「第2回生きづらさダヨ!全員集合」レポート③小林りょう子編~トランスジェンダーの子どもが下した決断
暮らし その他の障害・病気◀過去の記事:「第2回生きづらさダヨ!全員集合」レポート②佐藤ひらり編~不自由ではないが、不便ではある
10月22日からYouTubeで配信されている「生きづらさダヨ!全員集合(生き全)」の第2弾をレポートしています。3人目のスピーカーはNPO法人「ハートをつなごう学校」の副代表である小林りょう子さんです。
ハートをつなごう学校の活動内容についての詳細は省きますが、そこで働く原点となったのは子どもが自身のトランスジェンダーをカミングアウトしたことでした。
子どものカミングアウトに対する小林さんの反応は「私のせいじゃないよね」という言葉でした。しかし、一見無責任に思えるその言葉が逆に救いとなったのです。その理由はどこにあるのでしょう。
子どものカミングアウト
小林「私自身生きづらさはないので、子どもの話をします。皆さんはメンバーズカードを何枚お持ちですか?17年前、当時22歳の子どもが初めてメンバーズカードを作りました。性別を『女』から『男』に変えるメンバーズカードです。『自分は女の着ぐるみを捨てるよ』と言われたとき、私の第一声は『分かったよ。でも私のせいじゃないよね?』でした。
昔から私は子どもの問題行動を母親のせいにする風潮に嫌悪感を抱いていました。母乳神話や三歳児神話も若い頃から疑問視していました。なのでカミングアウトを受けた時も『これは私の問題ではない。あなた自身がどう生きるかの問題なんだよね?』という思いで言ったのでしょう。
本人は『カミングアウトの反応次第では、今日がこの家にいる最後の日になるかもしれない』という覚悟でしたが、私含め家族皆『君が君であることに変わりはないよ』という反応だったので拍子抜けしていました。それ以前にも、相談したくても言葉が出ず消えてしまいたいと思うことが何度かあったそうです。でも、そのつらかった時間が本人の自分を再生するためにとても必要な時間でした。
カミングアウトのあと、私たちは長い手紙を貰いました。その中に『不便で寂しくて悲しい時はあったけど、不幸ではなかった』とあって、長い間自分が何者か分からず悩んでいたのにここまで前向きになれるのかと驚きました。その言葉が今こうして活動している原動力となっています。
いま私はハートをつなごう学校という団体で活動しています。子ども達にLGBTを正しく知ってもらおうと立ち上げた団体です。自分がLGBTなのか分からず一人悩み困っている子ども達に、『大丈夫だよ。一人じゃないよ。たくさん仲間がいるよ』と知ってもらうために始まった団体です。LGBTの先輩たち、既に社会へ出て活動している多くの先輩たち、アライ(Ally)さんと呼ばれる方たちのメッセージをWebで配信しています。
ありのままに生きていい社会、わざわざカミングアウトをしなくていい社会を強く望んでいるのが現在の私です。生きづらさというよりも、弱い立場の視点から社会を変えようとすることでセクシャルマジョリティにとっても生きやすくなる世の中になるのではないかと考えています」
LGBT用語としての「Ally」
東「話の中でアライさんという言葉が出ましたが、ご存知でしょうか」
たかまつ「分からないです」
小林「支援者や味方になってくれる人という意味で(主にLGBTコミュニティで)使われる言葉です。人名ではないですよ」
東「LGBT当事者に対し『アライ』と名乗ることで支援者であると伝えることが出来ます。また、セクシャルマイノリティ同士が互いに『アライ』となることもあります。LGBTQという言い方をすることもありますね」
アライとはAllyと綴る英単語で、味方や仲間を意味しています。LGBT用語としては当事者に対する支援者を指す用語で、心構えさえしっかりしていれば建前上は誰でも(それこそセクシャルマイノリティ同士でも)なれるそうです。但し、「ステータスとしてゲイの友達を欲しがる」ような人などはアライと言えません。
東「日本では『性同一性障害』として疾病に指定されていますが、海外では『性別違和』と呼ばれています」
小林「あくまで医療行為を受けるために疾病として認められているのですが、『性同一性障害』すなわち『トランスジェンダー』という訳ではありません。両者は全く別の存在として分けてもらいたいのです。診断書が出ないうちは『性同一性障害』ではないですし、診断書の有無をいちいち聞くのも現実的ではないので『トランスジェンダー』とすれば間違いはないと思います」
東「この辺りはいずれ詳しくやりたいですね」
小林「そうですね。結構勘違いされやすいので」
東「(戸籍上の)性別を変えるのは日本だと大変です。海外では自分が思えば変えられるのですが、日本では手術などもあって色々と煩雑なんですね」
なぜ「私は悪くないよね」が救いなのか
東「娘として生きていたお子さんが息子として生き始め、“女の着ぐるみを捨て”ました。それまで着ぐるみ状態だったわけですか」
小林「性自認が男だったので、精通が来ると思っていたらしいんですね。けれども実際に来たのは精通でなく初潮でした」
東「スカートを穿くのも嫌だったんじゃないですか」
小林「1歳半の頃からスカートを嫌がって半ズボンを穿く子でした。けれど、小中高と女子校に通っていたのです。地元の共学は学ランとセーラー服がありましたが、共学だと自分が学ランを着られないことに悩んで学校どころではなかったでしょう。学校に行って友達を作りたいから、(最初から学ランのない)女子校を選んだのだと思います」
東「敢えて苦しいスカートを、選択肢のない女子校を選んだと」
小林「今は選べる制服というのも増えていますが、まだ発展途上です」
2003年時点で22歳ということは、1994年で中学へ上がったことになります。時代背景的に制服の特例など認められなかったでしょう。いっそ学ランのない世界を選ぶのが当時は最も現実的な選択肢だった筈です。
東「未だにカミングアウトできない人も大勢いますよね」
小林「カミングアウトは命のバトンを渡すことでもあります。受け容れられず行き場がなくなる人も多いですよ」
東「(小林さんの家庭は)寧ろ珍しいケースといえます」
たかまつ「すんなりと受け容れられましたよね」
東「しかも聞いてすぐ『母親のせいじゃないよね?』っていう」
小林「(本気で)自分のせいではないと思っていました」
東「それが却ってお子さんにとってプラスでした。『産み方や育て方が間違っていたのかと自分を責めるかもしれない』と怯えてもいましたから」
小林「ところが、『私は悪くないよね、あなたの問題だよね』です。そう言うと『ありがとう…』と返されました」
カミングアウトという本人が最も緊張する場面において、最初の返答が「自分のせいではない」でした。一見無責任に思える発言ですが、結果的に緊張をほぐし救いにすらなったのです。なぜならば、子どもにとって最悪の反応は「自分を責めだす」ことだったからです。
小林「妊娠中は一心同体でも、産まれてからは別行動なんですよ。最終的に、子どもには自分自身の人生があるんですから」
たかまつ「元々受け容れられる知識や寛容さがあったのですか?」
小林「最初に言った通り、子どもの問題を全て母親のせいにする風潮が嫌で(カミングアウトについて)私に責任はないと考えていました」
たかまつ「LGBTQへの知識は無かったわけですね」
小林「皆無でした。ただカミングアウトされたときに『大事なことを言っているな』と直感しただけです。ここで否定したらどうなるか分からないとは思っていました」
カミングアウトを受け容れられたのは、知識云々よりも一人の人格ある個人として子どもに接してきたのが大きいように思いました。まだLGBTへの見識が固まってすらいない2003年のことです。その時代背景からすると、知識より普段の姿勢が結果を左右していたのではないでしょうか。
小林「(セクシャルマイノリティは)100人いれば100通りあります。専門書を流し読みした程度で分かった気になっても例外は当たり前で、『本を読むのは良いけど一人ひとり違うから、分からないことは直接聞いて』と言われたこともあります」
東「知識は必要ですけれども、一緒にいるからこそ分かってくることも山ほどあるわけですね」
トランスジェンダーと骨粗しょう症
「就労支援施設で働いていますが障害者についてあまり知識はありませんでした。それが却って色々な方と自然に接する鍵となり、今回の小林さんの話にも親近感を覚えました」
東「共感や共鳴は嬉しいことですね。こういう風にシェアリングできるといいですね」
たかまつ「他の方の話にも共感出来ますよね。一つのことにちゃんと向き合うことは大切ですね」
小林「想像力も違ってきますしね」
東「電通ダイバーシティラボの調べでは、11人に1人がセクシャルマイノリティというデータがあります。家族・親戚・友達・同僚、一人は居て当然といえますが、何故周りに居ないと言い切れるのかを考えてもらいたいです」
セクシャルマイノリティの定義にもよりますが、11人に1人という割合はあり得そうな数字です。レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの他、クエスチョニング(性自認や性指向が定まらない)・アロマンティック(恋愛感情がない)・アセクシャル(性的欲求がない)・デミセクシャル(性指向が性別でなく情や絆の深さで決まる)など様々な名称が存在しています。ちなみに、セクシャルは性別・性自認・性指向・性表現の4要素で決まるそうです。
東「お子さんの将来で心配なことはありますか?」
小林「今はもうありません」
東「体調面とか…」
小林「それを言うとキツくなるのですが……。実は性別適合手術を受ければ終わりでなく、自分が納得いくまでホルモン療法を続けなくてはなりません。個人差はあるのですがホルモン治療を続けると骨密度が減って骨粗しょう症のリスクが高まり、既に私ぐらいの強度まで落ちています。自分のなりたい性別で生きていけることは嬉しいですし励みになりますが、傍で見ていると『長生きして欲しい』と心配になるのも事実です」
東「そうですよね。どの親御さんもお子さんには自分より長生きして欲しいと願うものですね」
子どもは現在39歳で、生活が安定しているのか将来の心配はありません。しかし、ホルモン治療の副作用で骨密度が減少し、骨がかなり弱っているという健康上の心配はあります。性自認通りで居続けるだけでも無視できないリスクが付きまとっているといえます。生きづらさを語り合う企画にトランスジェンダーであるお子さんの話を持ってきた理由が、この段階で完全に明るみとなりました。
▶次の記事:「第2回生きづらさダヨ!全員集合」視聴レポート④磯部弥一良編~将来への不安と自己責任論の蔓延
動画URL
その他の障害・病気