今しておきたいベーシックインカムの話(基礎編)~用語の基礎・年金や生活保護との違い
その他の障害・病気 暮らし障害者のほとんどに重くのしかかっている問題の一つとして「収入」の問題があります。就労に依然大きなハードルがあり、働けたとしても非正規雇用が大半だからです。公務員試験の倍率が高かったのも、いきなり正規雇用という特典が障害者にとってかなり魅力的だったからで、正規雇用の難しさを暗に物語っています。
収入を補うために考えられるのが障害年金や生活保護などですが、申請や手続きなどに若干の知識と地域差のある忍耐が求められます。社会保障は幅広いながらも公からは明かされていないので、未知の支援策を自力で探し当てねばならない場合もあります。
障害者の収入源という難題を考える際、時々挙がるのが「ベーシックインカム」という単語です。全国民一人ひとりに国から一定額を支給するという最低限所得保障の一種なのですが、ベーシックインカムは既存の社会保障とどのような違いがあるのでしょうか。用語の基礎・期待と懸念・海外の実験と、3~4回に分けて解説する予定です。
無条件で誰にでも一定額を
「基礎的な収入」を意味するベーシックインカムとは、生存権を保証するため国民一人ひとりに現金を支給するという保障の一種です。本格的に導入している事例はなく、現在は世界のどこかで実験や試験運用をしている段階です。
最大の特徴は国民全員かつ個人単位で支給することです。年齢や所得などによる制限はなく、乳幼児だろうと長者番付トップ10だろうと無差別かつ平等に一定額が支給されます。この一点で社会主義的なものと思われがちですが、資本主義経済の下で行われることを前提として考えられているようです。
受給資格の制限がないという特性上、申請に時間や手間をかけることもありません。条件が合わず受け取れなかったり申請に行って嫌味を言われたりすることが無くなるのもベーシックインカムの強みと言えます。
既存の社会保障に成り代わる
ベーシックインカムと既存の社会保障には数多くの違いがあります。例えば、年金などの社会保障では正しく受給されているか調査するなどで運営コストが発生する一方、ベーシックインカムには調査も審査もないので運営コスト自体はありません。
また、既存の社会保障との並立は考えられておらず、仮にベーシックインカムを本格導入するならばほとんどの社会保障が廃止になると言われています。要するに成り代わりが起こるわけで、年金制度・生活保護・雇用保険などは「全国民への平等な支給」のため犠牲となるのです。
障害等級によって支給の可否すら左右されるような面倒事はなくなりますが、最低賃金や福祉政策など障害者にも身近な制度まで消えてしまうとなると結構リスキーに思えますね。
類似の概念「負の所得税」
似て非なるものとして「負の所得税」という概念も挙げておきます。負の所得税とは累進課税制度の派生形で、所得が無かったり極めて低かったりする世帯には課税でなく逆に給付金を与えようとする概念です。「マイナス金額を課税する」という中1数学の発想が名前の由来となっています。既存の生活保護では働いて収入を上げても支給額の減少によって総収入が増えず働き損となる問題点があり、その解決策として期待されています。
負の所得税とベーシックインカムの相違点は数多くありますが、重要な3点だけ挙げておきます。まず受給については世帯ごととなり、生存に必要な額が支給されるとも限りません。次に運営コストで、世帯ごとの収入や扶養関係を調査せねばならない分コストがかかります。
最大の相違点は既存制度との並立となるでしょう。ベーシックインカムは既存の社会保障全てを廃して成り代わるのが前提となっています。一方、負の所得税は累進課税制度の改正だけを要するので、既存制度への干渉は比較的少なめです。生活保護制度とは成り代わりが起こるかもしれませんが、大規模な法改正までは要さないと思われます。
期待も懸念も大きい
初回ということでベーシックインカムの用語解説や、負の所得税との相違点などを述べました。生存権の保証のみならず雇用体制に喝を入れたりセーフティネットを強化したりと様々な効果が期待されています。その一方、既存制度の廃止によるリスクや財源の出どころなど懸案事項もまた数多く挙がっています。
何よりベーシックインカムを本格導入している先例がないため、実行はほとんど賭けとなります。今は海外の実験結果から効果を予測していくしかありません。
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参考文献
ベーシックインカム - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org
負の所得税 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org
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