B型事業所の生き方選び~訓練所か居場所か

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unsplash-logo 贝莉儿 DANIST

就労継続支援B型事業所には大きく分けて2つの生き方があります。1つは一般就労への足掛かりという本来の役割に即した生き方、もう1つは無理なく運営しながら利用者の居場所としてあり続ける生き方です。二者択一というわけではなく両立は可能ですが、ほとんどは居場所として安穏と生きているのではないかと思います。

2018年度の法改正で給付金の基準や額が見直され、「工賃の多い事業所はより多く、少ない事業所はより安く」という状況となりました。当然、居場所の道を選んだ事業所に多額の工賃は出ておらず、給付金が減ったことによる減収で運営に支障が出ています。

一般的にB型事業所の工賃は安く、その向上を求めて行政から鞭が入ったのでしょう。とはいえ何のアドバイスもなく急に「工賃を上げる努力をしろ」と言われては途方に暮れてしまいますし、何よりB型事業所の長所である柔軟な通所計画が工賃第一主義になると損なわれる可能性があります。

その辺りの葛藤は、「FNSドキュメンタリー大賞2019」に選ばれたテレビ静岡の取材が物語っています。舞台は静岡県内のとあるB型事業所で、理事長である母親と施設長である長男が衝突しながら、事業所の生き方を模索していきます。

事業所親子物語① 居場所から仕事場へ

その事業所は障害を持つ人々の「居場所」として始まりました。「社会に出て今日のことをして、『ただいま』と家に帰ってくるという生活スタイルが、障害者や家族にとって大切な事です」と語る理事長は、知的と視覚の複合障害を持つ次男の母親でもあります。長男も「昔から弟への目線に思う所があった」としており、事業所の施設長として直接運営を行っています。

工賃を基準に給付金が見直されることとなり、長男は工賃向上のため事業所の仕事探しや営業活動に精を出しました。しかし、仕事を見つけて受注しては利用者への負担が強くて長続きせず契約を解除する繰り返しだったそうです。

新事業を立ち上げるにしてもコストは莫大です。巨額の設備投資で作業環境を整え工賃を月10万円まで引き上げたB型事業所の存在はありますが、長男にとっては非現実的な話で、出来る範囲の下請け仕事を次々と受注するしかありません。

長男は仕事量で工賃を上げるために、豆の袋詰め・ポスティング・DM発送といった作業を大量に受注しました。すると、利用者だけでなく職員も従事しないと納期に間に合わない程の仕事量になってしまったのです。重めの障害者は作業時間が限られるため、事業所内での肩身も狭くなっていきました。「居場所」としての立場が揺らいでいきます。

ここまで無茶をする理由について、長男はテレビ静岡の取材にこう答えました。「今の福祉は、本人の意志に関わらず働けるなら社会に出そうという機運が強い。生きるために稼ぐ必要がある以上、事業所が工賃で評価されるのは当然である」「本来、福祉サービスには就労支援以外の施設が色々ある。朝起きて外出する習慣をつけるだけなら、就労支援ではなくそれに則したサービスを受ければいい。ただ知名度も施設数も少ないのでB型作業所が多様な役目を請け負っているだけだ」

事業所親子物語② 親子の衝突

理事長である母親が事業所を立ち上げたのは、次男が支援学校を出てからの受け入れ先が無いと感じたのも一因でした。「最初から就職というのは難しいけれど、一旦訓練できる場所に入ってから就活していくとスマートだと思います」「社会人になれば第三者が積極的に関わることが無くなります

しかし、政府が作業所に求めているのは「一般就労」と「工賃向上」の2つであって、居場所として留まれる場所など求めていません。全国に1万1000か所あり利用者は24万人(2017年度)にのぼるB型事業所ですが、就職できた利用者は1年に1.1%しかおらず、工賃も政府の目標である3万円どころか1万円にすら満たない事業所が3割以上もあります。

ある日、施設長である長男は説明会で「我々は利用者に無理なくできる仕事を増やしていくつもりです。工賃を上げるために、仕事を積極的に受け入れて頂きたい」と言い放ちました。事業所を立ち上げた当時の理念にそぐわず、すぐさま理事長と施設長の――母親と長男の衝突に発展します。

「説明会に来た保護者の方々が求めているのは、社会人と同じ生活スタンスで今日一日を豊かに過ごしてもらう事ではないのですか?」「工賃に拘らない方もいらっしゃると思いますが、それは個人の問題です」「工賃以外に目標は無いのですか?」このような衝突は何度も繰り返されており、親子が自宅内で絶縁状態になったこともありました。

長男は経営のヒントを求め、かつて母親が事業所を立ち上げる時参考にしたという施設へ足を運びました。そこは視覚障害者向けの作業所で、運営のトップは歩行訓練士としての師匠でもあります。その師匠は、「自主製品は職員にも利用者にも愛着ができ誇りにもなる。是非作ったほうがいい」「職員の意思も尊重し、何をしたいか言わせて汲み取り任せていくのも大事」とアドバイスしました。

更に師匠はこう説きました。「君はどうやら世の中に障害者を合わせようとしているみたいだが、これは間違いだよ。B型作業所は飽くまで居場所であって、安心して楽しく自分のペースで作業できることが重要。成果主義とは馴染まない」長男は自身の間違いに気付きます。

「居場所作り」という理念で始まり、それに共感した利用者や保護者によって成り立っていることを思いだした長男は、工賃に拘ることをやめ、営業に使っていたスーツも着なくなりました。重い障害を持つ利用者も安心して過ごせるようになり、「居場所」が戻ってきたようです。それが、親子の選んだ事業所の生き方でした。

長男の悪者扱いに疑問

テレビ静岡の取材及び放送内容は以上のとおりです。工賃向上に拘り大量の仕事を受注して職員の負担を増やしていた長男が、恩師に諭されて改心するという内容でした。個人的には、長男を悪者扱いする番組の筋書きに疑問があり、寧ろ「改心前」に言っていたことの方が真理を突いている気がします。確かに職員が手伝わないと終わらない程の作業量は過多というほかありませんが。

無茶な営業や受注をした理由について「生きるためには働かねばならない」「働けるなら社会に出そうという機運が高まっている」と答えていました。社会に出て働いて稼がなければ自立は出来ず、障害者とて例外ではありません。

また、「B型事業所が多様な目的を請け負っている」「自宅から外に出るトレーニングだけしたいなら、それだけの支援を受ければいい。しかし知名度も施設数もないのでB型事業所がその役割になっている」というのも実情を鋭く突いた意見でしょう。一つの事業所に様々な目的の利用者が入ることで温度差が生じています。

「社会に障害者を合わせようとするのは間違い」と諭されてはいるのですが、社会が容易に変わらない以上ある程度自分が変わっていく必要に迫られるのは仕方がないと思います。その為にB型事業所には「一般就労の足掛かり」という役割が与えられているのです。

訓練所なのか居場所なのか、立ち位置をハッキリさせておいて利用者のミスマッチを防ぐことが当面求められるのではないかと思います。

参考サイト

工賃は月に1万7119円。 障害者施設が“やりがい”だけを目標にできない理由とは
https://www.fnn.jp

制度変更による収入減で運営危機も… 障害者支援施設が追うべきは“お金”か“やりがい”か
https://www.fnn.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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