社交不安障害(SAD、Social Anxiety Disorder)について

その他の障害・病気

unsplash-logo Matthew Henry

社交不安障害は、昔からあがり症や人見知り、対人恐怖症としてその一端が世間で知られていますが、それらの違いや、具体的な症状、治療ができることなどはあまり知られていません。このコラムでは、そんな社交不安障害について紹介します。

社交不安障害とは

社交不安障害とは、ある特定の場面や人前で何かをするときに、高い緊張感に襲われ、強い不安や恐怖を感じることによって、次第にそのような場面や社交状況を避けたり、耐えたりする結果、相当な苦痛やストレスがある、または生活に重大な支障が出るという精神障害の一種です。対人恐怖や社会不安障害、社会恐怖と呼ばれる場合もありますが、日本精神神経学会が2008年に社交不安障害に統一しました。

単なるあがり症とは異なり、ある特定の場面や人前で行動することに慣れることはほとんどなく、過剰な不安や緊張に襲われるあまり、自律神経症状(動悸、震え、吐き気、発汗など)が強烈に出てしまうことによって、対人関係がうまくいかなかったり、対人場面を避けるようになってしまい、日常生活に大きく影響します。

生涯有病率3パーセントから13パーセントと言われており、5歳以下など世代を問わずに発症しますが、特に思春期に多く、一般的な不安障害の中で最も発病年齢が低いと言われています。一方で、中年層で管理職につき、人前に出る仕事が多くなったときに発症するといったことも珍しくありません。

自殺を考えたことがある人の割合はうつ病の人よりも多いとも言われており、生涯有病率から考えると、現実に周囲の人が思っている以上の人が障害に悩んでいると推察されます。

社交不安障害の原因

結論から言うと、多くの精神障害と同じようにわかっていません。

原因の一つとしては、その人の気質が関係していると言われています。性格は後天的な側面があるのに対して、気質は先天的な側面があり、遺伝的、体質的に決められている性格の基礎です。外部の刺激に敏感な気質を持った赤ちゃんは、その気質が大人まで確認されていて、その気質が青年期などでの不安障害の発症の危険な因子であることが分かっています。

さらに、そういう気質を持つと脳の偏桃体という部分が過剰に反応しやすく、前頭葉がうまく偏桃体をコントロールできないため、脳内にある神経伝達物質の量のバランスが乱れ、特に恐怖や不安を和らげる働きをするセロトニンの量が低下すると言われています。

社交不安障害の症状

社交不安障害の人が不安を強く感じる場面として最も多いのが、見知らぬ人や、ちょっと知っている人との会話、人前での発言やスピーチで、他には、社会的に立場が上の人との面談・会話、電話対応、受付で手続きをする、人前で文字を書く、雑談、会食などがあります。

このような場面で強い緊張や不安を感じ、頭が真っ白になり何も答えられない、赤面する、声が震える・出ない、手足の震え、めまい、動悸、口が異常に乾く、ほてり、のぼせ、大量の汗をかく、吐き気がある、腹痛、お腹を下す、胃のむかつきなどの症状があらわれます。

また、強い不安に襲われたり、症状による失敗を体験することによって、それらを回避しようと周囲の人との接触や人前での活動を避けるようになり、日常生活へ支障を及ぼしていきます。そのような回避行動がますます症状を悪化させていきます。避けてしまうことによって苦手意識がより強くなっていき、さらに、「また失敗するのでは」という予期不安が強まっていくことで、社交不安障害の負の連鎖に陥っていきます。そのようにして症状が慢性化すると、うつ病やパニック障害などの他の精神障害を発症する危険性もあります。

治療方法

社交不安障害は、前述の通り比較的幼いころに発症することもあり、治療せずに放置してしまうと、人生の節目である進学や就職、結婚などの大切な場面で障害が壁になりやすくなります。しかし、社交不安障害は適切な治療をすれば改善がみられます。

社交不安障害には、薬物療法や精神療法があります。

社交不安障害は脳内の神経伝達物質のバランスが乱れ、セロトニンの量が低下することが原因ということなので、治療では脳内の神経伝達物質のバランスをとったり、セロトニンの量を低下させないようにしたり、不安と身体の症状を緩和することが目的となります。

薬物療法には、強く不安が出る場面や頻度が少ないのであれば頓服薬で対応し、強く不安が出る場面が多く人生に悪影響を及ぼしている場合は、長期間効果が継続する薬で対応します。

頓服薬は主に不安や緊張を軽くするものや、動機や震えを軽くするもの、発汗を減らすもの、吐き気を減らすものなどがあります。即効性はありますが、依存性が確認されているものもあり、連日、長期間の服用には向きません。

即効性はありませんが、作用時間が長く依存性が少ない薬としては、偏桃体の働きを正常にするために、セロトニンを増やす効果が強い抗うつ薬があります。抗うつ薬はどれもセロトニンを増加させる作用がありますが、社交不安障害に適性があるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。名前の通りセロトニンを脳内に残し、結果的に脳内のセロトニンの量を増やします。効果が出てから治療まで数か月から数年という長い期間服用し、薬の血中濃度を安定させてセロトニンを増加させます。そのため、飲み忘れや急な断薬で体調を崩すこともあり、症状が安定するまで薬を飲み続けることが大切になります。

精神療法には、認知行動療法や森田療法、暴露療法などがあります。

精神療法の目的は、今まで避けてきた場面において、無理のない範囲で少しずつ挑戦して苦手意識を払拭したり、自身の性格の傾向や生活の状況に合わせた不安との付き合い方を学び、身に着けていくことです。このような積み重ねで社交不安障害の症状の改善を促し、再発も防止していきます。

社交不安障害は、薬物療法と並行して精神療法をしていくことが良いとされていますが、精神療法は時間もコストもかかるため、日本では実施している病院が少なく、現実的に専門の治療を受けることは難しいのが現状です。日本では医師からアドバイスをもらい、日常生活で実践していくことが求められます。

周りのサポートの必要性

周りの家族や知り合いは、本人がそこまで困っているとは思えないことが多いのです。家庭内や知り合いだけの場面だと症状が出ないことが多いからです。また、本人は性格のせいだと思っていて、障害に気付いていない場合もあります。放っておくと別の精神障害を発症してしまう可能性もあります。

こういった場合、障害について知ることや、一緒に病院に付き添うなど、周りのサポートが必要な場合もあります。治療中は、本人の負担とならないよう今までと同じように接し、改善具合を見守りながら、場面場面にあった対処の仕方を一緒に考えていくことが大切です。

まとめ

私が患っている社交不安障害について説明しました。子どものころから人見知りだと思っていたものが、社交不安障害という診断を受けて驚いたという印象が色濃く残っています。長年染み付いてきた苦手な場面での回避行動はそうそう簡単には治せるものではありませんが、主治医の先生と相談しながら徐々に改善してきているように感じています。

日々の生活に困っている方は、ぜひ一度精神科で診察を受けてみてもらってください。精神科には抵抗があるという方もおられると思いますが、専門性の高い医師がいるのは心療内科ではなく精神科です。心療内科という標榜が認められてから街中には心療内科がたくさんありますが、心療内科は医師ならだれでも標榜ができるので、一般内科の医師もいます。心療内科の専門医は日本では数が少なく、精神科と併記しているところは、精神科の専門医が心療内科もみています。心療内科に行く場合、どのような医師が診察しているかは、病院に行く前に確認した方がいいでしょう。

参考文献

【社交不安障害 – Wikipedia】
https://ja.wikipedia.org

【永田利彦先生に「社交不安障害/社交不安症」を訊く】
https://www.jspn.or.jp

【大切な人が 社交不安症(SAD)になったら…】
http://www.mochida.co.jp

【【精神科医が解説】社会不安障害(社交不安障害)の症状・診断・治療】
https://cocoromi-cl.jp/

【日本の精神科診療所における認知行動療法の提供体制に関する実態調査】
http://ftakalab.jp

そらち

そらち

幼少から人見知りの気質があったが、成人後、社交不安障害の診断を受ける。並行してうつ病も発症する。現在、就労に向けて就労移行支援事業所に通所している。趣味はゲームで、好きなものは甘いもの。

その他の障害・病気

関連記事

人気記事

施設検索履歴を開く

最近見た施設

閲覧履歴がありません。

TOP

しばらくお待ちください