吃音の少年を救ったのは「周囲の理解力」~いじりを止めよう、最後まで聞こう

その他の障害・病気

発話障害の中に「吃音」というものがございます。話し言葉が滑らかに出てこない「吃音」は原因が全くの不明となっており、言語発達がよく伸びる2~4歳ごろに0.5~1割程度の割合で発覚するとされています。

西日本新聞が12月4日に取り上げた福岡県内の大学生Kさんもまた吃音を抱える一人です。Kさんの少年時代はまさに「針の筵(むしろ)」と呼べるものでしたが、そんな彼を救い大学まで進学させたのは一体何なのでしょう。

高校時代の出会い

中学を卒業するまでKさんは不遇でした。「はい」の返事一つとっても詰まってしまい、同級生からはしばしば笑い者にされていたのです。国語の朗読も運動会のスピーチも苦痛しかなく、「全部言おうとしないで省略すればいいのさ」と的外れなアドバイスもまた彼を追い詰めていきました。

高校に進学したKさんは、人生を変える出会いをします。九州大病院の吃音外来を受診し、医師や言語聴覚士による専門性の高い発話トレーニングを受けるようになりました。高校になっても相変わらず笑い者にされると相談すると、「クラスメイトにも吃音のことを話してみてはどうか」と提案されます。

改めて吃音について話すのはKさんにとって「賭け」でした。担任が「彼のどもりは吃音症によるものだ。からかったり真似したりしないで欲しい。」と呼びかけます。すると、昨日まで馬鹿にしてきたクラスメイト達が吃音でいじらなくなりました。Kさんの吃音症について一瞬で理解したのです。結果論ですが、こうした理解力の高いクラスメイトにも出会えました。

高校の生徒会に入ったKさんは、全校生徒の前で自己紹介をせねばならなくなります。「このたび書記を務める~」の「こ」で詰まっていると、機転を利かせ「この喋り方は吃音症によるものです。それでも精一杯やらせて頂きます。」と言い換えました。難を逃れただけでなく、校内で吃音をいじられることもほとんど無くなったのです。

大学へ進学してからのKさんはより行動的になり、吃音症の自助グループにも参加するようになりました。卒論のテーマも吃音に関するもので、将来は言語聴覚士の資格が得られる大学への再入学を夢見ているそうです。「同じように吃音で悩む子どもの助けになりたい」という願いからです。

いじりやアドバイスを止める

吃音症の児童に対する適切なアプローチとして、「有明こどもクリニック」はホームページで幾つか要点を述べています。

接し方としては「却って混乱するので話し方のアドバイスをしない」「話は最後まで遮らずに聞き、最後にまとめて再確認する」「吃音が激しい時に5W1Hだけの質問(※)をすると余計悪化するので避ける」が挙げられます。

そして重要なのは、「周りが真似したりからかったりする『いじり』は止めさせる」ことです。「話は最後までしっかり聞こう」と大人たちが示すことが良いモデルになると有明こどもクリニックは述べています。

Kさんの場合、中学までは「話し方のアドバイスをされる」「いじられても庇われない」など不適切なアプローチばかりで苦痛の原因でもありました。しかし高校からは担任が「いじり」を止めさせ、クラスメイトもそれに応えたことで圧倒的に暮らしやすくなったのです。

※:5W1Hだけの質問といえば、アニメ「一休さん」で口癖のように「どちて?(Why?)」と聞いてくる「どちて坊や」がいい具体例だとおもいます。

吃音症の明暗

古代中国、春秋戦国時代末期の思想家である韓非子(韓非とも)は吃音症であったと史記に残っています。韓王に仕えていた頃は吃音症から献策や進言が上手に出来ず冷遇され、異母兄弟などからも侮辱される生活を送っていました。

そんな韓非子を偉人たらしめたのは、彼の抜きん出た文才でした。韓非子の思想を文書で見た秦王政(後の始皇帝)は「凄すぎる!是非一目会ってみたい!」と唸り、様々な手段で韓非子を招こうとしたそうです。秦に招かれてからは丞相にして同門の李斯(りし)に疎まれ、蹴落とされて自害させられるのですが。

2200年以上後の現代に至っても、韓非子のように抜き出た才能を持たなければ吃音持ちは生きていけないのでしょうか。さすがにそのような殺伐とした世の中が続いている筈はありません。周囲が吃音症について理解し、話を最後まで聞く癖をつけることの方が大事です。天才しかまともに生きられないようでは寧ろ息苦しいです。

逆に、吃音をいじって話は好き勝手遮り、的外れな指摘をして難しい説明ばかり求める、吃音持ちに何か激しい憎悪を植え付けられたかのような対応をとればどうなるでしょう。当然、自己肯定感は根こそぎ奪われ精神は極限まで弱り果てます。

その実例が「ゼリア新薬の研修」です。ゼリア新薬と研修を請け負うビジネスグランドワーク社は、ある新入社員に研修で吃音と過去のいじめについて強制的に暴露させるアウティングを行い、自殺に追い込みました。同社の研修は外界と隔絶された空間(帰宅に外泊許可を求める)で軍隊式の生活と徹底した人格否定を行う典型的な「ブラック研修」です。

精神を追い詰め破壊するプロにとって吃音は責めるべき材料のひとつでしかありません。さぞやネチネチと責め立てていたのでしょう。かつて韓非子を疎んで死に追いやった李斯ですら、吃音を詰る行いはしなかったにも関わらずです。韓非子の時代から2200年、吃音を持つ人が生きやすくなったかどうかの答えは未だ保留中といったところです。

余談:吃音症は何の障害にあたるのか

吃音症は何の障害にあたるのか、そもそも障害者手帳が出るのかという点について語らせていただきます。吃音症は発達障害に含まれており、「精神保健福祉手帳」交付(大抵3級)の対象となりえます。「なりえる」ということは、裏を返せば対象に認められるかどうかが曖昧と言うことでもあります。

手帳を交付されるかどうかの分水嶺となるのは、診断書を出す医師が吃音症に詳しいかどうかです。吃音症の知識がある医師ならば手帳の条件に当てはまる診断書を書けますが、そうでなければ交付理由を説明することは出来ません。

一方、重度の吃音であれば「身体障害者手帳」を交付される可能性もありますが、これはレアケースです。身体障害と認められるほどの吃音は、例えば自分の名前を言うのに1分かかるなどのレベルで、口頭でのコミュニケーションが極めて困難な場合しか該当しないそうです。

参考サイト

からかい乗り越え…高1で吃音告白、周囲が変わった|西日本新聞ニュース
https://www.nishinippon.co.jp

吃音(どもり)|有明みんなクリニック・有明こどもクリニック総合サイト
https://child-clinic.or.jp

韓王が韓非子を評価しなかったのに秦王政(始皇帝)が評価した理由
https://imazinnsei.com

ゼリア新薬の22歳男性「ある種異様な」新人研修受け自殺 両親が提訴
https://www.buzzfeed.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

その他の障害・病気

関連記事

人気記事

施設検索履歴を開く

最近見た施設

閲覧履歴がありません。

TOP

しばらくお待ちください