コロナ禍の価値観調査を日本財団が実施~障害者は「在宅勤務が辛い」と感じがちの傾向
その他の障害・病気Photo by Isaac Smith on Unsplash
日本財団は2020年9月に「コロナ禍における意識調査」を行いました。16~59歳の障害者1441人と健常者1854人を対象としたインターネット調査です。
対象の障害者は「視覚障害」「聴覚又は平衡機能の障害」「音声機能、言語機能、咀嚼(そしゃく)機能の障害」「肢体不自由」「内部障害」「知的障害」「精神障害(発達障害含む)」にカテゴリ分けされています。
自粛中の辛さや不安
主に4月~5月までの外出自粛期間では様々な葛藤がありました。自粛中に感じた「辛さ」や「不安」で特に多かったのは具体的に何だったのでしょうか。
まず共通して「辛さ」として多く挙げられていたのが、「マスクや消毒など衛生管理の徹底」でした。毎日の外出前や帰宅後などに増えた「ひと手間」が確実に負担となった形です。また、マスクの有無に関するいざこざや消毒液の位置など、衛生管理に関わるストレッサーの増加も無関係ではないでしょう。同じく共通の上位として「旅行に行けないこと」が入っていました。
障害者の方が「辛さ」として多く挙げたのは、テレワークなど在宅勤務絡みのことです。特に「在宅勤務による仕事の遅滞など」は音声・言語・咀嚼機能の障害で、「在宅の環境で勤務すること」そのものは視覚・聴覚の障害で多く挙がりました。一方、健常者の方が「辛さ」として多く挙げたのは、「旅行」「趣味・レジャー」「外食」がしづらくなったことです。
「辛さ」に関しては、障害者は在宅勤務について、健常者は外での余暇活動について強く感じる傾向にあるという結果でした。調査レポートはこれについて「健常者と障害者では働き方や職場環境や自宅外での余暇活動に違いがあるのでは」と推測しています。障害によっては在宅勤務そのものが精神的負担の要因であるとする結果も出ました。
自粛中の「不安」については、共通して「自身が感染すること」が最多で、「感染して周囲や身内に迷惑をかける」「身内が感染する」が後に続きました。感染以外の不安に関しては違いがあり、健常者は「感染の収束時期」「日本経済の低迷」といったマクロな要素を多く答える傾向にありました。
一方、障害者が持つ感染以外の不安では「身体的健康の維持」「社会保障」などミクロな要素が多く挙がっています。障害種別では視覚障害者が「人間関係の悪化」を、精神障害者が「精神的健康の維持」を他の障害より多く挙げていました。
自粛中にしていたこと
自粛中の情報収集については、「情報を毎日チェックした」「コロナ禍以前よりニュースを見かける機会が増えた」が共通して多く挙がっていました。能動的であれ受動的であれ、コロナ関連の情報が多く入ってくるようになったといえます。
障害者、特に視覚障害者が健常者より多く回答していたのは「必要な情報を十分に得られない」「前向きになれる情報を集めるようになった」の2項目です。情報収集の面において視覚障害者はかなり不利であるとされたほか、不安感を払拭できる前向きな情報を求めるのは障害者の方が多いことも示唆されました。
自粛前後における自宅での楽しみ方の変化については、自粛後にオンラインサービスの利用が増えている傾向にありました。増加が多かったのは「オンライン通話」「動画配信サービス」「動画サイト」で、「オンラインで人と接する」または「オンライン動画を観る」ことの需要が高まっています。
自宅で出来る範囲のエンターテインメント体験や芸術鑑賞は、以前より必要性が高いと回答されており、その理由として「ストレス発散」「リラックスのため」が多く挙がっていました。障害者の方が多かった回答として「不安な気持ちを紛らわすため」があり、情報収集の面も合わせてコロナ禍に対する強い不安感が示唆されています。
コロナ禍や自粛で感じたこと
逆に外出自粛で「得られたもの」についてもアンケートがありました。共通して多かったのは「健康の大切さを実感できた」、次いで「人と接することの大切さを認識できた」です。特に人と接する大切さについては視覚障害者がより強く実感しており、「周囲の人に支えられ生活していると実感できた」の回答が多かったのも視覚障害者でした。
「制限ある不自由な生活の大変さを多くの人が体験できた」は特に肢体障害者の回答率が高かったです。自粛中は周囲の人に助けられることも少ないため、その分周囲の支えが強く意識されるようになったといえます。多くの人が不便な体験をしたことで、障害の啓発にもプラスに作用するという淡い期待も調査で述べられました。
コロナ禍に伴う価値観の変化については、障害者・健常者ともに57%強の過半数で「変化があった」との回答がありました。具体的には「衛生管理への意識」「身体的健康への意識」が高まっており、「身内や周囲の大切さ」「人と接することの有難さ」が再確認されたとあります。自粛の影響下で他人と直接コミュニケーションをとるのが恋しくなったといえるでしょう。
「他者や社会について知る・情報収集する大切さを実感」「困難な状況の人を思いやれるようになった」の回答は障害者の方が多く、日頃不便な生活をしている障害者のほうが「より不便な人を気遣う大切さ」について気付けている結果となりました。
働き方と情報収集に課題
コロナ禍に伴う調査で見えてきたのは、働き方と情報収集に課題が潜んでいることでした。膨大な情報が全てのメディアで飛び交う中で正しい情報を見極め取捨選択していくことは、障害者にとって殊更難しいというのが調査で考察されたことの一つです。
また、テレワークなど働き方の多様化は柔軟性を生み障害者にとって利となるとされていましたが、この調査では労働環境の変化が別の新たな困難や不安をもたらす可能性が示唆されました。調査を行った日本財団は、「この調査で見えてきた課題を社会で解決に向けて取り組むことが『ダイバーシティ&インクルージョン』の実現において重要。こちらも課題解決のために情報発信を続けていく」としています。
調査書の締めに乙武洋匡さんがコメントを寄せています。「コロナ禍による不便さや困難が障害者と健常者では違っており、障害によってもまた感じ方が違ってくると分かりました。何を快適・不便と感じ、何に安心・不安を感じるのかは人それぞれで、コロナ禍に限らず別の災害や日常生活にすらも同じことが言えます。課題の解決が大切であると同時に、『感じ方は人それぞれ』という当たり前のことを再認識する必要性も感じました」
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