「クィア」という言葉~蔑称から肯定的言語への華麗なる転身

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「LGBTQ+」という単語をご存じでしょうか。セクシャルマイノリティ内でも比率の高いレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの頭文字からとったのが「LGBT」というのは、よく知られた話です。しかし、セクシャルマイノリティの中にもマイノリティがあるため、それらも包括した用語として「LGBTQ+」と呼ぶこともあるのです。

ところで、「Q」はどこから来たのでしょうか。「Q」はクエスチョニング(Questioning)とクィア(Queer)からきており、前者は自身の性自認や性的思考が決まっていない(または決めていない)ことを意味します。後者のクィアはというと、「風変わりな」「奇妙な」「変態」という意味の言葉で、元々は同性愛者に対する蔑称でした。

現在、クィアには蔑称だった頃の面影はなく、俳優のエズラ・ミラー氏も「クィア」とカミングアウトするほど当事者側に馴染んだ言語となっています。珍しくも華麗な転身を遂げた言葉です。

マイノリティと蔑称

どのマイノリティでも何かしら蔑称はつけられているものです。それは弱者に対してだけでなく、強者に対しても(上級国民など)つくのが、人類に遍在するカテゴライズへの欲望を示唆していますね。「クィア」も元々は星の数ほどある蔑称のひとつでした。

クィアとは、風変わり・奇妙・変態といった意味を持ち、英語圏では同性愛者を侮蔑する表現でした。ふつう侮蔑語の類は「お里が知れるから使わないようにしよう」という形で自ずと自粛されていくものですが、キャッチーで使いやす過ぎる侮蔑語は主にネットで使われ続けます。クィアもまた現役で使われ続けていますが、ある時を契機に肯定的な言葉として華麗なる転身を遂げた上でのことです。

閑話休題:オタクも?

蔑称から肯定的な言葉へ転身した言語として「オタク」が挙げられるかと思いますが、私は「オタク」がまだまだ侮蔑語を卒業できていないとみています。ただ、宮崎勤時代から意味は変容しており、現在の「オタク」は「自分を除くいまいち覇気のない連中」という極めて身勝手な三人称を意味しています。

クィアという旗印

「クィア」が侮蔑語を卒業したのは、ほとんどが当事者の力技だったとされています。20世紀末当時の同性愛者が敢えて肯定的な意味で自身らを指して使い、いつしかセクシャルマイノリティが連帯する旗印となった背景があります。

1990年ごろからは、テレサ・デ・ラウレティスら思想家によって「クィア理論」「クィア・スタディーズ」といった、恋愛感情や性同一性を扱う大規模な学問まで成り立ちました。セクシャルマイノリティ側の連帯によって、短期間のうちに「クィア」は侮蔑語からセクシャルマイノリティの旗印となったのです。

ところで、クィアの定義は「異性愛者かつシスジェンダー」の条件を満たさなければ全て当てはまるというぐらい単純なものです。「自分の性別と性自認が一緒で、異性にだけ恋愛感情や性的欲求を抱く」というセクシャルマジョリティ像にどうしても合わない部分が見受けられれば、一旦は「クィア」を名乗ってよいのです。クィア≒セクシャルマイノリティといっても過言ではありません。

定義としてそれでいいのか疑問に思われるかもしれませんが、元々グラデーションになっていて一人ひとりは厳密に違うものです。ガチガチに固め過ぎても「定義に合わない、甘えるな」となるので、大きな括りは必要なのでしょう。

エズラ・ミラーの真意

自身をクィアとカミングアウトした有名人の中で最も有名なのが、俳優のエズラ・ミラー氏です。かねてより同性愛者説が囁かれていたエズラ氏は、2012年に自身がクィアであることを告白しました。「他人を男か女に分けることはしない。」「自分を男とも女とも思わない。強いて言えば人間だ。」「自分は“ゲイではない”。愛に関してはオープンである。」とも述べています。特に「ゲイではなくクィア」という強調は注目すべき点でした。

しかし、世間はエズラ氏を「ゲイ」として扱いました。これを不服としたエズラ氏は、3年後に改めて「愛するにあたって男性と女性の二択を迫られるのは拒否したいという意味で、自身をクィアだと言った。」と補足するに至ります。

人間らしく生きるため2度にわたってクィアだとカミングアウトしたエズラ氏の姿勢は、同じクィアの人々から称賛を集めました。

まとめ

元々は同性愛者への侮蔑語だった「クィア」ですが、セクシャルマイノリティ側が逆に利用したことで連帯の旗印となり、侮蔑語としての意味はほとんどなくなりました。今ではセクシャルマイノリティを包括的に述べた便利な単語となっています。

エズラ・ミラー氏も、自身の恋愛感情が「ゲイ」の範疇に収まるものではないとして、「クィア」とカミングアウトしました。自身に合う言葉があったことはエズラ氏にとって幸運だったことでしょう。

世の中には侮蔑語が星の数ほどあります。大抵は「使う者の人間性が疑われる」として自粛されますが、もしかしたら「クィア」のように当事者の力技で侮蔑語から華麗なる転身を遂げることがあるかもしれません。この点は障害者にとっても身近なことではないかと思います。

参考文献

「LGBTQ」の「Q」とは?「クエスチョニング」と「クィア」の意味を紹介|LGBTメディアNOISE(ノイズ)
https://lgbter.jp

【JobRainbowmagazine LGBTQ+のQとは?【実はよく知らないクエスチョニング・クィア】】
https://jobrainbow.jp/magazine/

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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