が入ったり、「35歳までに」などと時間制限が入ったりします。まるで小学生同士が言い争うようなもので取り合っていられないのですが、社会の要求が滲み込んでいる以上ある程度は従わねばなりません。
社会の要求は青天井でエスカレートしていきますが、それでもなお人を社会に適合させようと必死になる支援者は多いです。これは引きこもりに限らずあらゆる支援で共通しています。社会が容易に変わらない以上自分が変わるしかないというのは理解できますが、その行き着く先は恐らく自己責任論です。
参考サイト
若者のひきこもり 生きづらさの解消|牛田莉子(PDFファイル)
http://www.f.waseda.jp
引きこもりの息子、業者頼った末……遺体で発見 自問自答続ける親【西日本新聞ニュース】
https://www.nishinippon.co.jp
ひきこもりを無理矢理連れ出す「引き出し屋」悪質で暴力的な手口
https://news.livedoor.com
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