日本人が「精神科受診」や「心の病気」に対して抱く誤解と偏見

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出典:https://unsplash.com

今日でも、日本人の多くは「精神科受診」や「心の病気」に対して誤解と偏見を抱いています。その背景には、日本人特有の「頑張り」を要求する精神論や「恥」の文化があるとある専門家は指摘しています。それに対し、アメリカでは、こういった問題は全く「恥」だと考えられていないとその専門家は指摘しています。今回は、自身の体験を通して、精神的な面で「後進国」である日本が直面している課題を皆さんにお伝えしたいと思います。

大学入学前後の経緯

2年の9月に高校を中退した私は、3年生に当たる年に大学入学資格検定(現:高等学校卒業程度認定試験)の全試験科目に合格しました。しかし、大検に合格して得られるのは、あくまでも「大学を受験する資格」であって、「大学に入学する許可」ではありません。大検は「諸事情で高校を卒業できなかった生徒に大学を受験する資格を与える」ための救済試験であり、ふるいに掛けることを目的として行われる大学受験に比べれば、格段に合格しやすいのです。

独学で受験勉強をしなければならないという言いようのないプレッシャーと、小中高でいじめられた体験の激しいフラッシュバックとのために、18歳になる年に精神科医の先生の診察を受けるようになりました。そして、三浪の末、東京の私立大学に入学できました。

私が入学できたのは、俗に「一流大学」と言われる大学でした。「高校中退」という経歴を気にするあまり、「簡単に入れる大学に入ったのでは、周りの人たちから馬鹿にされるだろう」と思い、必死で受験勉強をしました。下宿が決まり、入学を目前に控えた3月30日、受験勉強の緊張とストレスから解放された私は、ものすごく長い時間、昼寝をしてしまいました。5時間ほども眠っていたかもしれません。この昼寝のせいで、睡眠のリズムが狂い、昼夜逆転の生活に陥ってしまいました。

4月の新入生オリエンテーション合宿の後、昼夜逆転の生活に陥っていた私は、ほとんど授業に出ることができませんでした。特に、1年の前期の出席率はひどいもので、ほとんど全ての先生から、「単位は出せない」と言われるようになりましたので、東京での主治医の先生に診断書を書いて頂き、全ての先生に提出しました。その中でも、「メンタルクリニック」を受診しているという理由で、私に強烈な偏見でもって接してきたのが、体育実技の先生と「英作文(1)」の先生でした。

体育実技の先生から受けた偏見

4月の最初の授業を欠席し、翌週の授業が始まる直前の空き時間に、「病気で欠席しました」と先生に伝えると、「病気で出来ないのなら、見学に来てもらわなければ困る!」と言われました。また、連休直前の授業を欠席し、連休明けの授業が始まる直前の空き時間に事情を説明すると、「ウォーキングラリー(連休中に大学が主催する、山道を歩く行事)に出れば、一回分出席になるぞ!」と言われました。

大学の学生相談室の紹介で私が東京での主治医の先生にかかり始めたのは6月下旬ごろで、それまでは従来の先生に薬を送って頂きながら、学生相談室の精神科医の先生に週一回、相談に乗って頂いていました。

8月には、私が自転車で走っていると、車に停止線を越えてぶつかられるという交通事故に遭いました。幸い怪我はありませんでしたが、そのことをこの先生に言うと、「交通事故なら、ちゃんと診断書を出してもらわないと困る!」と言われました。

結局、1年の前期で、体育実技の授業は10回欠席してしまいました。後期からは何とか授業にだけは出られるようになったのですが、診断書を受け取り、私がメンタルクリニックを受診していることを知った先生は、いつも授業が始まる直前の空き時間に私を呼び出し、こう言いました。「欠席も9回までなら単位は出るが、10回以上になると出ないんだよ」と。しかし、「単位は出せない」と言うにも関わらず、授業中には思いっきりしごかれます。そして、授業の後の昼休みに、いつも私だけが呼び出されます。この先生は煙草を吸いながら、「早くお前が薬なしでやっていけるようになるように!」と私に延々と説教をするのです。説教の要点は、「うつ病や睡眠障害なんて甘えからくるものだ!毎日大学に来て、ちゃんとやるべきことをやっていれば、そんな病気は自然と治るはずだ!」というものでした。

この先生の口調からは、「精神科の薬なんて麻薬と同じだ!」という強烈な偏見がありありと感じられました。父親に「体育の先生が厳しいので辛い!」と電話で言うと、「体育の先生も自分の体育をやってもらわんと立場がないのだろう」という答えが返ってきました。最終的に単位はもらえたのですが、この先生のことは今でも忘れられません。

「英作文(1)」の先生から受けた偏見

「英作文(1)」という授業を担当している先生から受けた偏見もものすごいものでした。私が診断書を出した時に、この先生には、ものすごく表情を歪められました。まるで「ウギャー!」と叫んでいるような表情でした。

この先生からは、授業中にみんなのいる前でこんなことを言われました。「昨日の授業を休んじゃったから、ノートを貸してくれる?」という日本文を英訳する問題がたまたまテキストに出てきた時に、「『病気です、病気です』と言ってズルズル休み続けるよりも、黙って医者の診断書を出す方が、百倍威力があるんですよ」と。

この先生からは、クラスの誰が聞いても私のことだと分かる当てこすりを授業中に数えきれないぐらい言われました。最後の方の授業でアンケートがあったので、私は、「この先生に授業中に当てこすりばかり言われるので嫌な思いをさせられ続けた」という苦情を書きました。すると、この先生はその報復として、学年末試験に、「昨日の授業を休んじゃったから、ノートを貸してくれる?」を出題しました。結局、この授業でも単位はもらえましたが、その後しばらく経っても、「本当にひどい先生だった!」と憤慨(ふんがい)していました。

この他にも、これらの先生と同様に強烈な偏見でもって私に接する先生がいました。「英語講読」という授業を担当している先生からは、授業中にクラスのみんながいる前で、「△△△君(私の名前)、君、頑張るんだよ!早くまともな世界に戻れるように!」と言われました。

1年生の時の単位はほとんどもらえましたが、これらの偏見を受けた体験は、本当に耐えられないほど辛いものでした。

日本人が抱く「心の病気」に対する誤解

アメリカでサイコロジストとして精神科医療に携わり、『アメリカ人は気軽に精神科医に行く』(ワニブックス刊)を上梓した表西恵(おもてにし・めぐみ)先生は、自身のブログで「心の病気」について、以下のことを書いておられます。

「『心の病気』というと、『本人の頑張りが足りないからかかる』、『本人の心が弱い』などという精神論的なイメージがつきまといますが、それは大きな誤解と偏見です。『心の病気』は医学的には、『脳内で器質的・機能的なトラブルが起こっている状態』だと説明できます。その影響で学校や仕事に行きたくなくなったり、今まで楽しんで行っていた活動に興味が持てなくなったり、やる気がしなくなったり、何をしても楽しめなくなったり、倦怠感を感じたり、不眠・過眠に陥る、という症状が起きるのです。精神力を持って耐えても隠しても、むしろ症状を悪化させるリスクが高まります。実際、私が診た日本人患者で『心の病気だから私の頑張り次第でどうにかなる』と頑なにカウンセリングを受けるのを拒み、薬も飲まなかった受動的自殺願望をもつ重症のうつ病患者がいました。」

日本独特の「恥」の文化

表西先生は、前出のブログで、日本人の多くが抱く「精神科受診」や「心の病気」に対する誤解と偏見の背景に、日本独特の「恥」の文化が根付いていることを見抜いておられます。そして、「精神科受診」や「心の病気」をめぐる日本人とアメリカ人との意識の違いについて、以下のことを書いておられます。

「日本独特の『恥』の文化とは違い、アメリカ人は悩みごとや問題を日本人と比べて『気軽』に話します。自分独りで抱え込まないという『ヘルプ・ミー』の姿勢が多くみられます。『悩みごととメンタルヘルス問題=恥=隠す』という考え方はアメリカ人には一般的にありません。個人個人で問題の受け止め方は多種多様であり、悩みごとの内容によって相談するレベルかそうでないかというのは個人に任せられる判断だという、個人主義が徹底している文化だからです。例えば、失恋やペットの死といった、多くの日本人が、医療保険を使ってまでプロに相談することを疑問に感じるような問題でも、アメリカ人は相談しにくるのです。」

自殺に追い込まれる寸前まで専門家に頼らずに「頑張ろう」とする日本人と、身近な問題でも気軽に専門家に相談するアメリカ人。日本はこの半世紀で物質的な面での「欧米化」はずいぶん進みましたが、精神的な面での「欧米化」はまだまだだと言えそうです。

まとめ

私をひどい偏見で苦しめた大学の先生たちは、もしそのことを私に糾弾(きゅうだん)されていれば、おそらくこう答えたことでしょう。「ずっと大学に来ないお前のことが心配でたまらなかったんだよ!」、「お前のことを放っておけなかったんだよ!」、「お前がずっと大学に来ないままの状態でいていいわけがない!」と。確かに、大学教員としてそう思うのは仕方がないのかもしれませんが、これらの先生に「精神科受診」や「心の病気」に対する正しい意識と認識があったとは思えません。

私が大学1年生で、これらの先生たちから偏見を受けて辛い思いをしたのはもう20年近くも前のことです。それなので、今日の日本では、もう少し「精神科受診」や「心の病気」に対する意識や認識は変わっているのかもしれません。しかし、一般的な視聴者の目に「精神的におかしい」と映りかねないタレントを「メンヘラ」などというネットスラングで呼ぶ今日の日本の文化を考えれば、「日本にはまだまだ精神科受診や心の病気に対する誤解と偏見が根付いている」と思わずにはいられません。

参考文献

表西恵、「【寄稿】気軽に精神科に行くアメリカ人、我慢する日本人」、「意見をつなぐ、日本が変わるBLOGOS」
http://blogos.com

サンライズ

サンライズ

40代の男性。2年生で高校を中退。その年にメンタルクリニックを受診し、抑うつ状態と診断される。うつ病と闘い、自身の発達障害を疑いながら博士課程に進学するも、博士号は取れずじまいで単位取得満期退学。これを機に、それまで主治医の方針で「疑い」のまま保留になっていた自閉症スペクトラム障害の診断を受ける。現在は一人暮らし。趣味は読書、音楽(邦楽)観賞、YouTube、クイズ番組を観ること。

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