「19のいのち」サイトレビュー③~一般から寄せられた様々な声
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やまゆり園事件を受けて開設されたNHK特設サイト「19のいのち」には、一般からのメッセージを募集するフォームがあり、「寄せられたご意見」で掲載される場合があります。更新頻度の高さは事件への関心が途切れていないことを窺わせます。
「寄せられたご意見」には実に様々な意見が投稿されており、植松被告への憤りもあればある種の共感もあり分け隔てなく掲載されています。一つ一つ紹介していくことは出来ませんが、ページそのものの特徴や見渡した感想などは述べられるでしょう。
選別も批評もせず、ただ並べていく
「寄せられたご意見」で徹底されているのは、一般からの投稿をただ並べていくというスタイルです。過剰な選別などは行われておらず、多種多様な意見をそのまま掲載しているのです。中には植松被告の供述にある種の共感を吐露する意見や実名非公表に絡めてマスコミを非難する声もありますが、それらも切り捨てることなく並べています。
「19のいのち」がただ追悼のために開設されたサイトでないことが「寄せられたご意見」から窺えます。「不要な意見はない」というスタンスを貫いているおかげで、「不要な人命はない」というメッセージに説得力がつきました。
一般からいつでも応募しているだけあって、更新頻度はサイトの中でも高い方です。勿論、意見さえまとまっていれば自分から投稿することも可能です。
ちなみに、更新のたびに日付と折り鶴のアイコンがつけられるのですが、折り鶴は犠牲者19人を紹介するページにも一部のアバターとして設定されています。匿名の中の匿名ということでしょうか。
意見も境遇も様々
一般から寄せられる意見は、主旨も境遇も多種多様なサラダボール状態となっております。事件に多大な衝撃を受けたであろう障害当事者や福祉関係者だけでなく、障害者にトラウマのある人や障害を持つ身内を疎んじる人の投稿も存在します。
身内が障害を抱える家庭は、その全てが自分たちなりの幸せや宝を得ている訳ではありません。投稿された中にも、「重度知的障害の弟は療育の甲斐なく他傷したり服を破いたりする癖が収まらなかったので、やむなく施設へ預けた。障害者全てが地域生活できる訳ではなく入所施設は必要だと知って欲しい」という意見がありました。(理由は違いますが、やまゆり園の遺族も何組かは親の介護や配偶者の病気などが合わさって施設へ預けることを余儀なくされていました。)
多くの意見がある中で目立つのはやはり、植松被告を否定しきれなかったり思考に普遍性を見出していたりするなどの意見でしょうか。「19人を悼みます」「事件を風化させないで」「犯人は許されない」という投稿が多い中で、これらは全く異なる色彩と強烈なリアリズムを放っています。(投稿されたものに優劣があると言いたい訳ではありません。)
実際に障害者と接することがなければ知りえないことは山ほどあります。しかし人同士には相性というものがあり、障害者が相手だからといってそれが免除されるわけではありません。障害を持つ身内がいたり福祉関係者や作業所職員などに就いていたりしてもなお「やっぱり駄目だ!」と投げ出しかけている人はいます。
投稿できる文章は
投稿フォームの話もしておきましょう。投稿フォームとなる「ご意見募集」のページには「犠牲者へのメッセージ」「事件への意見」「自分なりの“明日への一歩”」のスペースが用意されており、それらに書き込んだ文章が掲載されるようになっています。どれか1つだけ書いて出すことも可能なので、持論がまとまっていない方でも献花代わりに弔辞を寄せる等してよいでしょう。
掲載の見送りは原則ない筈なので、寄せたいメッセージさえあればいつでも投稿して載せてもらうことが出来ます。連絡先も入力して投稿後の連絡も受けることになるとは思いますが。
障害者にトラウマを持つ人は
実際に障害者からトラウマを負わされた人にはキレイゴトなど通用しないでしょう。大型犬のように追いかけてきたり暴力を振るってきたりする障害者も皆無ではありません。植松被告に賛同するツイートをした人の中には、知的障害者から通り魔行為を受けて顔に消えない傷を負った女性もいます。
「暴漢なら健常者にもいる」「暴力性に健常も障害もない」と言い返したくなる相手ではありますが、障害者そのものへ憎しみに近いトラウマを抱えている以上、そのままにするしかないのではないかと思います。異なる意見を無理に捻じ曲げようとするのは単なる暴力ですし。しかし、「私がエビデンス!」とばかりに優生思想的な言動がみられるようなら止めるべきでしょうね。
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参考サイト
19のいのち 寄せられたご意見|NHKオンライン
https://www.nhk.or.jp
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