B型事業所、「居場所」としての道

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出典:Photo by Jed Owen on Unsplash

就労継続支援B型事業所とは、A型と違い雇用契約を結ばずに事業所ごとの作業へ従事する形でサービスを利用するものです。一応、作業報酬として工賃が支給されますが、雇用契約がない以上その額は極めて低く、人によっては通所と昼食で赤字になる場合も珍しくはありません。

B型事業所が法的に課せられた使命とは「一般就労が難しい障害者を就職させる」というものですが、実際に一般就労へ繋がったケースは少なく、全体の1%程度であると言われています。

生活できる程の工賃もなければ一般就労への道筋もないB型事業所が大半ですが、それでも「障害を持つ方々の居場所として運営しています」と言い張っているものです。しかし、「居場所」となるのも難しいことを理解している事業所は果たしていかほどの割合でしょうか。

「居場所」と簡単には言うけれど

日本財団のアンケートによれば、工賃向上を目指さない事業所が理由として挙げていたのは「働く喜びと工賃は関係がない」「工賃より優先すべきことがある」「日中の居場所を提供するだけで十分」が主でした。最初から居場所を目指して設立していたり、やむを得ない事情(後述)で工賃を上げる行動がとれなかったりする事情はあるでしょう。

しかし、「工賃上げるのは難しいから、うちは居場所でやっていく!」と軽い気持ちや消去法でやっている事業所も存在しているのではないでしょうか。「居場所」を現状維持や低工賃の言い訳にするような施設運営で、その「居場所」としても疑問符の付くような施設です。

ひとくちに居場所と言っても、障害者と社会の接点作りだとか外出する理由作りだとか様々ですが、少なくとも施設だけ構えて変化を拒み安穏とし続けようとする態度は居場所と言えないでしょう。固定化された人間関係に甘えっきりでもいけません。

B型事業所を「居場所」として運営するために何が大切かまでは分かりませんが、少なくとも高工賃や就労支援が出来ない時の「滑り止め」でなれるものではない筈です。「利用者には友達感覚で接していればいいだろう」などの軽い考えは、合わない人にはとことん合いません。

ちなみに、工賃を重視しない運営スタイルは昔「授産施設」と呼ばれていた頃の名残という説もありますが、これは誤りです。再編される以前、2000年の段階で既に低工賃という問題点が指摘されていました。「月刊ノーマライゼーション 障害者の福祉」の2000年9月号では「なぜ授産施設の工賃は低いのか」について考察がなされており、20年後の現在にも通じる内容となっております。

利用者同士の温度差も大きい

日本財団のアンケートには自由記述の項があり、そこから得た頻出ワードから回答者(事業所職員)の気持ちや事情を推し量っていました。「居場所」を含む自由回答から垣間見えるのは、事業所の努力だけではどうしようもない「利用者同士の温度差」の問題です。

最終的に就職を目指す利用者から工賃や就労より居場所を優先する利用者まで、同じ事業所にいるのは珍しい話ではありません。多様なニーズや価値観を一つの事業所でカバーするには限界があり、「居場所」になるのが難しい一因にもなっています。

また、居場所にも様々な意味があり、「日中の居場所」「社会との接点」だけでなく「利用者家族のレスパイト的な役割」まで挙がっていました。レスパイトとは、介護者を休ませ介護疲れを防止するために、一時的に病院や施設へ預ける仕組みのことです。

B型事業所はより低い志向とより重い障害に合わせる傾向が強く、「居場所を目指す」と「工賃や就労支援」が対立しているイメージにも繋がっています。

B型に頼らざるを得ない人、出られない人

アンケートの自由記述からは、やむを得ずB型事業所を利用することになった人やB型事業所以外に行くあてのない人など、様々な事情が赤裸々に語られています。

生活介護が受けられず、代わりに
「生活介護」も頻出ワードで、内容を見ると「定員オーバーなどの理由で生活介護施設に入れず、代わりとしてB型事業所に通っている」という事情が分かります。実際に「B型事業所と生活介護施設(通所型)の違いが分からなくなった」という声もあり、殊更重い程度の障害を持つ利用者へ合わせるとなれば就労支援どころでなくなるかもしれません。中には「重い障害を持つ人が多いなら、B型を辞めて生活介護を始めればいい」という意見もありました。

高齢化による諸々
「高齢化」の単語からは、利用者の高齢化から作業効率の低下や時間の減少が起きており工賃どころではないという状況が浮き彫りとなっています。高齢の障害者には介護保険を受けられない人もおり、年齢上限のないB型事業所が最後の受け入れ先となっている事情もあるでしょう。また、30代や40代の時点で就職が非常に難しくなっており、年齢と障害からB型事業所を出られないことも考慮すべきです。

生活保護を切られたくない
「これを言うと生活保護バッシングに悪用されるかもしれませんが、生活保護を切られるのが嫌で工賃アップや就職活動に消極的な利用者もいます」という意見もありました。一定以上の月収があると生活保護が減額されるため、手取りが変わらずにモチベーションが上がらないのだそうです。収入が上がらないのもまた停滞する一因としては有力でしょう。

施設長の責任か利用者の価値観か

B型事業所が「居場所」として機能しているかどうかは、施設長や職員の態度によるところが大きいように感じます。ただ、利用者ごとの価値観や嗜好で決まる部分も否定はできません。

昔いた事業所の施設長は「みんな仲良く」をモットーに友達感覚で接するタイプでした。ある日、外出作業の道すがら滅多に通所しないレア利用者と偶然会った時のことです。その利用者が新品のカメラを持っていたとかどうとかで、施設長は「記念撮影をしよう!」と言い出し、断りなく路上で記念撮影に巻き込んできました。

これは決して良い思い出ではありません。「友達だからいいよな!」と勝手に友達認定して対人距離の調整を放棄した挙句、恥ずかしい行いに巻き込んできたのです。しかし、彼に親しみを抱く利用者も多かったので、これでも「合う人には合う、合わない人には合わない」という領域の話ではないかと思います。

A型に居た頃、ある利用者が前に居たB型事業所についての思い出話をしていました。内容までは覚えていませんが、話す様子は晴れやかで余程いい事業所だったことが伝わってきました。さて、「居場所」かどうかは受け取る利用者側の問題なのでしょうか、それとも事業所を運営するスタッフの資質に因るのでしょうか。

参考サイト

就労支援B型事業所に対するアンケート調査報告書|日本財団(PDFファイル)
https://hataraku-nippon.jp

「工賃」はなぜ低いのか|月刊「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2000年9月号
https://www.dinf.ne.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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