バリアフリー研究家がエスカレーターに注目しているワケ
暮らしPhoto by Vladimir Gladkov on Unsplash
エスカレーターは、急いでいる人のために片側を開ける高速道路のような乗り方が自然と為されていますが、実は安全面としても設計上としても間違った乗り方で、本来は片方にばかり寄らず止まって乗るのが正しいそうです。従って、正しい乗り方がマナー違反となっているいびつな状態となっています。
それに、エスカレーターで歩く人は上手く避けているつもりかもしれませんが、実際は思うほど通り抜け出来ていません。高齢者や妊婦がぶつかって転ぶ事故はあちこちで起こっており、特に全盲の人からは「バッグなどがぶち当たって怖い」「盲導犬を蹴られた」という体験談も上がるほどで、今日もどこかで誤ったマナーのしわ寄せを受けています。
普段はバリアフリーをメインに研究されている、アール医療専門職大学の徳田克己教授。彼は「社会が進む中で新たなバリアも生まれている」として、エスカレーターに注目しています。技術やテクノロジーの進歩によって自然発生したバリアを調査することもまた、バリアフリーの研究において大切なことなのでしょう。
私なんかは単純に「近くの学校から体育教師を連れて来て、監視させて怒鳴らせればいいのでは」と考えてしまう訳ですが、そんな浅薄な考えが許されるような問題ではありません。なにしろ、全国で初めて条例化した埼玉県の結果が芳しくなかったくらいですからね。相当根の深い問題です。
一方、同じく条例化した名古屋市ではデータの計測こそ済んでいないものの、徳田教授の体感では埼玉の先例よりも効果があったそうです。つまり、どちらを空けるでもなく立ち止まる本来の乗り方が実践できている訳です。エスカレーターの右と左どちらを空けるかは、東日本と西日本で正反対なのは有名な話ですが、その境目にあたる名古屋は特に決まっておらず曖昧な部分があります。そういう土地柄も理由の一つではないかというのが徳田教授の推測です。
エスカレーターを正しく乗るためには、先に与えるべきものがふたつあります。ひとつは「対案」です。ただ歩くな止まれと唱えるだけならば簡単ですが、納得はされないでしょう。そこで、「左右どちらに乗ってもいい」とアドバイスします。実際に名古屋では、土地柄も合わさりこのプロモーションで成功しています。
もうひとつは「気づき」です。エスカレーターで歩いたり走ったりすると、妊婦や高齢者や視覚障害者などがぶつかって怪我をすることがあることを、その重大性とともに周知してもらいます。自分が転倒事故の加害者になるかもしれないという「気づき」を与えれば、自ずと行動も変わるだろうという期待が持てますし、説明にもなります。
しかし、対案や気づきだけで行動が変えられるとは限りません。徳田教授は、啓発だけで減った車内通話と、啓発だけでは効果が無かった歩きタバコを挙げ、啓発だけで変わるものとルール作りを要するものの二通りがあるとしています。勿論、その基準や境界線は分かりません。ただ、どちらにせよ他人への思いやりを育む道徳教育は必要とも語っています。確かに、理解するには土壌が必要ですからね。
参考サイト
「盲導犬を蹴られる」エスカレーター片側空け問題、条例施行でどうなった?
https://sdgs.yahoo.co.jp
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