相模原殺傷事件から3年になりました・中編~植松被告と面会した篠田編集長の足跡
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相模原殺傷事件の犯人である植松聖被告に何度も面会した人がいます。月刊「創」の編集長である篠田博之氏で、宮崎勤元死刑囚とも面会を重ねて信頼された人でもあります。
篠田氏は事件翌年の7月から1年以上かけて植松被告と20回以上面会し、事件から2年後には植松被告の手記や被害者家族・精神科医などの意見をまとめた書籍「開けられたパンドラの箱」が出版されました。
篠田氏が初めて対面した植松被告の姿は、染めていた髪が黒くなったこともあり礼儀正しい青年だったそうです。しかし、その胸中は事件当時と変わらずどす黒い炎が燃え盛っていました。
変わらぬ野望と変わったヒトラー
植松被告の理念とは「心失者(※)の抹消」で、犯行前から「障害者の安楽死を認めるべきだ」と周囲に話していました。その理念は変わらず、篠田氏に「同意する人は居ないと思うし、居てもごく少数だろう」と言われても「きちんと説明すれば理解してもらえる。面会した人は皆よく聞いてくれる。」と反論したほどです。植松被告は篠田氏(月刊「創」)以外にも多くのマスコミと面会しており、その都度自らの理念を語っていたと思われます。殺しに関しても「安楽死にならなかった点」以外は反省しておりません。
ただ、細かい部分では「ヒトラーの思想が降りてきた」という措置入院中の発言に変更が見られています。職員時代に同僚から「お前はヒトラーと同じだ」と、ナチスが障害者も殺害していたことも含め聞かされたことがあり、それがヒトラー発言に繋がったようです。ユダヤ人虐殺のほうは間違っているとしており、ヒトラー発言自体も深く考えずに行ったと篠田氏に語りました。
(※)心失者とは植松被告の造語で、「意思疎通どころか自分が何者かすらも分からない障害者」を指しています。実際にやまゆり園で働く中で、重度の知的障害者に対しこのような考えを持つようになったそうです。
遺族や関係者への辛辣な姿勢
被害者の遺族や関係者に対する植松被告の姿勢はとても辛辣です。篠田氏に宛てた手紙の中でも、「障害を持った身内に人生の多くを費やした遺族や関係者の憤りは分かる。だが、その憤りは所詮“現実逃避”に過ぎない。」という旨を述べていました。
ある面会では関係者の一人である尾野剛志氏(津久井やまゆり園家族会前会長)に対して「身内だからといって障害者を持ち上げすぎだ」と非難し、篠田氏とは「家族だから当たり前だろう」と少し言い合いになりました。
一方、植松被告が散々言っていた「生産性が無い」「税金の無駄」については被告自身もそちら側だという自覚があったのではないかという考察もあります。精神科医の斉藤環氏は篠田氏のインタビューに対し、「措置入院によって『障害者の側』になった屈辱が事件の引き金になったのでは」と述べています。
別の人(福岡のテレビ局記者・神戸金史氏)とのやり取りでは「生産性の有無で線引きをしながらも、自分は生産性のない方だと思っていた。」「自分の『生産性』を示すために事件を起こした。」という別の観点が示されています。
反対されても風化させないことを選んだ
篠田氏が「開けられたパンドラの箱」を出版するにあたって反対する意見や署名活動もありました。静岡大学の佐々木隆志教授は、「植松の名前を聞いただけでパニックを起こす人がいる」「植松の思想に感化される人が増える」という点を反対の理由に掲げています。当然、篠田氏も理解していたのですが、「事件が風化するのではないか」という危機感が勝っていました。
篠田氏の取り組みに対して賛同する意見もあります。「創」にて植松被告のことを掲載し始めた時から、「真相究明のため続けてほしい」「事実を知らせることは大切だ」と賛同や応援の意見が寄せられていました。執筆のためインタビューした障害者の中には、「自分のところは『社会にとって他人事でしかないやまゆり園事件をどう引き受けるか』というタイトルにしてほしい」と頼んだ人もいます。植松被告に非難された尾野氏も「黙っていては植松に負けたことになる」と語っていました。
事件そのものは戦後最悪といわれた規模ですが、それでも植松被告は異端として片付けられ、遠い世界の出来事として葬られつつあります。「あれほどの事件が風化などあり得ない!」と思われるでしょうが、Twitterなどでの露悪的な書き込みを見ていると、事件が風化しているという篠田氏の危惧は当たっていると感じてしまいます。
浮き彫りになったエゴ
Twitterの露悪的な書き込みというのは、差別主義や過激思想に限りません。植松被告がしたような「生産性」や「生きる資格」の線引きを勝手に行う人は存在します。企業アカウントが「いい年して独身なんて人として信用に値しない」と発信したり、オタクのオタク叩きが横行していたりしています。
誰もが心の中に「内なる植松」を飼っているので、「この世にはろくでもない層がいる」と思うのは詮無しといえます。「内なる植松」と向き合って生きることは「異端認定」という逃げ道を塞ぐ苦行ではありますが、「内なる植松」と対峙してこそ人間として一皮剥けるのではないでしょうか。
とはいえ、「異端認定」や「隔離志向」に甘えてばかりだった歴史は相模原事件によって暴かれました。津久井やまゆり園が人里離れた場所に建っていたという事実は、あたかもお前たちのエゴはこうだと突き付けているようです。
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参考文献
「ヒトラーとは考えが違う」植松聖被告が獄中ノートに綴った本心
https://ironna.jp
2年前の相模原障害者殺傷事件の真相解明をきちんとしないと恐怖が残ったままだ(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp
差別とは何か?「社会の役に立たない人は無価値」と信じる人たちへ(原田 隆之)|現代ビジネス|講談社
https://gendai.ismedia.jp
「生産性」の呪いに抗うために ? 相模原殺傷事件から3年 - 個人 - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp
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