「褒めちぎる教習所」の生き方に学べ

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2年前から、三重県伊勢市の「南部自動車学校」が取り入れる指導方針について話題となっていました。それは「褒めちぎる指導」で、叱るより先に褒めることを軸とした指導方針です。教習所としてはかなり異例で個性的と言えるでしょう。

聞き手のメンタルに負荷をかけないアプローチは称賛を受け、全国から定員いっぱいまで志願者が集まるとされています。そうなると納得いかないのが「教習所は厳しくて当たり前。おれは叱られて育った!」と厳しい旧体質を擁護する人々です。

しかし、南部自動車学校の褒めるメソッドは反対派が妄想し茶化すような浅い次元にはありません。そして、褒める育成が人材のメンタルを守り損失を防ぐ有効な手段となりつつあるのです。

褒め上手は聞かせ上手

自動車教習所の教官は、教習生の下手な所を矯正し危険運転の芽を摘まねばなりません。しかし、頭ごなしに叱ったりネチネチと詰(なじ)ったりしても教習生には入ってこず、ただ心を傷つけられた不愉快な思い出が残るだけです。「どんな心理状態でも運転できるよう鍛えてやってるんだ」とする言い訳も散見されますが、暴論としか言いようがありません。

そこで南部自動車学校が指導に取り入れたのが、「褒めから入る指導」です。下手だったり危険だったりするところは当然指摘しますが、その時も必ず褒める所から始めます。なぜならば、真っ当な指摘でも否定から入ると「この人の言葉は傷つけようとしている。聞かないでおこう」と聞き手の脳が防御反応を取ってしまい、全く聞き入られないからです。最初に褒めれば、よほどの失敗がない限り指摘を聞いてもらえます。

例えば、脱輪してストップした時には「よく止まれたね!」「脱輪したとよく分かったね!」と最初に褒めてから、本題の脱輪について指導します。こうした指導の前の褒め言葉は、師匠でもある一般社団法人「日本ほめる達人協会」が「浮き輪言葉」と呼んでいるものです。

溺れている人はパニックの中にあるため、口先だけで指示しても聞こえないものです。ゆえに、まず捕まる浮き輪を投げて安全を確保してからでないと指示出来ません。同じ理屈で、車で失敗した人は程度こそ違えどパニック状態のため、安心させる言葉を最初にかけるそうです。これが「浮き輪言葉」のロジックです。

人を褒めるには慣れが要ります。南部自動車学校の教官たちは朝礼で互いに褒め合う訓練をし、週に1度は効果的だった褒め方のフィードバックを行っています。

「成長の実感」が大切と感じるまでに成長

南部自動車学校が褒める指導を始めたのは2013年からで、それまでは他の教習所と同じく厳しいスタンスをとっていました。「最近の子は少し叱ると塞ぎ込んで翌日から出てこない」という他所でも考える悩みこそ抱いていましたが、「軟弱な若者は指導できない!どうしたらいいか分からない!ウワァ~~~ン!!!」とはならず、次世代に合った指導で打開しようとしたのです。

そこで先述の「日本ほめる達人協会」に師事し、同法人が行う「ほめる達人検定」の三重支部を任されるまでの褒め上手へと飛躍的に成長しました。運転技術だけでなく褒め方についても指導する立場となり、別の教習所へ「褒めちぎる教習」について教えることもあります。

日本ほめる達人協会は師匠として「成長の実感や成功の体験を提供できる教習所になりなさい」と南部自動車学校に教えました。それが今の若者に求められている感情だからです。

南部自動車学校は師の教えを守り、「教習生が3倍に増えた」「検定の合格率が上がった」「卒業生の事故率が半減した」という大きな誉れを受けることとなりました。「褒める教習」というスタイルを確立し成長させていった南部自動車学校の生き方には学ぶべきところが多くあります。

根強い反対意見

「教習所は厳しくて当然!」と信じていたのが認知的不協和に陥ったのか、南部自動車学校の指導方針に対する心ない誹謗中傷もかなり多いです。実績についても「合格率が上がった?ベタ甘だから当然だろ!」「事故率が減った?ペーパーが増えただけだろ!」と理由をつけて噛みつく始末です。

挙句の果てには「轢いても褒めそう」など人格否定する者もいます。さすがにルール違反の危険すぎる運転には即刻抗議しますが、無責任なネット住民はお構いなしで「褒めちぎる」という上辺だけ取り上げて茶化す有様です。

「車の取り扱いは命のやり取りでもある。だから教習所は厳しいスパルタ教育でないと駄目だ!」「教習所が厳しいのは、どんな精神状態でも安全運転できるようにするための訓練を兼ねている!いわば愛の鞭だ!」

このような言い訳で旧体制を擁護する人は多いです。しかし、厳しく教育されたはずのドライバーでも煽り運転で捕まる者はいます。家庭にも職場にも居場所がなく煽り運転しか楽しみのない50代ドライバーの話もありましたが、彼も世代的に教習所でビシバシしごかれていたはずです。

もう一つ、車とは逃げ場所のない密室です。逃げ場のない場所でひたすら人格を否定するやり方は、カルト教団やブラック企業が研修で用いる手法です。真っ当な人間のすることではありません。「鬼軍曹」が持てはやされる時代はとっくに終わっています。

メンタルへ優しいほうが勝つ世の中へ

教習所の料金スタイルは30万円ほどを最初に払い、補修があればその都度授業料が増えていく仕組みとなっています。基本の授業料は最初に貰っているため、極端に言えば教習生が途中で挫折して辞めようが構いません。しかし、少子化により免許の取得希望者が減っている昨今、そのような考え方が世情に合っていると言えるでしょうか。

車離れが囁かれて久しい今もなお、運転免許証は求められています。なぜならば、携帯性と汎用性に優れた身分証として一定の地位を築いているからです。ゆえに、「車はどうでもいいけど、免許証は必要だから取っておこう」と考えて来ている人も珍しくはありません。

大金を払って自分のメンタルを砕かれに行くくらいならば、同じ値段で自己肯定感が守られる適切な指導を選ぶのが道理です。メンタルに負荷をかけない教習所はますます信頼と好評を得て安泰となりますが、逆に「鬼軍曹」にいつまでも憧れる旧態依然の教習所はいずれ淘汰されるでしょう。

「怒鳴る」「馬鹿にする」「詰る」しか知らないようならば、もはや人に何かを教える資格はありません。人にものを教える礼儀を一から学んで出直してもらいたいものです。それを実践し成長して成功した先例が、南部自動車学校です。

参考サイト

脱輪しても「よく止まれたね」生徒をほめちぎる自動車学校
https://news.livedoor.com

「ほめちぎる自動車教習所」少子化でも生徒数3倍増の理由|ビジネススキルとしての「ほめる力」
https://diamond.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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