オムロンの新たな顔認識システム開発は障害者雇用の一助になるか

暮らし
Photo by Markus Spiske on Unsplash

オムロン株式会社が、従業員の体調変化を把握するシステムに「顔認識技術」を盛り込んだ開発をおこなっていくと話題になっています。新システムは工場で働く知的や精神の障害者を想定しており、ゆくゆくは商品化して社外にも販売する予定だそうです。

顔認識技術を障害者雇用の一助にしようというプロジェクトなのですが、この両者はなぜ繋がるのでしょうか。体調不良を訴えにくい知的障害者などの不調を自動でキャッチするシステムこそ、障害者の長期雇用に繋がるからです。体調の可視化で対策しやすくなるというわけですね。

社内システム「アイベルト」を基に製作

かねてよりオムロンは、自身の特例子会社であるオムロン京都太陽に「i-BELT(アイベルト)」と名付けられたシステムを導入していました。アイベルトは製造現場で働く従業員の状況を把握するためのもので、予定が大幅に乱れている作業員に素早いアプローチができるようになっています。

今後、アイベルトに顔認識データを蓄積していき、作業状況のデータと照らし合わせることで体調の変化を素早く察知できるようにしていくそうです。アイベルトは社内専用のシステムですが、顔認識技術の導入が成功すれば社外にも販売できるようにしていくことも検討しています。

要するに顔つきの微妙な変化から体調の変化を読み取るシステムです。オムロン側はこれを障害者雇用の一助として役立てたいとしていますが、なぜ障害者雇用に繋がるのでしょうか。

障害や程度によりますが、知的や精神の中にはコミュニケーションのやり取りが困難な人が多くいます。単純に言葉のやり取りができなかったり、体調が悪くても言えなかったり、そもそも体調の変化にすら気づいていなかったりします。そうした人々にも適切なアプローチができるように、自己申告以外で体調をチェックできる方法を確立する必要があります。

そのひとつの形が、今オムロンで作られている顔認識機能付きのアイベルトというわけです。確かにこれが広まれば、コミュニケーションを取らなくても体調が分かって便利ですし、雇える障害者の範囲も広がるのではないかと思います。

障害者に限らず有効

多くの人はこうした取り組みを障害者の為だけのものと勘違いしておりますが、障害者のみならず全ての労働者にとっても恩恵があります。かつて車椅子向けに設置されたエレベーターが、高齢者から階段を使いたくない人まで多くの人にとって使いやすいアイテムとなったようにです。

顔認識の体調管理システムは障害者の従業員を想定してはいるものの、健常者の顔を見ないわけではありません。健常者にとっても、わざわざいわなくても体調の変化が伝わる便利なツールとして機能してくれるはずです。

たまに「障害者ばかり優遇せず、健常者向けのものも作るべきだ」と不公平論を展開する御仁が居ますが、バリアフリー化は健常者にとっても便利で利益のあるものです。ユニバーサルデザインの「なるべく多くの人間にとって使いやすく」という理念です。

「豚に真珠」で終わらないか

聞いている限りでは素晴らしいシステムです。中重度の知的障害者と接したことのある方ならば、いかに夢のある技術か分かっていただけるでしょう。「明らかに調子が悪そうなのに、言語化できないからどこが悪いのか分からずどうしようもない」というモヤモヤが減るかもしれません。

懸念されるのは、これほどのシステムが「豚に真珠」で終わってしまわないかどうかです。オムロンでは商品化まで検討されているので、広告や営業も上手くやると思います。それでも、実際に障害者を雇う企業が魅力を理解できなければ水の泡です。

雇用する障害者を単なる数合わせと捉えているか会社のメンバーとして迎えているかは、オムロンらが磨いている真珠の値打ちを理解できるかどうかで分かれてくるでしょう。よりによって一番真珠の価値を分かっていない貸農園ビジネス等がポーズのために大人買いするビジョンもあるかもしれませんが。

民間の工夫はそこかしこで

法定雇用率を満たす企業が一社でも増えるように、障害者雇用の心理ハードルを下げるための取り組みが様々な民間企業でおこなわれています。

就労支援施設などを運営するカムラックでは在宅ワークの実証実験を半年前から続けており、障害者にとって働きやすい環境づくりへのデータを収集しています。カー用品大手のオートバックスセブンも障害者がAI開発業務に携われるよう、初歩的なデータ入力を想定した使いやすい入力機器の開発を進めています。

民間が頑張っている中で公はどうかといいますと、国は水増ししていた分の補填に追われ、一部自治体は数合わせのために貸農園ビジネスを救世主と崇めている有様です。とはいえポーズだけで無意味なことしかしないのも困るので、見えないところで障害者雇用の促進に貢献しようとしていると信じるしかないのですけれども。

参考サイト

顔認識技術で障害者らの体調を予見 オムロンがシステム開発へ
https://news.yahoo.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

関連記事

人気記事

施設検索履歴を開く

最近見た施設

閲覧履歴がありません。

TOP

しばらくお待ちください