サムハル(Samhall)~スウェーデンの障害者雇用に対する考え方
暮らし 仕事日本では障害者法定雇用率が2.2%に引き上げられ、障害者雇用に対して、間口が広がっています。しかし、オープン就労だと多くの企業の雇用形態は非正規社員かつ、健常者よりも低賃金の場合が多く、労働者はその給料と障害年金を合わして生活しているケースもあります。
一般就労で就職に叶わない場合の選択肢は、就労継続支援A型で働くか、就労継続支援B型に雇用契約を交わさず通所しているか、障害年金、生活保護を受給して生活している障害者も多いのではないでしょうか?
では、日本以外の国の場合、障害者雇用はどのような形態になっているのでしょうか?一般的に福祉国家とされるスウェーデンの障害者雇用についてみていきましょう。
スウェーデンでは日本の障害年金に当る、補助金は障害者本人に対してではなく雇用している企業に支払われ、障害を持っている従業員に対して給料を支払う際に会社の補填に使われます。
スウェーデンの国営企業「サムハル」
スウェーデンでは企業や官公庁に障害者雇用を義務付けてはいません。しかし、さまざまな障害を抱えている人達(その中にはホームレスや移民の方もいます)が、同一労働同一賃金で働けて、一般の企業にステップアップすることを目標とする国営企業があります。それがサムハル社(Samhall)です。
スウェーデンの国営企業であるサムハル社は、従業員は2万~2万3000人、その内の約90%が障害者です。補助金を除いて年間1,000億円もの売り上げがあり、営業利益率は7%に達しています。また、日本の企業と違い、同一労働同一賃金で、給与面では健常者と変わりません。
サムハル社の目的は、障害があるために一般の労働市場で職を得ることが困難である人など、障害の程度が重い人に意味のある雇用の機会を提供することです。具体的には、知的障害や複合的な障害がある人(これらは優先カテゴリーと呼ばれています)が優先的に雇用されます。軽度の障害ではサムハルに雇用される確率は低くなります。サムハル社が優先的に雇用する人達は、複数の障害を持っている比較的重度の障害者です。原則として直接サムハル社へ就職を申し込むことは出来ません。公共職業安定所(Arbetsförmedlingen)へ登録し、そこでサムハル社への就職が斡旋されます。
公共職業安定所が「障害の程度」を査定し、最低限の就業能力を有するもののサムハル社での就労が最良ではないと判断された障害者には、教育訓練プログラムへの参加や補助金雇用による就労先が提供されます。サムハル社で働くためには最低限の能力が求められるのです。また、常に求人が出ているわけではなく、欠員が出た場合のみ求人が出ます。
サムハル社では、作業に必要とされる能力を16のカテゴリーに分けており、それぞれを3段階で評価しています。作業ができない理由が個人の障害によるものであれば補助金を使ってその問題を取り除くことで、高いマッチングが実現できています。日本のように、本人の能力の有無に関わらず、取り敢えず的な単調な軽作業に振り分けられることはありません。
同一労働同一賃金を守るということは、障害者福祉ではなくて雇用です。国からの補助金はなくなりませんが、サムハル社の存在によって使われる税金の金額は大幅に削減され、なおかつ障害者が納税をする機会が作られます。障害者に障害年金をただ支給するだけよりも、障害者自身が働いて納税するほうが社会全体のコストが下がるという仕組みなのです。
サムハル社の最低賃金は月収1,6600スウェーデンクローナ、日本円で約18万~20万ぐらいです。仕事の習熟度によって賃金は上がっていきます。税率が高いスウェーデンでは、社会保障などを含めた国民負担率は70%を超えます。日本は40%程度です。しかし、この負担率をサムハル社で働いている人々は、当たり前のように納税しています。この状況を見て給料が少ないと見るか多いと見るかは、人によって意見が分かれると思います。
国民負担を削減するために不断の努力を続ける「国営企業」
「国営企業」であるサムハル社と、日本の就労継続支援A型やB型とは大きな違いがあります。サムハル社は収入の50%以上を国から補助金を受けていますが、国営企業であるため民間会社と違い厳しい制約が課せられます。
◇補助金効果による値下げ競争は禁じられており、同じ条件で同業他社と価格競争することが義務付けられています。
◇障害を持つ雇用労働者に年50日以上の労働時間を提供しなければならない。
◇従業員は平均2万~2万3000人、これを毎年5%の従業員を、同業他社に転職させなければならない。
◇毎年、精神障害、神経障害など複数の障害の合併といった障害の重いグループから40%以上採用しなければならないなど制約があります。
転職者数が多いのは、一般労働で問題なく働くことができる人材に対して、積極的に転職を働きかけているのです。転職先が合わなければ、1回まではサムハル社に出戻りが可能です。実際に30%~50%の障害者はサムハル社に出戻りしている現実があります。
また、職場でうつ状態になった人たちのリハビリ機関としての側面もあります。期間限定でサムハル社に通いその後、別の職場に復帰する。そういった社会プログラムにも力を入れています。
まとめ
何かしらの障害を持っているという理由で、障害年金のみの生活や生活保護を受給して働くことを諦めている人を何人も見てきました。働くことで個人と社会の結びつきが生まれます。障害者自身が自立し、社会の構成員の1人として活躍することができる。「サムハル社」にはそういった想いが込められています。
参考文献
【DBIC】
https://www.dbic.jp/
【Samhallについて】
https://samhall.se/
【社会福祉法人 プロップステーション】
https://www.prop.or.jp/
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