就労継続支援B型のレア事業~農福連携にサブカルチャー
暮らし 仕事就労継続支援B型事業所とは、障害者向け就労支援のひとつで、雇用契約を結ばないことが特徴の作業所です。雇用契約がないため給料は「工賃」などと呼ばれ、とても低くなっている代わりに、柔軟な通所計画を組めることが長所となっています。所により差異はありますが。
B型事業所の工賃は、かなり頑張っている事業所でも月5万が精々という厳しいものです。しかし、敢えてそこに目を瞑ったとしても、今度は作業内容という問題が残っています。ほとんどのB型事業所では単価が1円にも満たないほど安い単純作業が中心となっており、大抵の人は安さと単純さから嫌になってきます。体感8割が内職だの軽作業だの単純作業だの…という感じです。
しかし、そんなB型事業所の世界にも隅々まで見渡せば、他ではほとんどやっていない仕事を取っている「カワリモノ」が若干あります。例えば、入所者のアートを中心とするやまなみ工房(滋賀県)が挙げられます。中にはどうやって採算を取っているのか不思議な事業所もありますが、「障害者の作業所=単純作業」という古いステレオタイプを打ち壊してくれる希望として頑張ってもらいたいですね。
農福連携に積極的「Works-SCS笹谷」
「農福連携」とは、農業と福祉が連携するということを意味しており、大まかな狙いは農業に従事する障害者を増やすことで担い手不足や就業率低迷に待ったをかけることです。B型事業所の農福連携には2タイプあり、事業所自身が持っている(借りている)土地で農業をするセルフ型と、事業所が農家へ入所者を送っていく派遣型がございます。
福島県福島市の作業所「Works-SCS笹谷」では派遣型の農福連携として、入所者が果樹園で施設外労働に携わっています。果樹園での作業は、枝などのゴミ拾い・余分な葉の摘み取り・出荷用の箱作りといった補助的な役割ですが、出来ることから作業を増やしていくスタイルを貫いており、今後も作業が追加されていくことが予想されます。
果樹園側は無理に役割を作った訳でなく事業所とワークシェアリングしています。事業所も果樹園の作業を定期的に受注することで、工賃を安定して上げられるようになりました。高度な作業も増えていけば尚いいですね。
派遣型の農福連携には事業所と農家の仲介をする役割が必要という声があります。コネクションしやすくするのも大切ではありますが、中抜きによって報酬が減ると工賃面でのメリットが無くなってしまうので、事業所自体に行動力をつけてもらう方がいいのではないかと思います。
水産業と組むのはレア「えもる」
実は、農林水産省のHPで「農福連携」が解説されているくらいなので、実施へのハードルは若干高いものの特別珍しい取り組みではありません。しかし水産業と福祉の連携は未だ事例が少なく、こちらこそ本当のレアケースとされています。
石川県七尾市の一般社団法人「ともえ」では、今月初頭に新たな就労継続支援B型事業所「えもる」をオープンしました。普段の作業はB型ではごくありふれた低報酬の内職ですが、同市の「山口水産」と連携して牡蠣の種付け作業を請け負うつもりのようです。
山口水産での作業は期間限定ですが、季節ごとに違った仕事を受注して水産業中心となれば、かなり個性的な事業所になるのではないでしょうか。
第一次産業の担い手としてB型事業所に注目するのは個人的に良いと思います。容易ならざる業種ではありますが、嫌ならA型なり移行支援なりに移って一般就労へ駒を進めればいいのです。本来「通過点」であるB型に一生留まるつもりならば、せめて第一次産業の担い手不足解消に貢献してもらいたいものです。
まるで専門学校?「サブカルビジネスセンター」
広島県広島市の「サブカルビジネスセンター」は本当にカワリモノです。作業内容はサブカルチャーに関することを多岐にわたってカバーしており、記述が多すぎて却って何をやっているのか分かりにくいほどです。最近頭角を現してきたバーチャルYoutuberやeスポーツの他、声優、デザイナー、漫画家、シナリオライター、プログラマー等、他のB型事業所ではまず聞かない単語しかありません。
利用者はまず、希望する作業についての講習を無料で受け、必要な知識などを習得します。そして、希望する作業によって利用者自身の工賃を作り出していくことを目指します。なお、スタッフも同じような研修プログラムが組まれています。
ほとんど専門学校のような、極めて個性の強い事業所です。事業開始は今年6月からと生まれたてホヤホヤにもかかわらず、あまりにも幅の広すぎる作業内容を擁しており、今後の継続について傍目からは不安に思えます。しかし「障害者=単純作業」の呪縛を解くには、このぐらい振り切ったB型事業所があってもいいでしょう。障害者と労働のこれからを考えるにあたって、非常によい施設だと思います。
まとめ
就労継続支援B型事業所の役割とは、一般就労の難しい障害者に必要なスキルや生活習慣を身に着けてもらい就職への“足掛かりになる”ことです。いずれB型を離れて一般就労へ駒を進めねばならないのですが、実際は留まり続けることを前提として考えている事業所が多いです。しかし、単価1円未満の低報酬しか出ない単純作業に従事し続けるのは、あまりに長過ぎれば時間の無駄です。
単純作業をいくら究めても他に移れば何の役にも立ちません。かといってB型事業所本来の役割である「足掛かり」としての仕事を軽視するわけにもいかないでしょう。単純作業から脱却して高度な作業に従事していくことがひとつの落としどころとなるのかも知れません。
参考サイト
「農福連携」広がる 障害者派遣の実績3年で10倍 コーディネーター増に課題|河北信報オンラインニュース
https://www.kahoku.co.jp
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