コロナ禍と感覚過敏とマスク警察~トレンドの遷移する正義中毒

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最近、「正義中毒」と思しき事例が頻発し、提唱者である脳科学者の中野信子さんも一躍時の人となりました。中野さんによれば、正義中毒の原因である「バッシングするとドーパミン(脳内快楽物質)が出る」脳構造は、本来共同体を律するために大昔から出来ていたそうです。

正義中毒のトレンドも目まぐるしく変わっています。木村花さんの死で誹謗中傷行為へのバッシング(注1)が湧いたと思ったら、渡部建さんの不倫騒動(不倫は最も正義中毒が動きやすいものの一つ)があり、今は「マスク警察」なるものが流行っているそうです。

「マスク警察」とは、ここまでの文脈に即して言えば、「道でマスクを着けていない人を見ると『マスクぐらいつけろよ!このロクデナシ!』と突っかかってくる」ような人を指します。マスクを着けている警察官でもなければ、ましてや映画「MASK」のキャラが一日署長を務めるイベントでもありません。現時点における正義中毒のトレンド(緊急事態宣言中からあったのですが)でしかないのです。

注1:「誹謗中傷をやめよう!」という運動ではありません。あくまで「誹謗中傷するロクデナシを叩く」だけで、自身が誹謗中傷することを律することはないのです。直後の渡部さんへの反応が証拠です。

感覚過敏とマスク

市井(しせい)に溶け込んでいる以上マスク警察が何処にいるのかは分かりませんが、とにかくマスク警察の跋扈(ばっこ)で割を食うのが「マスクを付けられない事情のある人間」です。具体的には2歳以下の乳幼児やランニングなどの運動をする人などが該当しますが、最もその事情に当てはまるのは「感覚過敏」を持つ人です。

感覚過敏とは、五感のどこか(あるいは複数)で起こり、同じ刺激でもより強烈に感じてしまうものです。どの感覚がどれほど強く感じられるかは人それぞれで、本人にしか分からず伝わりにくい難点があります。

感覚過敏を持ちやすい人としてよく挙がるのがASD(自閉スペクトラム)持ちで、感覚過敏といえばASDくらいのイメージが浸透しています(全員が全員という訳ではありませんが)。ただ、ASD以外でも脳や精神の疾患によって後天的に感覚過敏となるケースもあります。例えば、何でもなかった音が抑うつ状態では殊更気になるようになるなどです。

とはいえ、感覚過敏の原因など重要なことについては依然判明しきっておりません。確かなのは、他人にとって何でもないことが本人にとって耐え難い刺激になりうることだけです。

そして、感覚過敏にとって強い逆風となっているのが、マスクこそマストアイテムであるという世相です。元の乗車率へ戻りつつある通勤電車をよそに、宣言解除後も大事を取って「マスクのない方お断り」を続ける店は多いでしょう。

強烈な感触

感覚過敏のある人にとってマスクの装着は常に強い刺激を受けることを意味します。顔を覆う紙(布)は頬に密着しますし、紐は耳の裏に絶えず引っかかっていますから、触覚過敏があれば恐らく1分も付けたくなくなるでしょう。他にも嗅覚過敏ならば自分の僅かな口臭に苦しむかもしれません。

我慢してマスクを着け続けるほうが毒というのが感覚過敏です。かといって、マスクせずに外出すれば「マスク警察」が突っかかってくるかもしれませんし、「マスクレスお断り」の店にも入れません。

立ち止まらないから正義中毒

他にもマスクを着けていない理由はあります。知的障害者ですと程度によってはマスクの重要性を理解できないうえ、違和感に耐え切れず外してしまうでしょう。単に付け忘れた程度なら誰でもあるかと思います。買う暇が無かったりタイミングが合わなかったりして備蓄がないこともあるでしょう。

いずれにせよ、悪意を持ってマスクレスで過ごしている人はまず存在しません。大なり小なり(着け忘れも含め)マスクを着けていない事情は必ずあります。「けしからん!」と頭ごなしに叱るのではなく、「何か事情があるんだろうな」と一瞬立ち止まって考えることが求められるでしょう。

そもそも防疫とは、マスクだけでなく手洗いや換気などの様々な予防策を総合するものです。新型コロナも飛沫感染である以上、マスクの役割は唾や鼻水を飛ばさないことにあるので、マスク以外にもフェイスガードをする・咳エチケットを心がける・外で長時間喋らないという別の対策法があります。

ところが、それらを全く考慮せず脊髄反射で突っかかるのが「マスク警察」であり「正義中毒」です。一歩止まって考えることといえば「反撃の可能性」くらいで、仕返ししてこないと判断した人ばかり狙います。昔匿名の書き込みで見た「肩ドン依存症(注2)」に近いかも知れません。

注2:偶然女性にぶつかったのがきっかけで「肩ドン」にはまり、女性を狙い偶然を装って肩をぶつけるようになったという投稿者の話です。ある時、肩ドンで転ばせた女性に後ろから怒鳴られて追い回され恐怖したことが依存症脱却のきっかけになったといいます。

正義中毒に陥らないために

「正義中毒」の提唱者である中野さんによれば、人間の脳は正義の御旗を掲げる快感と同時に「叩く自分への許せなさ」という矛盾した感情も抱くようで、その構造が「正義中毒」から脱却するヒントになり得るそうです。

しかし、他人の事情を察するための共感性や他人を一個人として敬う機能(前頭葉の眼窩前頭皮質にあります)は発達が30歳手前まで非常にゆっくりであるだけでなく、機能を育む刺激や教育といった環境も必要なため十分に育たない可能性があります。その上、ちょっとした不摂生や加齢で簡単に衰えてしまうのです。

それでも正義中毒へ陥らないためのヒントとしては、「怒りを感じたら一呼吸おいて『なぜ許せないか』を客観的に考える」「些細な事でも新しい体験や知識に触れ、脳を刺激する」「安易にレッテルを貼らず、自分の頭で考える」あとは「お互い様の精神」が大事ではないかと思います。

参考サイト

マスクできない理由分かって 感覚過敏の娘、「『着けろ』と怒鳴られないか…」母の不安な日々
https://www.kyoto-np.co.jp

あなたの脳は正義に溺れた「正義中毒」という依存症に陥っているかも?
https://oggi.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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