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3年前に植松聖被告の凶刃によって19人もの命が奪われた「津久井やまゆり園」。施設は解体され、改築される千木良（ちぎら）園舎と移転先近くに建つ芹が谷（せりがや）園舎に分かれて2021年度から再スタートを切ろうとしています。

ところが再出発が刻一刻と迫る中で運営主体の社会福祉法人「かながわ共同会（以下、共同会）」が不祥事を起こし、大きく水を差される格好となりました。元法人理事で同系列の「愛名やまゆり園」園長もしていた高橋英行容疑者が小6女児への暴行で逮捕されたのです。

これを受け、共同会は千木良と芹が谷の運営から降ろされ、新たな運営者を県が公募することになりました。2020年の半ばまでに公募基準を定め、それに則って運営者を決めていく予定です。

かながわ共同会と高橋容疑者の来歴

共同会の沿革は1989年末の改組からスタートしており、歴史はそれなりに長いです。障害者施設の運営を受託してきており、愛名やまゆり園は2000年に受託して2006年には県の指定管理者制度を受けて運営するようになりました。津久井やまゆり園も2005年に神奈川県で最初の指定管理者制度を受けたうえで運営権を得ています。

高橋容疑者が愛名やまゆり園の園長に就いたのは2014年4月から2019年8月の間でした。去年の11月から12月にかけて数度、知人の娘（当時12歳）に暴行を加えており、今年7月に親族からの通報で犯行が明るみになると8月には地位と職を捨てて隠遁しようとします。しかし保身叶わず10月に逮捕されました。

共同会のほうも事件前から津久井やまゆり園で過剰な身体拘束などを行っていたという告発が出ています。これらの不祥事から黒岩知事は、2021年度から始動する千木良と芹が谷の指定を取り消し、2020年いっぱいかけて新たな運営主体を公募すると発表しました。

ただ愛名やまゆり園など他施設の指定は期限を短縮するに留め、千木良と芹が谷の公募について参加してもよいとされています。黒岩知事は「共同会が公募に立候補することまでは禁じない」とする意向を述べており、再起のチャンスは残しているようです。公募の採用基準に見合った成長が無ければそれまででしょうが。

ダメな法人でも施設にとっては親

共同会は長い間施設を運営しているだけあって、利用者や家族会とは固い信頼関係が出来上がっています。県でもそれを買って、千木良と芹が谷の運営に指定するつもりでした。その為、本来は運営者を公募する予定が無かったのです。

家族会の会長は、一連の不祥事があってもなお共同会を支える意志に揺らぎはないと表明しています。入所者に過剰な身体拘束を強いたばかりか身内から性犯罪者まで出たというのに健気だと思います。ダメな法人であっても施設関係者からすれば大事な親ということなのでしょうか。

県は共同会に対し即時追放よりも数段軽い寛大な処置をとりました。施設運営の急激な変化を避ける意図もあったのでしょうが、共同会の功績や信頼関係なども無関係ではないでしょう。しかし黒岩知事は「他の施設に移った人がより自分らしく生き生きと暮らす姿にショックを受けた」とも述べており、共同会の運営に不満を持つ利用者が居たことを示唆しています。

県知事の熱心さ

個人的な意見ですが、黒岩知事は少なくともやまゆり園のことに対してかなり熱心な方であると思っています。例年の追悼式においても「許されるなら犠牲者一人ひとりの実名と遺影を掲げたうえで行いたい」と述べており、「障害者だから匿名のままなどおかしい！」という立場は明確にしています。

今回の問題についても共同会に対し「あらゆる人間の尊厳を守るべき立場にあるまじき行い」と断罪し、「3年前の植松被告も元職員だったことで法人の在り方について様々な意見が出た」と必ずしもいい評価でなかったことを示唆しています。今後の公募について「利用者一人ひとりに寄り添える団体に運営してもらいたい」と希望を口にしました。

共同会への処置について自ら利用者や家族に説明していく考えも示しており、障害者施設に関する黒岩知事の熱意は並々ならぬものが感じられます。心構え自体はたいへん素晴らしいのですが、その熱心さが疎んじられはしないかという不安はあります。

重度障害者への福祉支援という分野において、黒岩知事が後続を引っ張る側なのか先達に教えを乞う側なのかは判断の付きかねる所です。なんにせよ、公募に受かった団体には障害者福祉の明日を担う一員であるという自覚を持ってもらいたいものですね。

参考サイト

かながわ共同会　法人の歩み
https://www.kyoudoukai.jp