「生きづらさダヨ!全員集合」オンラインイベントレポート③~お役所仕事との折衝
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Choose Life ProjectのYouTubeチャンネルにて8月30日から配信されている「生きづらさダヨ!全員集合」の動画を何回かに分けてレポートしています。動画はGet in touch公式ホームページでも視聴できます。
4人のメインスピーカーによる生きづらさ発表を軸とした番組構成となっており、「否定しない」「比較しない」「指導しない」をモットーに100人の一般オーディエンスもZoomを介して参加しています。
3番目のスピーカーは日本ダウン症協会理事の水戸川真由美さんです。水戸川さんが語ったのは、障害者に対する役所の対応のやるせなさでした。
(コラム中に出る「東」は東ちづるさん、「水戸川」は水戸川真由美さんを指します。)
子どもの前では泣かない
水戸川「私自身は障害のある当事者ではありませんが、障害者の家族を介護する立場ではあります。そこで『私の涙』についてお話しさせて頂きます。
36年前に娘を出産した時は仮死分娩で、生後は脳性まひで完全介護が必要と判明しました。医師から『後遺症で脳性まひになり、将来歩けなくなる』と告げられた時はショックを受けました。妊娠中は何もかもが楽しみだったのですが、その将来の楽しみがガタガタと崩れ落ちたような。それで、他の人もそうかもしれませんが、自分を責めてしまう訳ですね。妊娠中の生活に問題があったのかと、当時は大泣きをしました」
水戸川さんはまず、第一子出産に関する気持ちの変化を語りました。出産したばかりの頃は将来の不安や自責などで心を乱しがちです。しかし、水戸川さんは泣いたままで終わらず、支援団体のことを知るなど行動を起こします。
水戸川「感情が落ち着いて、同じ障害者支援の業界を覗いてみると、『このくらいなんてことない』と思える期間が少しずつ延びてきて、ある種の図太さがついてきます。娘が36歳となった今でこそ『元気あるね』と言われますし、図太さも自負していますが、出産してすぐ強くなったわけではありません。産後に経験値を積み上げただけです」
水戸川「第一子を出産して7年後に第二子、更に7年後第三子を出産しました。第三子はダウン症なのですが、障害のある子をたくさん見てきたのですぐに気づきました。自分から医師に『ダウン症ではないですか?』と切り出したほどですが、実際にダウン症かもしれないとまた泣いたわけです。現実厳しいなと。
しかし本人の前では涙を見せたくないので、看護師に預けて一人泣くことに一晩費やしたのです。せっかく授かった子の前で泣くなど失礼だと思っていたので」
脳性まひの長女が14歳の時に授かった第三子がダウン症と気付いた水戸川さんは、現実に耐え切れず泣きたくなりました。そこで水戸川さんは、一旦看護師に預け、一人泣き暮れることに集中したのです。耐えきれない感情を適切に吐き出せたのが、水戸川さんの凄い所です。
区役所で後回しにされる
水戸川さんは今年最も泣いたことを話し始めます。ただ、これまでの話と明らかに違い、病院ではなく役所でのやり取りに端を発しているようでした。
水戸川「そして最近また泣きました。コロナ騒ぎで『障害者は後回しにされる』なんて話も出回り不安になっていた中、息子がPCR検査をすることになったのですが、『知的障害があって初めての場所はかなり怖がるんですが』と区役所に相談すると『例外で分からないから保健所に聞いてください。』と返されたのです。それで取り残された感じがしてまた泣きましたね。後回しにされる生きづらさを実感したというか。検査自体は何とか受けられましたが、その経緯に障害者の後回しがあったわけで」
東「突き放された感じ?」
水戸川「顔見知りの相談員だったのですが、障害のある人を検査した症例を聞いたときに『分からない』と言われました」
水戸川さんが直面したのは、役所の窓口と障害者の相容れなさでした。障害者であるからには時として何かしらの配慮を求めることがあります。しかし例外を嫌う傾向の強い役所にとっては「どうにもならない相手」になりやすいのです。
東「その時どうしてもらいたかったですか?」
水戸川「『一緒に探してみましょう』と言ってもらいたかったです。結果がどうだというよりも、『お時間下さい』『担当に聞いてみます』など寄り添う言葉が幾らでもあったのに出てこなかったのが残念でした」
東「お役所絡みだとそういう話が多いですね。新幹線に乗るにも何をするにも、『お付き合いいただけない』というか…。私が危惧するのは断られ慣れて最初から諦めてしまうようになることです」
この話で東さんが恐れているのは、役所で門前払いにされたりタライ回しにされたりすることによる学習的無力感です。その結果、自分の生活向上を諦めるセルフネグレクト状態になりかねません。
東「行政も忙しいというのはあるでしょうが、シミュレーション不足の感じは否めません。分からない時の聞き先がハッキリしていないと、少しでも分からないことがあれば『手に負えない』『例外だ』とシャッターを下ろしてしまう訳です。結局は、『人』なんですね」
水戸川「役所には転勤がつきものですが、そのたびに新しいことを覚えなければいけませんよね」
オーディエンスの提言
オーディエンスの質問タイムです。ただ、今度は質問でなく理路整然とした提言が述べられました。
――制度と距離感の話になります。まず制度面で言うと、国の制度や支援団体について知らない人や調べ方すら分からない人が大勢います。知りたくても知ることが出来ない現状なので、NPOやNGOと国が連携して周知活動に励んでくれれば有難いです。
距離感の話ですと、小学校の頃は障害を持つ児童と一緒に給食なり何なりで過ごしていたのが、中学高校と上がると教科書でしか知れないような遠い存在となるのが現状です。学校現場のルールを変えて、障害を持つ子が身近になれるよう改革されたらいいなと思います。
あとは、役所の窓口です。役所にはマニュアルがあるのでしょうが、そのマニュアルはまず健常者ありきで障害者は例外・付記で後回しとも聞きました。そういう所の考えや価値観をアップデートしてもらいたいです。
東「まさに、おっしゃる通りです」
水戸川「共存してこそコミュニケーションがとれるので、小さい時から身近にいるだけでも変わってきますね。支援学級まで同じ門をくぐるなど、そういう工夫だけでもふれ合う機会は増えていきます。大人になる前にこういう共存を…」
東「共生・共存・インクルーシブという言葉は広まっていますが、現実はまだまだ未成熟なところがありますよね」
水戸川「そこから変えていってほしいですね」
東「変えてほしい声はネットでも毎日あまた挙がっていますよね。変えていくには、省庁・超党派の政治家・行政と繋がっていくこと、敵視せず繋がりながらよりよい社会を作っていくことです」
国の制度は未成熟と言わざるを得ません。だからといって敵意剥き出しで接しても訴えが通ることはないでしょう。ある種の冷静さを持って現行制度に向き合いながら、変えていくための方法を探していくことが大事だと思います。
理知的な交渉を
東「例外だからとか前例がないからとか言って逃げていては前進しませんよね。道が無ければ探しましょう、或いは作りましょうという姿勢で…。道が無いのは作ってないからで、道を作ること自体は可能ですよ」
水戸川「例外のある事が当たり前になるように努力は必要で、それは我々にも求められています。無理と言われても諦めないことと、それでも怒らず上手に伝えていくこと、クレームではなく交渉することが大事だと思います」
東「敵対しがち・怒りがちになるけれど、分断では解決しませんからね。頭にきても上手に伝えて繋がっていきましょう」
その他の障害・病気