クレプトマニア(窃盗症)~社会生活を送れなくする難病

依存症 その他の障害・病気
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身体障害や知的障害は、重さによっては「要介護」として認定されることがあります。では、精神障害には「要介護」認定されるほどのものがあるのでしょうか。ちなみに「要介護」とは、その人ひとりで生活することが極めて困難で介護が必要という状態を指します。

私が一つ思い当たるのは、「クレプトマニア」です。日本語で「窃盗症」と訳されるそれは、万引きに対する依存症で、いくら処罰されても適切な支援や治療が無ければ何度でも万引きを再開する“難病”です。クレプトマニアの患者が一人暮らしなどできる訳がありません。一人で外出すればどこかで何かを盗みますので。

どこもかしこも売り上げ向上に悩むデフレ時代、クレプトマニアへの適切な支援や治療は喫緊の課題です。しかし、クレプトマニアに詳しい医療機関などは希少なのが現状です。

窃盗への依存

クレプトマニアの認知度を多少引き上げたのは、元マラソン選手の原裕美子被告です。原被告は2017年に一度窃盗罪で有罪判決を受けていたにもかかわらず、翌年に再犯しました。犯行時の所持金は2万円以上で、盗んだのは買おうと思えば買えたはずの300円程度のキャンディでした。早すぎる再犯と異様な犯行状況から、専門家からはクレプトマニアではないかと疑われます。

クレプトマニア患者の特徴は、盗む行為そのものを目的として依存していることです。窃盗による緊張感や快感が主な目的であって、何を盗むのかはあまり重要視しません。そして、犯罪であると分かっていても“つい”窃盗を繰り返してしまうのです。いうなれば、窃盗への依存症です。

アルコールやギャンブルへの依存と違い、クレプトマニアは最初から犯罪行為です。それゆえに本人の罪悪感や孤立も深く、刑事罰の繰り返しで支援も遠のく八方塞がりの状況へ陥りやすくなっています。

原因は???

窃盗行為の体験がトリガーとなっている症例は多いですが、大元の原因については特定されておりません。患者らの過去には強烈なトラウマなど幾つかの共通項はあるようですが、原因とするにはあまりに漠然としているのが現状です。

摂食障害(過食症)との関連も指摘されており、食べ物の万引きから依存症になった症例もあります。原被告も過食の摂食障害を引き起こしており、食べる物を万引きしていたと裁判で供述していました。

ところで、窃盗体験がトリガーになる以上、孤独を紛らわせたい高齢者もまたクレプトマニアに陥りやすいといえるでしょう。これが現代病として蔓延すると個人商店の生き残りはより一層険しくなりそうです。

稀少な専門機関に関われたら

クレプトマニアが依存症である以上、確固とした治療の設備と計画が求められるわけですが、なにぶん認知度が低いので専門機関と呼べる場所は少ないです。

その稀少な専門機関のひとつである「榎本クリニック」では、「デイナイトケア」「再発防止」「自助グループ」の三本柱で患者の治療にあたっています。特に「自助グループ」は孤独感を抑えるだけでなく、元患者が治療後のモデルとなることで現患者のビジョン形成もしやすくなる効果があります。

しかし、筑波大学人間系教授の原田隆之氏は、「依存症を含めた慢性疾患の治療は失敗から学ぶことの繰り返し」だといいます。治療の間には何度か再発(この場合は再犯)するものと医者は分かっており、絶望した患者が治療を放棄することのないようアプローチし、失敗から学んでもらうのが大事だそうです。

とはいえ、失敗して原因を探して学ぶという繰り返しの中であちこち実害も出ますし、その賠償や刑事罰も患者にとって大きな負担となるでしょう。自業自得と言いたくもなりますが、ここで実刑になると支援の手が途切れて悪化してしまいます。原田氏によれば「法曹界にもクレプトマニアの知識が広がっており、再犯でも治療の継続を条件に執行猶予を付けられる場合がある」そうなので、周囲や被害者や裁判所にはかなり寛大な姿勢が求められるでしょう。

やはりクレプトマニアは難病です。もし貴方が万引きの被害を受けたとして、十分な賠償額(書店だと商品の6倍らしいです)が後に犯人から得られたとしても許せるでしょうか。治療の最中にも再犯を重ねるのが、クレプトマニアを難病たらしめる要素といえます。

まとめ

「盗み」は遥か昔から裁かれるべき罪として扱われていました。クレプトマニアとは、よりによって「盗み」に依存してしまう“難病”なのです。支援機関へ行き着くだけでも大変なのですが、治療の道のりも決して平坦ではありません。寧ろ多くの人から寛大な措置を受けないと治療が進まないのです。

生涯有病率は0.3~0.6%で稀な病気とされていますが、誰にでもかかる危険性があります。その上、人々からは理解されにくく、人間社会からの隔離すら求められるでしょう。クレプトマニアとは、理解を得にくい「難病」です。人は誰しも、物を盗まれるのは嫌ですから。

参考文献

クレプトマニアって何?原裕美子被告も告白、万引きをやめられない精神疾患。対応と治療法は|ハフポスト
https://www.huffingtonpost.jp

クレプトマニアデイナイトケア|【精神科・心療内科】榎本クリニック
http://www.enomoto-clinic.jp

クレプトマニア、治療の長い道のり 元マラソン代表・原さん弁護人に聞く ? 弁護士ドットコム
https://www.bengo4.com

ゼロからわかる「クレプトマニア」万引きがやめられない人々(原田 隆之)|現代ビジネス|講談社
https://gendai.ismedia.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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