痛みを誤認し続ける病、「線維筋痛症」とは?
暮らし今回は、線維筋痛症という病について取り上げてみたいと思います。線維筋痛症は、診断・病状・福祉といった様々な面から複合的に患者を苦しめる病です。具体的には、「身体の広範囲における慢性的な痛み」「多彩な二次障害」「診断や治療のできる病院の少なさ」「難病指定を受けていない」「原因不明で治療法がない」といった苦しみがあります。
代表的な有病者として、世界的人気歌手のレディー・ガガさんが2017年にカミングアウトしています。しかし、線維筋痛症の存在はあまり広く知られているとは言い難い状況です。
痛みを誤認し続ける病
線維筋痛症は「痛覚変調性疼痛」という、痛みに関わる脳の神経回路の異常に属する病で、同じ分類には過敏性腸症候群や顎関節症などが含まれています。外傷や神経痛と違うのは、体の組織や神経に損傷がなくても痛みを感じるという点です。
簡単に言うと、「脳が常に痛みを誤認し続ける」のが線維筋痛症です。痛みに関わる脳の神経回路が過敏となり、身体のあちこちに痛みを感じたり些細な刺激で激痛を訴えたりします。中には、周りの人が知覚しないレベルの低刺激で激痛を訴える例もあります。痛みだけでなく、不眠・疲労感・うつ・物忘れなど別の症状を伴うことも多いです。
原因は今も不明のままで、完治するための治療法もまた存在しません。線維筋痛症の治療は、患者自身が疾患を受け容れ正しく理解することが目標となり、痛みを緩和するための薬物療法と非薬物療法を中心とします。現状では、痛みの誤認と一生付き合っていかねばなりません。
日本国内での有病率は約1.7%とされ、人口にして約200万人と決して稀な病気ではありません。患者の男女比は女性が男性の4.8~8.0倍と高く、年齢的には40代後半での発症が多いというデータが出ています。一番発症しやすいのは40代後半の女性となりますが、男性の患者も居ますし、若者や高齢者も発症します。小児が発祥した場合は若年性線維筋痛症とも呼ばれます。
線維筋痛症の診断は、身体や神経に損傷などの目立った異常が見られないため非常に難しいです。米国リウマチ学会の基準を1990年版と2010年版の両方とも採用する場合が多いことからも、一筋縄ではいかない診断であることが窺えます。
二次障害がメイン
線維筋痛症は、それ自体に致死性がないためか難病指定を受けていません。正確には、自治体によっては独自に難病指定を受けている所もありますが、国全体で指定されているわけではありません。
確かに、線維筋痛症の症状は神経回路の異常だけです。しかし、痛みを誤認し続ける病気を抱えたうえで周囲の理解も得られないまま生活し続けるとなればどうでしょう。下がる生活質などの二次障害こそが線維筋痛症のメインと言っていいかもしれません。
イメージしてみてください、寝床から起き上がるだけでも全身のあちこちが意味もなく痛む日常を。何をするにも痛みに苛まれる状態では日常生活の全てに悪影響が出ますし、痛みに気を取られることでQOLも大きく下がります。痛みの程度に個人差はあるかもしれませんが、ほとんどの患者が激しい痛みを訴えるため、痛みを我慢するのも現実的ではありません。
おまけに医療現場ですら知識が浸透しておらず、診断の遅れや周囲の無理解も追い打ちをかけます。症状が長期化していると、患者は破局的思考に陥りやすくなり、実際に長期患者の自殺率は高いというデータもあります。症状の緩和だけでなく、自殺防止も課題となってきます。
予後については、患者の半数は症状が良くなるものの、もう半数は変わらないか悪化していると言われています。また、患者の約3分の1が休職や休学に追い込まれており、その期間は平均で3.2年ほどと決して短くはありません。
障害者手帳は交付されるのか
障害者手帳については、線維筋痛症そのものを理由に交付されるのは難しいでしょう。痛みという主観をもとに客観的な所見を書いてもらう必要があるので、審査を通すための難易度が格段に高いのです。しかし、自身の症状を上手く説明し、担当医が診断書を上手く書いてくれれば、身体障害者としての認定や障害年金の受給などは不可能ではありません。(以下の解説は障害年金の審査を想定していますが、手帳の申請でも応用できると思います)
線維筋痛症は神経回路の病気ですが、障害としては「肢体の障害」という身体障害の基準に則って審査されます。いくら脚自体が健康でも、激痛で歩くことさえままならない状態が続けば、歩けないのと変わりませんよね。
医師への伝え方も大切です。病院へ行けるということは症状が比較的落ち着いている時期という意味でもあるので、その時の軽い症状を伝えては審査に通りません。一番つらい症状や出来ないことなどを日頃から意識して記録しておき、実際の症状について正確に伝えれば、審査に足る診断書が出やすくなります。
また、病気の「ステージ」についても診断書に書いて貰わねばなりません。線維筋痛症は、厚労省が出している試案によって、症状の重さが5段階に分けられています。
・ステージI 痛みはあるが日常生活への影響は少ない
・ステージII 手指足指など末端部の痛みと、不眠、不安、うつ状態が続き、日常生活も困難
・ステージIII 激しい痛みが持続し、軽微な刺激でも全身に激痛が広がる。自力での生活は困難
・ステージIV 痛みで身体が動かせずほぼ寝たきり。自分の体重でも痛み、長時間同じ姿勢を保てない
・ステージV 全身の激痛に加え、膀胱・直腸・口腔など全身に別の症状が出る。通常の日常生活は不可能
「ステージIII」から通常生活が困難とされ、「ステージIV」以降は寝たきり(痛いので眠れない)の状態です。それでも障害基準では、ステージIII~IVでも2級相当になることが多いそうです。
ここまで揃えられたとしても、結局は初診日の特定が最大の関門となります。一応は最初に受けた病院が基準となりますが、実際には審査に出すまで初診日が分からないケースも珍しくないそうです。どの辺りを初診日とするかは、医師や社労士などとの相談が必要になるでしょう。
まとめると、線維筋痛症そのものではなく、二次障害による日常生活への影響を主訴とするのが障害認定のやり方です。そのため、「肢体障害」という身体障害に該当するのではないかと思われます。
まとめ
線維筋痛症とは、神経回路の異常によって痛みを誤認し続ける病です。しかし、身体や神経には損傷がなく、線維筋痛症そのものが生命を脅かすわけではありません。そのために却って二次障害が起きやすいと言えます。
痛みによって日常生活も困難になり、QOLも下がって破局的思考にも陥りやすいです。原因不明で治療法もないので、治療は症状の緩和と自殺防止に焦点を当てることになります。現状での目標は、患者自身が疾患を受け容れて正しく理解することです。
参考サイト
線維筋痛症|公益財団法人日本リウマチ財団
https://www.rheuma-net.or.jp
障害年金を受給できる状態とは(線維筋痛症の場合)
https://sapporo-shogai.com
その他の障害・病気