障害者就労支援施設が映画制作に協力~映画「えんとつ町のプペル」の制作

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かつて、障害者就労継続支援B型事業所、いわゆる「作業所」と呼ばれるそこは単純作業や軽作業といった低報酬の仕事を請け負っている所が多くありました。ところが、最近では、仕事のバリエーションを広げ、他とは違う障害特性や個性を考慮した「作業所」も表れてきました。

東京都武蔵野市にある就労継続支援B型「カバーヌ」もまたそんな作業所のひとつです。元々、パソコンを使って、Amazonやヤフーオークションに、古本を出品する作業を行っていたのですが、それに加えて、アニメ映画制作の工程の一部を請け負うことを作業に加えました。

武蔵野市への提案

きっかけは、コンテンツ産業の振興を掲げている武蔵野市に案件が舞い込んできたことでした。 映画「えんとつ町のプペル」の制作スタジオ(Studio4℃)が障害者施設の制作参加を提案したのです。

Studio4℃の田中社長は、「アニメ制作には、集中力は要るもののすぐにマスターできる作業があり、障害者も参加できると考えました。それで以前に市内の施設へ打診したのですが、立ち消えになったままになっていました」と話します。

そこで、武蔵野市生活経済課産業振興係が、障害者福祉課と市内の障害者就労支援事業所に、制作スタジオ(Studio4℃)を紹介したことがきかっけとなりました。作業内容を各事業所が検討した結果、作業を請け負ってやってみようと手を挙げたのが、就労継続支援B型「カバーヌ」というわけです。

パソコンとペンタブで細かな作業

カバーヌが請け負った作業はアニメ制作の中の「仕上げ」の工程です。原画をスキャンしてデジタル化し余計な線や汚れを取り除き、マニュアルに従って着色し、完成したデータを専用サーバーへ送る一連の作業となります。

ロボットの変形から口パクまでシーンごとの複雑さは様々で、慎重さと丁寧さを常に求められる作業です。パソコンで編集ソフトを立ち上げ、ペンタブレットを操作して行われる作業は、大変精巧で高度なものです。

完成披露試写会にはカバーヌの面々も招待されました。担当したシーンやエンドクレジットに自分の名前をみつけて、今後も続く作業のモチベーションが上がっていったそうです。カバーヌは今後も、こうしたアニメ制作に関わるパソコン上での作業を続け、取り組みの拡充を図っていく計画を立てています。

取材にも行きました

実際に就労継続支援B型「カバーヌ」へ取材に伺い、統括施設長の佐藤律々子さんに質問させていただきました。

──本当に工賃を稼ぐのは大変ですよね。

「いまは時給換算で400円です。このアニメのインクアンドペイントという仕上げ作業を請け負わせていただこうと思ったのは、障害がある方が行っても、いわゆる健常と呼ばれる人が行っても、Studio4℃さんは同じ作業単価で支払っているからです。現在、アニメの仕上げ作業に関わってくれているメンバーは、スキルは持ち合わせていても、相手との交渉や作業受注の営業が苦手な方もいらっしゃいます。その部分を私たちがお手伝いをして、スキルを活かして、収入に結びつけてもらいたいと思っています」

「身体障害の方が、車いすを利用したり、杖を利用したりするのと同じように、苦手な部分やコミュニケーションのお手伝いをするという方法で、リスペクトし合いながら、協働していきたいと思っています。

──武蔵野市は家賃が高いですよね。

「仕上げの作業を行っている場所も、1か月約27万円かかります」

「とても、仕上げの作業に関わることだけでは、まかないきれません。同じ場所で、『カバーヌ』では、古本を作業のアイテムとして、いろいろな作業に取り組んでいます。各ご家庭からの買取や社会福祉協議会との連携で本を集めて、Amazon・ヤフーオークションに出品する、地域で開催される販売会に参加する、店頭でも古本を販売するなど、その為の準備をメンバーが分担して関わっています」

──コロナ禍ですとネットはともかく対面販売はきついですよね。

「対面販売で一番痛かったのは、お祭りや販売会が本の販売が全て出来なくなったことです。昔からのお祭りで、1日10万も売り上げていたチャンスが無くなりました。一方、巣ごもり需要からの 恩恵も受けており、ネット販売での売上の上がった部分はあります」

──なぜ福祉の業界を志したのでしょうか。

「別の業界で仕事をしていたのですが、筋ジストロフィーの友人や知的障害の身内との関わりがずっとあり、ボランティアもかなりしていたのですが、ボランティアでは限界を感じることも多くありました。そこで、専門的な知識を学び、今後は福祉職を職業としたいと思ったのです。40歳過ぎで社会人入学して通学定期も持って、資格を取得しました」

「以前勤務していた施設で感じたことなのですが、知的障害者の行き先は案外多いですよ。お菓子作りや清掃、手仕事、封入作業のようなこと等があります。しかし、見た目ではわかりにくい発達障害や高次脳機能障害はどうでしょう。例えば、脳疾患を患い、中途障害として高次脳機能障害をもたれ、仕事を辞めた元管理職の方が通える作業所はありますか?『お花を作ろう』『手芸をやろう』などとご提案しても、やれませんよね。そこで、うちの代表がこの事業を立ち上げる時に、この作業内容(その当時は古本の作業のみ)であれば、一般のネット古本屋と変わらず、作業を分業化することによって、そういった方たちが力を発揮できるのではないかと考えました。当初は高次脳機能障害がある方が多かったのですが、今では発達障害がある方の利用が増えています」

「事業所として利用者を増やしていかなければなりませんが、利用者を増やせばいいというものではありません。福祉サービスを提供しているのですから、利用者さんに満足していただけなければ、事業所として評価していただけません。一つの面だけではなく、多面的に支援を行い、利用者さんにご満足頂いて、継続して通所しご自分の力を発揮していただけるのが嬉しいです」

Studio4℃の田中社長とカバーヌの佐藤施設長の信頼関係も素晴らしいものでした。今、明石家さんまさんがプロデュースされている映画『漁港の肉子ちゃん』の制作に取り組まれていて、順調に作業が進んでいます。今から公開が待ち遠しいです。この素晴らしい取り組みがさらに広まっていくことを願っています。

障害者ドットコムニュース編集部

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