「19のいのち」サイトレビュー①~19名の犠牲者を悼んで
その他の障害・病気相模原障害者殺傷事件で犠牲となった19人を悼むべく開設されたNHK特設サイト「19のいのち」。こちらには19人の生きた証や寄せられた感想などサイト自体の内容だけでなく、それを様々な方向から読み取って咀嚼していくことで、非常に多くの情報量を実感できます。
今回は「19のいのち」のサイトレビューを行っていきます。19人に関する遺族や職員らのコメントだけでなく、事件を振り返る関係者や専門家の声・寄せられた様々な意見など、何度も読み返す中で様々な事を実感して頂きたいものです。しかし、自身の過去や差別意識といった暗部に向き合う事にもなりますので、疲れない範囲での閲覧を推奨します。
何回かに分けてサイトの要約やレビューを行っていきますが、最終的には自ら確かめるのが早いと思います。ただサイトとしては膨大なので、コンパクトにまとめる意義もまた存在します。今回はメインである「19のいのち」にフォーカスしていきましょう。追々「専門家の声」「寄せられた意見」「サイトに対する外部の感想」についても書いていく予定です。
19人の情報量はバラバラ
「亡くなった19人の方々」では、犠牲者19人の情報(年齢と性別と生前の様子)が並んでおり、それぞれについて遺族や関係者のコメントが掲載されています。コメントの数については各々で大きなバラつきがあるのですが、これについては後述します。
19人のアバターとして「似顔絵」「思い出の品」「折り鶴」のイラストが描かれています。アバターを描いたイラストレーターのヨネヤマタカノリ氏によると、「亡くなられた方々のエピソードに即した“思い出の品”を、ご遺族の承諾が頂ければ“似顔絵”を描いた」とのことです。内訳は、似顔絵が6人・思い出の品が9人・折り鶴が4人です。
ここで気になるのが19人中4人の“折り鶴”です。思い出の品として描かれたシンボルはヨネヤマ氏の発言通りエピソード内から選ばれています。例えば、香りを好んだ人ならラベンダーとミント、北島三郎のファンだった人なら「三郎」と書かれた湯呑みが描かれています。折り紙に関するエピソードが確認されていないので、折り鶴は仮シンボルのようなものといえるでしょう。
実は数行のコメントしかない人が4人おり、内訳は1人が“思い出の品”で3人が“折り鶴”となっています。「家族」というワードがあるので面会はあったようですが、「これ以上書くことがない」という雰囲気も感じられます。生前はあまり目立たないタイプだったのでしょうか。
ただ、後々の更新でコメントが追加される可能性もゼロではありません。サイト開設当時は遺族や関係者の混乱も激しくコメントがまとまらなかったのですが、時間が経つにつれて生前の思い出やエピソードがまとまって現在の形になっています。
個人的に印象的だったコメント5選
19人分読んでいった中で個人的に印象的だったコメントを5つ取り上げます。原文ママでは載せられないので文意を崩さない範囲でリライトしておりますが、ご了承ください。
・後で名前を知り初めて泣いた(70歳の女性を担当した元職員)
昔の職場とはいえ、事件当初は匿名報道もあって遠い世界のことと考えていました。しかし、犠牲者の中に昔担当させていただいた方が含まれていたと人づてに聞き、そこで初めて泣きました。
・はじめはそっとして欲しかったが…(41歳の男性の両親)
息子が凶刃に斃れたのは、5日間の短期入所中のことでした。はじめはそっとして欲しくて黙っているつもりでしたが、犯人を褒め称える声があると聞いて考えが揺らぎました。ヘイトクライムの再発や障害者差別の強化に異議を唱えるため、そして何より息子の死を無駄にしないために自分たちの意見を表明していきます。
・匿名を望んだ理由(55歳の男性の弟)
事件で兄を失った後、長年の知人から「ご愁傷様だけど、(結果的に解放されて)良かったでしょう?」と言われてとても悔しい思いをしました。兄は大切な家族ですし、幾度となく我々を支えてきました。それでも苛烈な差別の目を向けられるのが怖くなり、自ら匿名を希望したのです。
・非公表の理由に納得(65歳の女性の弟)
私は姉が障害を持っていることを恥ずかしいとか隠したいとか微塵も思っていなかったので、実名を公表しないと聞いたときは「なぜ非公表にするのか」と真剣に疑問でした。しかし、私自身が妻と結ばれる際に猛反対する人がいた経験から、身内に障害者がいるだけで差別を受ける現実を思い出したのです。各家庭の事情に配慮し、私も非公表に賛成しました。過剰な取材などもなく静かに葬儀を終えることが出来、その面では正しい選択だったと思います。
・囲碁の好きな人だった(49歳の男性を担当した元職員数名)
毎週日曜は囲碁や将棋の番組を欠かさずチェックし、囲碁の月刊誌を広げながら手を考えていました。将棋の相手をしたこともあり、かなり強かったのを覚えています。
植松被告は職員時代に何を見たか
犠牲となられた19人にはそれぞれの人生があり、各々が自分なりの思考でもって生きていたことが「19のいのち」には記されています。読んだ限りでは、少し頑張れば一般就労まで出来そうな人も結構いました。元職員であった筈の植松被告には彼らが見えなかったのでしょうか。
植松被告は職員時代に「喜びを示さない入所者」「一向に来ない家族」へ苛立ちを募らせ、勤務態度が悪くなっていった経緯があります。しかし「19のいのち」には、喜怒哀楽を全身で表現する入所者や定期的に会いに来る家族の姿が記されています。「施設へ預けてから一度も会いに来ない家族は実際に居る」と元家族会長も語っていますが、それはごく一部でしょう。
職員時代の植松被告にとって、ごく一部の心ない家族や意思表示の極めて困難な入所者は目立つ映り方をしていたのでしょう。面会に来る家族や喜びを伝える入所者には目もくれず、「生産性」のエビデンスを固めるものばかり見て過ごしていたのだと思います。
これは社会心理学用語で「確証バイアス」といい、自分の信念や仮説を肯定することしか覚えない認知の歪みを指します。社会心理学で扱うということは、ほとんどの人間が陥りやすいことを意味しています。確証バイアスを自覚する機会があれば、潜在的な差別欲求に打ち克つ助けとなるかもしれませんね。かなりの回数で恥をかく必要がありそうですが。
「19のいのち」サイトレビュー②~専門家からのメッセージ
https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=1461
参考サイト
19のいのち – 障害者殺傷事件 – TOP|NHKオンライン
https://www.nhk.or.jp
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