視覚や聴覚を使わない人との対話のプログラムを日本に広めたダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村夫妻に聞く

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ダイアログ・イン・ザ・ダークとは?・・・視覚障害者の案内により、完全に光を遮断した”純度100%の暗闇”の中で、視覚以外の様々な感覚やコミュニケーションを楽しむソーシャル・エンターテイメントです。これまで世界50カ国以上で開催され、900万人を超える人々が体験。 日本でも各地でオリジナルイベントが開催されています。

ダイアログ・イン・ザ・サイレンスとは?・・・聴覚障害者の案内により、音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテイメントです。静寂の中で、集中力、観察力、表現力を高め、解放感のある自由を体験します。これまで世界で100万人以上が体験しています。 日本では2017年に初開催、約1万人が体験しました。

震災やコロナ禍で誰もがハンディを負うからこそ、ダイアログで助け合う社会に

──ダイアログ・イン・ザ・ダークを日本で始めようと思ったきっかけをお聞かせください。

志村 季世恵/「ヨーロッパで「真っ暗の中の展覧会」が流行しているという新聞記事を読んだのがきっかけです。既にヨーロッパでは目に見えない付加価値を大切にしていることに驚きました。記事を見た限り日本で始めるのは厳しそうな印象でしたが、発案者に手紙を書き、開催権を得ることができました。しかし、会場を真っ暗闇にし、視覚障害者がゲストをご案内するエンターテイメントですから、当時の消防法などの会場の条件や、日本での障害者を取り巻く状況下では、なかなか実現に至りませんでした。記事を見てから5年後、二日間でしたがようやく初めて開催できた会場がビッグサイトでした。」

志村 真介/「有難いことにダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下ダーク)は今年で22周年を迎えます。ダイアログ・イン・サイレンス(以下サイレンス)、は4年目を迎えました。プログラムの案内役である視覚障害者や聴覚障害者を私たちは「アテンド」と呼んでいるのですが、彼らをいわゆる障害者と思ったことはありません。自分とは異なる知恵や能力を持つ人という風に感じています。日本では特に、普段は障害者と出会うことが少ないから、お互い知ることもない。すると人って出会わなければどうしても関わることに対して「怖い」と思ってしまうこともあると思います。でも、暮らしの中で出会える場所さえできれば、友達になれば、お互いを慮ることができると思うのです。そうしたら、例えばニュースで視覚障害者がホームから転落したと聞いた時、あるいは街で障害者を見かけた時に、その心持ちは違ってきますよね。」

──このダークやサイレンスのプログラムを、障害があるアテンドのメンバーと一緒にこれまで築いてこられたのですね。

志村(季)/「震災直後、目の見えないアテンドの一人が『東北へ行きたい』と言いました。理由を尋ねると、今まで自分たちはずっとマイノリティと思い込んでいたのが、震災の被災者から見ればマジョリティであることに気付いたからだ、と答えました。環境や立場は常に変わっていき、マイノリティもマジョリティも容易に反転すると知ったのです。マイノリティの代表として助けてもらう経験をたくさんしてきた私たちだからこそ、きっと伝えられることがある、と。これから東北の人たちは、たくさん助けてもらうだろう。その時に、自分たちが「出来ること」と「出来ないこと」を分けて支援やサポートしてくれる人に伝えてもいいということ、例えばそのサポートは必要ないのに遠慮して言い出せないこともあるかもしれない。反対に助けてほしいのに、伝え方が分からないこともあるかもしれない。そんな時こうしたらいいよと伝えたくて東北に行きたいというのです。それで東北へ行きました。障害者の立場から助けようとしているのではなく、お互いが大変な時は助け合おう。そして誰もが暮らしやすい世の中を作っていこうというのが基本的な考えです。」

障害、年齢、国籍を超えて誰もが参加できるオンリーワンのプログラムを

──今後、障害がある方でも参加しやすいような取り組みはございますか。

志村(真)/「(誰かからの強制でなく)ご本人が望んでくださるなら参加可能です。それについて一つ自分たちが大事にしていることがありまして、障害ごとの対応マニュアルは作らないようにしています。障害と言っても人それぞれ違いますし、例えば聴覚障害と言っても多様ですから、ひとつのステレオタイプに基づいたものは作りません。どのようにすればダイアログの体験を楽しんでいただけるかを事前にご本人とダイアログスタッフやアテンドとともに対話します。」

志村(季)/「私たちがお手伝いするのは最初だけです。その後は自然に、お客様同士で支えあって、楽しんでくださることがほとんどなのです。ですので、すべては決めません。もちろん、危険がないように万全の体制はとっていますが、あとは仲間になったゲストやアテンド、そしてご本人の工夫次第。そうすると、その後たとえば日常で障害者や違う文化の人と出会った時にも、「○○がないからできない」のではなくて、「対話を重ねて工夫すれば良いんだ」と思ってくださります。」

──一回一回がオンリーワンで参加者中心というのがいいですね。

志村(真)/「障害あるなしに限らず、子どもや高齢者や海外の人も参加します。普段と違った楽しい経験がお互いに出来ることがおもしろいですよね。」

──アテンドさんがとても良かったです。募集についての話があればお願いします。

志村(真)/「日本でこの活動を続けていくためには、施設だけでなく、働くアテンドたちが代々繋がっていかないといけません。アテンドの仕事は、対話の機会を創出し人を楽しませることですが、このエンターテイメントにおいては目や耳を使わないからこそできる職業だという事が大切です。もちろん、見えないだけ、聞こえないだけではアテンドになれず、対話や人を楽しませるための厳しいトレーニングを重ね、エンターティナーとしてお客様の前に立つのです。」

志村(季)/「2019年には、ダイアログ・アテンドスクールを立ち上げました。これまでダイアログが培った対話のノウハウを、目の見えない人・耳の聞こえない人・高齢者が学べる場として続けていこうと思います。開講以来、すでに何人かがアテンドとしてデビューしています。今夏のサイレンス・アテンドスクールは企業で働く聴覚障害者をおもな対象としました。これは実際にあったエピソードなのですが、企業で長らく勤めているのに、社内では一言も口が利けず挨拶もできなかった聴覚障害者が、サイレンスのアテンド研修が終わると、たった1ヶ月で自分から挨拶し、プレゼンまで出来るようになったのです。その会社の上司もとても驚いていたのですが、彼は耳が聞こえなくてもコミュニケーションがとれる自信をサイレンスで培い、その結果、社内でも臆さず会話ができるようになったのだそうです。このように、アテンドスクールは、アテンド志望者はもちろんのこと、社会でもっと「自分だからこそ」の力を発揮し活躍したい人に向けても、門戸を開いています。」

(※現在募集は終了しております。次回開催についてはお問い合わせください)

対話の森ミュージアムのオープンとダイアログの未来

──2020年8月にオープンした竹芝のダイアログ・ミュージアム「対話の森」を作るまでの思いなどをお聞かせください。

志村(真)/「オープン当初は、私達のメインコンテンツであった「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」がコロナ禍により開催できないという大きな危機がありました。一時期はオープンもあきらめかけましたが、あえて暗闇を作らずダイアログ(対話)に重きを置いて『ダイアログ・イン・ザ・ライト』でオープニングを迎えたのです。今、人が必要としているのは「対話」であると信じ開催したところ、人気のコンテンツとなりました。今は、真っ暗闇でもソーシャルディスタンスをとって楽しめるプログラムを開発したため、「ダーク」を開催していますが、定期的に「ライト」をやってほしい、とお声をいただくくらいです。また、ミュージアムになって最も大きな変化は、正反対の環境であるダークとサイレンスを同じ場所で体験することが可能になったことです。両方を楽しみ、より幅広い多様性に出会っていただけるようになり、最近は1日でハシゴしてくださる方も増えました。加えて、私たちスタッフも目を使わない人と耳を使わない人と健常者、みんな同じ場でミーティングをするようになりました。楽屋も一緒なのです。見えない人と聞こえない人がコミュニケーションをとるなんて、と思われるかもしれません。でも、工夫次第で伝え合えることを私達は日々実感しています。見えない、聞こえない関係なく、目の前のお客様にいかに楽しんでいただけるか、気づきを持ち帰っていただけるか、みんなで対話し互いに切磋琢磨して一つのものを作っていく、これは本当にすごいことだと感じています。」

──ショップもされていますが、それについてもお聞かせください。

志村(季)/「ショップの一部商品は障害者だからこその感性が大きく関わっています。例えば、目の見えない人の中には手触りの感覚(触覚)が研ぎ澄まされている人も多いのですが、ある日、皆で海へ行った時、アテンドの一人が砂浜を撫でながら小さな灰色の石粒を見つけてきたのです。見た目は普通の小石だったのですが、その石粒の手触りがなめらかでなんとも気持ちよく感動しました。見た目で貝殻を探していた私たちと違う、手触りの美というのでしょうか。その豊かな才能を感じました。それ以降、例えば肌にあたった時の感覚を大切にする今治タオルのメーカーや会津漆器の職人とコラボし商品開発を行いました。目が見えないからこその力、豊かな感性に光を当て、世の中に発信する商品を作っています。

──プログラムを受けた時だけでなく実生活へ繋げていくにはどうすればいいでしょう。

志村(真)/「このプログラムを定期的に思い出していただく機会があったら嬉しいなと思います。」

志村(季)/「偶然体験が一緒になったお客様同士が同窓会のように毎年集まることがあるそうです。中には結婚される方もいらっしゃいます。あるいはダイアログを体験したお子さんが、その帰りの電車の中でお年寄りに席を譲ったり。このお話はお母さんがダイアログにご連絡をくださり教えてくださったエピソードです。お子さんはそれまで一度も席を譲ることが出来なかったのだそうです。恥ずかしかったのかもしれません。もしくは譲ったのに断られた経験があったのかもしれません。ですが、それ以降、周りの状況を気にかけて譲るようになったという声もいただきました。私たちが知らないだけで、体験された方の周りから、きっと少しずつ社会が変わっていっているはずです。また、この「対話の森」をオープンできたことで、竹芝周辺の街が変わってきています。目の見えないアテンドが横断歩道を渡ろうとしていたら声をかけてくれたり、耳が聞こえないアテンドが買い物をすると、店員さんが簡単な手話で話しかけてくれる。優しいお店ができていきます。街が変わる事、これはとてもリアルな変化だと思います。」

──今後のビジョンについてお聞かせください。

志村(真)/「子どもと大人、両方からアプローチしていきたいと考えています。一つ目に、春に挑戦したクラウドファンディングでは、1300名もの方々のご支援のおかげで子ども5000人をダイアログ体験に招待できることになりました。世界のダイアログでは行政や政府の支援があるため、学校教育にも導入されており、ダイアログ体験者の約60%が子どもです。しかし、日本は未だ行政からの応援がなく、子どもの体験者は全体の4%しかありません。子どもの頃にダイアログの経験をしていると、自己肯定感の向上や多様性への理解も促進されるなど、数値的にも明らかになっています。なにより多感な時期に異なる他者と遊び、対話を楽しむことが、彼らのその後の人生は豊かなものになると思うのです。一方、ダイアログの企業研修はコロナ以前、600社以上の企業で導入されてきました。コロナ禍でリアル研修はすべてキャンセルとなり、新たにオンラインプログラムを開発しました。オンラインの良さや、オンラインだからできたこともあります。しかし、オンラインだけでは本来ダイアログ研修が提供していた他者との信頼関係の醸成は難しいと感じ、リアルとオンラインを融合させた新しい企業研修も作っているところです。今後はアフターコロナに求められる革新的な研修を提供していきたいです。」

「対話の森 こども5000人たいけん」の招待ページはこちら
https://kodomo5000.dialogue.or.jp/

編集後記~ダイアログを体験して

私はパニック障害がありますが、以前から体験してみたいと思っていました。荷物をロッカーに全てしまうところから、不安になっていきました。白杖を手に取り、入り口の部屋がゆっくり暗闇になり、恐怖で引き返そうと思いました。アテンドさんが、「僕の目が見えなくなったのは、大人になってからです。」と仰り、想像しました。「壁や物に触れると安心します。」と仰り、私は体験することを決めました。恐怖が消えるまで、参加者皆さんに気遣っていただきました。コロナでバラバラになってしまった私達を再び繋ぐための、電車や東北といったシチュエーション。暗闇×閉ざされた空間×電車は、パニック障害なら一番苦手なものでしたが、聞こえてくる東北弁や花火の音がとても素敵でだんだん楽しくなり、農場に着いた頃にはテンションアップして一番騒いでいました。子どもの頃から大好きで何度も訪れた岩手に、東日本大震災から10年だったので、また行きたいけどコロナで行けなかった岩手に行けたようで、しかも温かいメンバーで楽しめて、本当に嬉しかったです。電車も、銀河鉄道のように幻想的で、素敵なものに思えてきました。怖かった暗闇の電車が、美しい乗り物に変わった瞬間でした。お手洗いにも外へ出て、元の場所まで案内いただいた可愛いスタッフさんの腕につかまらせてもらい、お話をしている間もとても楽しかったです。苦手を克服出来て、自信になりました。最後まで、引き返す事なく体験できて本当に良かったです。皆さんの優しさのおかげです。家に帰り、好きなピアニスト辻井伸行さんの曲をたくさん聴きました。作曲もたくさんされているのですが、感性が豊かだからこその美しく優しい曲なのだと想像しました。街で、点字ブロックによく気付くようになりました。邪魔にならないように歩く事に気をつけて、歩きスマホなどはしません。かなり意識も変わりました。ダイアログの話もしています。体験される方が増えて、もっと広まっていくことを願います。

ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ公式HP
https://taiwanomori.dialogue.or.jp/

障害者ドットコムニュース編集部

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